法務部員、美大へ行く。 #05 /判例の図解、それは卒制の没案
このシリーズは、企業法務に従事する筆者が京都芸術大学でデザインを学んだ理由を開陳しつつ、筆者自身があたまの中を整理しようとするものです。私の卒業制作についてはこちら。
最近、判例の「図解」をめぐり、Xの一部が少しだけ賑わった気がする。なにがどうして話題になったのか、実はよくわかっていないのだが、「判例の図解」は卒業制作のテーマの案として一回真剣に考えたのでちょっと気になってしまった。なのでその話。
1 「グラフィック憲法判例」(没案)
ちっちゃいけどご容赦。メモをそのまま持ってきた。
法を視覚的に楽しく学ぶ(法をみる)をコンセプトとした作品案の1つで、判例をインフォグラフィックで表現する案。単に一枚もののグラフィックにするのではなく、事実関係を示したシートの上に、原告や被告の言い分を表現した透明のシートを重ねることで、それぞれの視点から、いったいどんな事案だったのかが文字通り立体的にわかる…という案。
諦めた理由はいろいろあるが、大きかったのは、完成図が見えなかったことにある。それにはもちろん、寸分の狂いなくピッタリ重なる透明シートって作れるんか…? 印刷の工数どうなんるんだ…? 1事案作って力尽きるのでは…? みたいな現実的な話もあるけれど、それ以前に行き詰まったのもある。
2 で、なに?
「判例をインフォグラフィックで表現しました!!!」
「で?」
である。判例をインフォグラフィックで表現して誰にとって何がどう嬉しいのかよくわからなかった。
想定読者が法学の学習者なら、そもそもオリジナルの判例を読むべきであって、図解は必要に応じて自分でやればよい。じゃあ非法学学習者向けだとしたら、そもそも何が目的で発信するのか。法律に関心がない人に対し、関心を持ってもらうためにするとしても、その方法として「判例のインフォグラフィック」がベストなのか???となった。
というわけで、誰がための、なんのための「判例のインフォグラフィック」なのかがフワフワしていた。他に良い案があったので、これは没にした。
3 ビジュアル表現の悩みどころ
1 「インフォグラフィック」と「図解」
美大の先生からピシャリといただいた「インフォグラフィックと図解は違う」というコメントがすごく刺さっている。両者に厳密な定義はないとは思うものの、手元のある書籍はインフォグラフィックを次のように定義する。
ポイントは、「人に伝える」要素が入っていることかとおもう。ただ単に、自分の頭の整理のために描きました!ではインフォグラフィックとはいえず、自分以外の誰かに伝えることを目的として表現されたビジュアルがインフォグラフィックだと考える。
そこゆくと、単に「図解」は文字にかわって図で説明するこにとどまり、誰かに伝えることはそこまで重視していない気がする。「判例をインフォグラフィックで表現する」案がうまくいかなかった理由の一つは、「判例の図解」にとどまったから、じゃないかしら。
2 ビジュアル表現を使うために必要なこと
ビジュアルで表現すると細部が落ちる。物事の大枠とか、ざっくりした関係を示すのには向いている一方、微妙な差異とか例外みたいなディテールは表現しにくい。その分、余分を削ぎ落として本当に伝えたいメッセージに集中するため、その限りでの伝達力は強い。代表例は広告。
なので、細かな定義とか例外とか細部が重要になる法律関係のテーマにとって、そもそもビジュアル表現は使いにくいところがある、とは思っている。(だからこそ挑戦のし甲斐があるよのさ(cv.ピノコ))
これは経験談。あるコンプライアンス研修の資料を作っている時に「多少不正確でもいいから、ビジュアライズされたものを!」みたいな期待を言われたことがある。いや法務として「不正確」はアカンだろ!?!?!?!?ってなった。しかしまあ、そう言ってしまう気持ちは、前述の法律の性格に照らせば、わからんでもない。
でもそれって、研修の対象者とか目的をきちんと決めていない証拠じゃないか。そこが固まっていれば「なぜこのディテールを落としたのか」という問いには答えられる。落としたからといって「不正確」とは言わないはず。図解などビジュアル表現を使う場合には、「誰に対して」「何の目的で」の検討が必須、といいたい。
3 ビジュアル表現に強いことのリスク
先述の通り、ビジュアル表現は細部を落とすので、「ビジュアル表現が得意な人(あるいはビジュアルで物事を考えがちな人)」は、細かい話を見落とす、理解が雑になりがちなことに注意が必要だ(私である)。最悪の場合、ビジュアル的な完成度を優先して事実を歪める可能性がある(これにはマジで注意している)。
これらは、法律の学習としては致命的な欠点になりかねない(痛い)。ちゃんと法律を学ぶ気なら、どんだけしんどくてもあの言葉の世界で緻密に格闘しなければらない(ほんとだよ)。
さておき、私の卒業制作とその関心は、法を視覚的に魅力的に表現することなのは変わりはない。だが、ここまで書いてきたように、法律の世界でこれをやるに際しては、使い所をよーーーーーーーーーーーく考え、めちゃめちゃ注意しているのである。法律は文章、言葉、文字の世界であることは何よりも先に踏まえておこう。
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