浄土真宗のお寺を家業に持つ、りんごさん
家業を持っている人のなかには、家業がある家に生まれた人だけでなく、家業を持つパートナーと結婚することで家業を持つことになった人もいます。これまで、家業は「生まれた時からその仕事を間近でみてきたことがアドバンテージ」なんて思っていたけれど、そんな常識を覆してくれたのがリンゴさんです。そのパワーに圧倒されつつ、お話を聞きました。
付き合った人が家業を持っていた
──りんごさんの家業はお寺だとか。お寺に生まれたということなのでしょうか?
違うんです。付き合った彼が浄土真宗のお寺の跡取りで、結婚して私に家業ができたんです。
──なるほど!家業がある方とのお付き合いのお話は初めて聞きます。家業があることは知っていたのですか?
はい、お付き合いしている頃から知っていました。「付き合うなら全力で」がモットーだったので、お付き合いする時点で結婚を前提に考えていました。収入やどんな家業かという意味ではなく、どんな人柄で、「この人なら支えたい」と思えるかどうかを重視しました。そして、バックグラウンドがお寺だということも自然に知ったのです。
──結婚される前から、お寺を家業に持つことがどんなことかはイメージできていたのでしょうか?
いえ、全く(笑)。お寺は未知の世界でした。「お寺」と言われて頭に浮かぶのは観光寺院だけで、私が嫁いだような地域のお寺の中がどうなっているのかは想像もつきませんでした。さらに、そのお寺の奥さんがどんなことをしているのかはもっとわからない。今の夫も、お寺で生まれ育ったので、改めて言葉にして具体的に説明するのは難しかったようです。
──なるほど。それでも未知の世界に飛び込んでいけたのはどうしてだったのでしょう。
「走りながら考えよう。とりあえずチャレンジ!」という元々の性格があったのかもしれません。結婚する前から、「カリスマ主婦になりたい!」とみんなに言って回っていました。漠然とですが、妻が元気でいることで夫も子供も元気でいられるというイメージを持っていたからです。わからない世界でも、やれることをやってみようという気持ちがこの世界に飛び込ませてくれたんだと思います。
未知の世界、寺院
──実際にご結婚されてみて、お寺を家業に持つことについて驚かれたことはありますか?
そりゃぁもう、驚きの連続でした。まず、お寺に嫁いだ妻のやることが多岐にわたること。経理、接客などのバックオフィス的な仕事から、イベントの企画、PRのようなプロデューサーのような仕事、家の物の整理やお寺の掃除まで。さらに家事やプライベートが垣根なく混ざっているんです。
──普通では考えられないほどの範囲の仕事を任されているんですね。ちょっと聞きづらいですが、働きやすさはどうなのでしょうか。
義理の母から仕事を学ぶことになるのですが、説明をしてくれるというよりは「背中を見て学べ」が当たり前なので、一般的な会社での仕事のように業務を体系的に理解することができないのは辛いところです。そして、もうひとつ乗り越えたいのはお寺の中に残る男尊女卑的な考えです。
“お寺の奥さん”ならお茶汲みをして当たり前?
──例えばどんなことなのでしょう?
お茶汲みは女性がして当たり前。僧侶である夫に来客があればもちろん私がお茶を出しますが、私に来客があっても私がお茶を出します。アイディアや意見があっても「住職をたてる」という文化が根強いために言い出せないこともよくあります。「みんなが平等に救われる」という浄土真宗の教えがあるので、お寺から変わらないとだめですよね。特に私たちの世代は、社会が男女平等を推し進めている分、違和感も大きいのだと思います。
──なるほど...。今お話を聞いていて、お寺なら女性がお茶を出してくれるのに違和感を感じないかもしれないと思った自分に驚きました。
そうなんです。うちのお寺が特別そうだというよりは、お寺の文化の一部のようになってしまっているので、変えていくのにも時間がかかりそうです。でも、自分たちの世代でやらなければと思っています。お茶汲みは一例ですが…
人が元気になるには、人とつながり合うしかない
──そのような古い文化を変えたり、サポートしあうためにりんごさんがやられている活動があると「家業エイド」の自己紹介で知りました。
「お寺マダム」というオンラインサロンをやっています。同じ浄土真宗のお寺に嫁いだり、生まれたりしてお寺を家業に持つ人がつながるためのものです。けっこうニッチですが、いろいろな方が参加してくれています。
──すごいですね。どんなことをされているのですか?
オンラインでの交流がメインです。お寺の妻として困っていることや、相談したいこと、愚痴なんかも。私自身がそうでしたが、お寺に嫁ぐとどんな世界が始まるのかについて、ほとんど情報がないんですよ。「お寺 嫁ぐ」とかで検索しまくっていた私が言うのだから、本当です(笑)。
さらに、嫁いだ後は義理の母しかモデルケースがなく、かといって悩みを言えるアテもなく孤立しがちなんです。1人で抱え込まず誰かと共有することで新しい視点が持てることもあります。匿名で赤裸々に話すことで気持ちが楽になったり、元気に活力をチャージできることがあります。
──人とつながることで元気になる、というのは家業エイドにも通じることですね。
そうですね。「家業エイド」は、寺社仏閣以外の家業を持っている方が家業にどう向き合っているのか知りたくて参加してみました。家族であり上司である親とどうコミュニケーションを図られているかなどを知りたいですし、視野を広げたくて。
──ありがとうございます。りんごさんご自身は、これから家業をどんな風にしたいなど、考えていることはありますか?
この家業で生きていくと決めたので、邁進するのみだと覚悟を決めています。一般企業のように「企業を大きくできた、収益が増えた」という分かりやすいゴールはお寺に当てはまらないと思うので、いかに支えてくださっているお檀家の皆さんや、地域の方に喜んでいただける場を作れるか模索したいです。
インタビューはここまで。りんごさんの並々ならぬパワーと、家業を変えていくコミュニティづくりには学べるところがたくさんあります。りんごさんも参加している「家業エイド」では、りんごさんが主催するイベントをはじめさまざまな参加型のオンラインイベントが無料で開催されています。気になる方はぜひチェックしてみてください。
(聞き手・文:出川 光)
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本記事の内容・表現は、取材当時の"瞬間"を『家業エイド』視点で切り取らせていただいた、あくまで家業を通して皆様が紡いでいる物語の過程です。皆様にとっての「家業」そして「家業との関係性」は日々変わりゆくもの。だからこそ、かけがえのない一人一人の物語がそれを必要とする誰かに届くことを切に願っております。
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