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卒業制作について Vol.2 (制作物)

京都芸術大学 通信教育部 デザイン科 グラフィックデザインコース 2023年度卒業制作を補足する記事をご用意しました。

私の卒業制作それ自体についてはWEB卒展ページからご覧くださいませ。

Vol.2では、本卒業制作の具体的内容について補足します。


1 対象は高校生

Vol.1で述べたとおり、私の卒業制作は、法を「読む」ではなく「みる」対象として捉え、「法を、みる。」というコンセプトをもうけて行うことにしました。しかしこれは、法の表現形式を疑ってみるという壮大なプロジェクトのため、現実的なところに落とさないと収拾がつかなくなります。

そこで最終的には、高校生を対象として「法を、みる。」を実践することにしました。

選挙権年齢や成人年齢が18歳に引き下げられた結果、高校生のうちに政治の仕組みや社会のあれこれについて学ぶ、主権者教育、シチズンシップ教育、法教育の必要が数年来話題になっているかと思います。教育現場では、座学にとどまらず、模擬議会や模擬投票といったアクティブな授業が各所で実施されており、工夫のしがいがありそうな領域です。答えのない世界ですし、主権者教育の課題にも挑戦してみるという意義も生まれます。


2 ワークショップの企画と実践

2023年9月、出身高校で「法を、みる。」をコンセプトとするワークショップを行いました。私が現役生の時にお世話になった先生がまだいらっしゃり、その縁あって実現しました。このワークショップは、土曜日に開催される課外講座の一部だったので、自由にやらせていただきました。

このワークショップの骨子は以下の通りです。

  • 講師の先生からヒント出し

  • ヒントをもとに、学校をグループで歩き回ってよく観察し、隠れた法(ただしカタチとして現れているもの)を探す

  • 見つけた法を写真に撮ってきて、それがどのような法かをグループで考え、これをもとにオープンディスカッション

講師は、知り合いの専門家お二人にお願いしました。お二人の見事な立ち回りのおかげでうまくいったと思います。改めて感謝申し上げます。

ワークショップの特徴1 学校そのものを使う

学校(制度、空間)それ自体が規律まみれのため、法を探すと言うアクティビティの教材としてはうってつけです。また、舞台となった高校は制服もなければ着こなしの規則もなく、およそ校則を意識することがほとんどない自由な風土の学校なので、なおさら「法を、みる。」というコンセプトが映えたと思います。

ワークショップの特徴2 法学鑑賞教室(?)

振り返ると、このワークショップは「高校生にわかりやすく教える」とは気負わず、「法って面白いでしょう!?」と披露するような場でした。参加者と対等な立場で、スペシャリストが楽しそうに混ざって、法的な眼差しで学校内の色々がどう映るのかを解きほぐす、まるでキュレーターと学校をめぐる法学鑑賞教室だったかもしれません。

ワークショップの特徴3 たとえばこんな発見(具体例)

校舎内には検定試験や鑑賞教室などの掲示物がある

あるグループは、踊り場の掲示板の写真を撮ってきました。掲示板には検定試験や芸術公演の案内などいろいろな張り紙があります。この掲示板は学校側の掲示物が貼られる場所です(部活の案内などはありません、確か)。このグループは「掲示物は学校側が貼り付けているもの、つまり『この高校の生徒は、積極的に検定に挑んだり芸術に触れるような生徒であるべき』、『あるべき⚪︎⚪︎高生』というメッセージを発している」と分析しました(鋭すぎませんか!?)。これをうけて「規範」という概念を説明するに至りました。そして「規範」は学校の外でも、あるいは自分の中にも…と話は展開しました。「みる」というアクティビティからはじめ、法学のわりと込み入った概念まで到達できて嬉しかったです。


3 そして制作へ

ワークショップのパンフレット

あらためて、ここは美術大学なので、「制作」しなければなりません。そこで、このワークショップの企画段階〜実施結果までをまとめ、1つのワークショップのパッケージを紹介する8ページのパンフレットを制作しました。

そのほか作品について詳しくはWEB卒展をご覧いただければと思いますが、これに連なって、もういくつか作品を作りました。いずれも、高校生をターゲットと想定し、ワークショップの副教材かお土産の位置付けで、まとめて「法を、みる。」の教育パッケージとしています。

コンセプトビジュアル
ビジュアルブック

「高校生くらいの人々にとって、どの切り口で行けば法を身近に感じてもらえるかしら」と考えていたら「18歳から96歳まで学ぶ!」という大学の広告が目に入ってピンときて、20歳までの年齢にちなむ法律で行ってみました。グラフィック×(できる限り)生の条文の組み合わせです。なお、このブックを作るにあたって、参考にした先例があります。こちらはアート作品×憲法の条文というつくりです。

フォトカード

制作順番としては一番最後になります。一見なんでもない身近な風景と、そこにかくれた法の話がセットになったカードです。

***

このように「法を、みる。」のコンセプトの下、学校をはじめとする身の回りのモノゴトを「観察」することを通じて法を学んでみる教育的マテリアルを、何パターンか作成しました。実際に見て、時には触ったり、視覚以外の感覚も研ぎ澄まして、その姿、硬さ、温度…といった身近な事実を観察し、感じる違和感、不安、引っかかりといった感覚をきっかけに社会を理解していくという、人間ならではの能力を活かしたい法教育・主権者教育のこころみです。


ところで…

Vol.1で散々法の「わかりやすさ」をデザインの力でなんとかすることを動機にしておきながら、自分で言うのもアレですが、これらの制作物は必ずしも特定の法律や概念を「わかりやすく」説明するものにはなっていません。少なくとも直球には応えていません。なんでそうなったのか、それでよいと思ったのかをVol.3で説明します。そしてこれは、美大の学びのまとめでもあります。


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