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夏の甲子園 アルプスはコパカバーナ!

同志Aからのお題:ミスマッチ


20世紀末のこと。スポーツに興味関心がほとんどない私が、何の因果か甲子園球場に足を踏み入れることになった。

雲は湧き、光あふれる夏の高校野球。甲子園の第一印象は…

「ビール臭っ!」

バックネット裏につながる階段を上ると、目の前に黒土と天然芝のグラウンドが広がっていたが、あたりはアルコール成分とホップ由来の香りが満ちていた。高校野球の聖地なのに酒臭いとは。違和感を覚えつつも…炎天下、まあ飲みたくはなりますわな。かちわり氷もいいけど。

甲子園で鮮烈に覚えているのが、智弁和歌山の応援だ。野球は強し、ブラスバンドも強し。がっちりと、しかもキレのある演奏が、波動となってアルプススタンドから押し寄せて来る。部員たちの前世は、音楽で自国の歩兵の士気を高め、敵を威圧したオスマン帝国の軍楽隊に違いない。

中でも陽気でスタイリッシュな「コパカバーナ」が耳から離れない。もとはバリー・マニロウの1978年の大ヒットナンバー。ラテンのリズムが心地よい、ご機嫌な名曲だ。

横道にそれるが、作曲家の宮川彬良氏は「マツケンサンバⅡ」について「みんなが何回も歌うような、1回聞いたらあまりのおいしさにもう1回食べたくなる、バリー・マニロウの“コパカバーナ”みたいな曲が作りたかった」とラジオ番組で語っている

夏が来れば智弁和歌山を思い出し、はるかなコパカパーナに浮かれ浮かれて四半世紀が過ぎた。ブラジルの海岸で若い2人が恋をする物語とばかり思っていた。今更ながら歌詞を調べてみると、これがなんと聞くも涙、語るも涙だったとは。

ハバナの北にある人気スポット「コパカバーナ」。ショーガールのローラはバーテンダーのトニーと恋仲になる。ある夜、金持ちダイヤモンド野郎リコが来店し、ローラにちょっかいを出したから、さあ大変。トニーは激怒し、リコに殴りかかる。椅子が壊れ、血が流れ、一発の銃声が鳴り響いた。誰が誰を撃ったのか。

あれから30年。今はディスコのコパカバーナ。ローラは昔と同じ大胆なドレスを着て、酒を飲んでもうろうとしている。若さと恋人を失った彼女は、自分自身も失ってしまった。コバカバーナで恋に落ちてはいけない、とさ。

なんだこれは!

ジャズのスタンダード「マック・ザ・ナイフ」における切り裂き犯が街に帰って来たぞ、というおっかない歌詞と、スインギ-に盛り上がる曲調の関係に似ている。まさにミスマッチの妙。

高校野球の応援曲といえば「ハイサイおじさん」が一時“封印”されたことがあった。歌詞が高校生の試合にそぐわないという新聞投書がきっかけだった。飲兵衛おじさんに少年が「夕べの三合瓶のお酒は残ってる? 残ってたら分けておくれ」と聞くところなどがお気に召さなかったようだ。

アルコール漂う甲子園だから、三合瓶も酒に溺れる元ショーガールも、ブラスの響きの中で昇華され、輝くのかも。


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