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話題のSpatialゲーム「Shuriken Survivor」開発秘話について訊いてみた【Graffity 開発者インタビューvol.1】

Graffityは2024年6月28日に、空間コンピューティングを使ったSpatialゲーム「Shuriken Survivor」をリリースしました。Apple Vision Proの国内発売に合わせたリリースで、新規デバイスならではの体験や、直感的に楽しめるゲーム性を重視しています。本記事では代表の森本 俊亨に、Spatialゲームにフォーカスした理由と開発への思いをインタビュー。記事後半では、開発チームのデザイナー井上 嵩教と、Unityエンジニアの小林 慶祐に、こだわったポイントや開発体制について聞きました。

新しいインターフェイスと高い空間認識精度、AppleVisionProならではの体験ができるSpatialゲームを開発

CEO 森本 俊亨、リリース前日の記者向け発表会の様子

——なぜ、Spatialゲームにフォーカスしているのでしょうか?
Apple Vision Proはゲーマーターゲットのデバイスではありませんが、購入したユーザーはさまざまなSpatialアプリを試したいと思っているはずです。Spatialゲームもそのひとつで、Apple ArcadeにはApple Vision Pro向けのSpatialゲームが数十タイトルほど出ていますが、まだまだApple Vision Proならではの遊びを追求したゲームが少ないと思っています。
「ARで、リアルを遊べ」をMissionに掲げるGraffityとしては、ARを使った新しい遊び方を追求したいと考えており、Spatialゲームの開発にあたりました。

——Apple Vision Proならではのゲーム体験とはどのようなものでしょうか?
Apple Vision Proの特徴として、コントローラーがなく、アイトラッキングとハンドトラッキングという新しいインターフェイスになっています。新しいインターフェイスになれば、そのインターフェイスを活かした遊びがあるはずなので、そこチャレンジしたいと考えました。

1作品目のSpatialゲームはアイトラッキングとハンドトラッキングを活かしたゲイズタイピングにフォーカスしました。次は手を叩いたり、机を叩いたり手を動かすことで物理的なフィードバックが得られる操作性に注目したいと思い、Spatialゲームの企画をし始めました。

Apple Vision Proならではの体験はほかにもあり、そのひとつは空間認識の精度です。高性能なLiDARセンサーが搭載されており、正確に空間を認識できることも特徴の一つ。目の前に広がる空間を認識し、自分のいる空間によって体験が変わるようなSpatialゲーム体験も追求したいと考え、今回の企画に付け足していきました。

Apple Vision Proならではの遊びを追求、開発チームにインタビュー

左:井上 嵩教、右:小林 慶祐

小林 慶祐
Unity開発リードエンジニア。大手ソーシャルゲーム開発・運営企業を経て、Graffityに入社。
井上 嵩教
UI/UXデザイナー兼PM。ARゲームやARアトラクションのコンテンツディレクターも並行して業務にあたる。グラフィック、モデリング、ディレクションを担当。

「Shuriken Survivor」は、自分の手で手裏剣を投げ、迫り来る忍者軍団から城を守ります。敵の忍者を倒すとレベルアップし、手裏剣のアップグレードを選択できます。 好みや状況に合わせてアップグレードを選択し、ボスを撃破するまで城を守り抜きましょう。体感的な手裏剣アクションと毎回異なる戦略的なアップグレードで、繰り返し楽しめるSpatialシューティングゲームです。

——手裏剣を投げるジェスチャーに注目した理由を教えてください
井上:まず、単純にわかりやすくて面白いですよね。
技術的な部分で言うと、ハンドトラッキングでは何かものを掴んで投げる動作は判定が難しいんです。一方で、今回のように両手を合わせて手をこする動作は、どこを狙っているか、どこで発射されるかを定義しやすい。そのため、手裏剣を投げるジェスチャーを採用しました。

——ゲームの面白さを追求するため、どのような工夫をしましたか?
井上:ファーストタッチとしては「手裏剣が発射された!」って、楽しめると思います。ただ、それだけだと単純な的当てゲームになってしまって、すぐ飽きてしまうかもしれないという懸念がありました。そのため、主なゲーム性はそれ以外の部分に持たせようと思い、時間内に自分を強化していく楽しさに重きを置くようにしました。
例えば、とにかく手裏剣の威力を上げたり、デカい手裏剣で一網打尽を狙ったり、城壁を強化して相手の攻撃から耐えることを狙ったり……自分好みのビルドをすることを楽しめるゲームにしました。
また、数字が大きくなったり、手裏剣がいっぱい出たり、変化を目で見えるようにして「自分が強くなった感」をわかりやすくし、高揚感を持たせられる工夫をしています。

——Apple Vision Proの高い空間認識精度を活かした点について教えてください

井上:Apple Vision Proでは、オクルージョンと呼ばれる、空間認識技術がより早く自然になりました。例えば、現実にある椅子が奥にある鳥居を隠している状態がそうですね。

忍者が設置したゴミ箱を避けながら移動している様子

また、現実の環境に応じてゲーム内の敵の動きが変わるようになっています。
例えば、現実にあるゴミ箱が敵の忍者の進路上にあると、忍者はそこを避けて移動します。ゴミ箱を動かしたり、さらに大きな段ボール箱などを置いて動線を制限することで、ゲームをより簡単にする作戦を立てることも可能です。
今までのデバイスでも奥行きの認識はできましたが、Apple Vision Proではその認識精度が高く、より高速になりました。ゲームの空間に現実のものが反映されるのが早いので、ゲーム体験中に現実のものを動かすなど、どんどん変化させることが可能になったというのがApple Vision Proの大きいところです。

——Apple Vision Proならではのインターフェイスを楽しんでもらうために、どのような工夫をしましたか?
井上:Apple Vision Proはコントローラーがないので、ボタンでなにかを操作するということがありません。
また、新しいデバイスなので、ユーザーが共通認識として知っている動作がほとんどないんです。そのため、ゲーム中にどのような操作をすればゲームが一時停止するようにするか悩みました。
説明を限りなく省きたかったので「とりあえず触ってみたくなるもの」かつ「休憩のイメージ」……それらを考えて、湯呑みを持ったらゲームが止まったら面白いんじゃないかと思って、設置しました。

プレイヤーの足元、城壁内の台に湯呑みが置かれている。湯呑みを手に取ることで、ゲームが一時停止する

また、ゲームを中断したいときは、右側にある爆弾を手に取ることで、自ら城壁を壊してゲームオーバーで退出することができます。

爆弾には「HOLD TO QUIT GAME」と書いてあり、しばらく持っていることで爆発してゲームを退出する

反対側にはスピーカーとフェーダーがあって、これを摘んで操作することでゲーム内の音響バランスを調整できる
アドバイザーの方やチームメンバーのみんなとアイデアを出し合って、今回はとにかく体験として分断されないように、全部3Dモデルにしようと思って、このようなUIになりました。

——そのほか、こだわったポイントを教えてください
井上:「あえて説明しない」ことを意識しました。
ゲームのタイトル画面に手裏剣を投げる動作のお手本が表示されて、最初に手裏剣をスタートの的に当てるとゲームを始められます。それ以外にチュートリアルを入れずに、すぐにゲームを始めることができるようにしました。
また、先ほど話した障害物で敵の動線を制限するような作戦も、やってみて初めて「こんなこともできるんだ!」とわかるようになっています。やっぱり教えられるより、自分で発見した方が楽しいじゃないですか。手裏剣の速さや精度を上げることも裏技的にプレイヤーが試行錯誤して発見してもらえるように、多くを語らないようにしています。

ハンドジェスチャーライブラリの開発など、難易度が高いプロジェクトを実現した工夫

——開発体制について教えてください
小林:開発期間は2カ月半くらいでした。
最初の2週間は仕様確定、2週間から1カ月は技術研究にあてました。
Apple Vision Proはアメリカでしか発売されていなかったので、どんなことができるのかひたすら技術研究にあてて、それからコンテンツ開発を始めました。
新規のデバイスで新しい体験ができるゲームを約3カ月で作るというのは、かなりハードスケジュールです。国内に情報がない状態で、経験者なしで、研究しながら開発するというのは、非常に難易度の高いプロジェクトでした。
しかし、やはりApple Vision Proの国内リリースに合わせて出したかったので、「自分たちでやるしかない」という思いで開発しました。

——開発環境について教えてください
小林:3Dゲームを作る場合は、Appleが提供しているツールだけではかなり大変で時間がかかってしまいます。GraffityはUnityの開発経験者が多く、今回はとにかくスピードを重視だったこともあり、Unityを採用しました。

——技術的にどのような工夫をしましたか?
小林:今回、UnityとApple Vision Proで使うためのハンドジェスチャーのライブラリを社内でつくって一般発売をしました。Apple公式のハンドジェスチャーはまだ少なく、動的な動きを検出する機能を自分たちで作らなければいけませんでした。手裏剣を投げる動きのように、面白いジェスチャーができそうだったので、モーションを拡張して開発しやすくしました。

前例がない新規デバイスでのリリース、短期間で実現できたGraffityの強み

——開発する上でハードルになったことはありますか? また、どのように解決しましたか?
小林:テクニカルな部分で言うと、まず国内で事例がないということが難しかったですね。情報は公式の英語で書かれたドキュメントしかなかったので、Unityの方やAppleの方に直接やりとりをするしかありませんでした。あとは、新規デバイスなので、ハンドジェスチャーや現実のスキャンがどの程度できるのか、デバイスの特性や性能の調査に時間がかかりましたね。

井上:開発期間自体がとても短かったので、課題に対して「じゃあこうしよう」と瞬時に判断を求められるのが大変でした。時間が足りないのはわかっているので、どこを削ればゲームとして面白い状態を残して完成できるのかをずっと考えていました。小林さんと相談しながらスピード感を持って進めていけたというのが、発売に間に合った大きな要因だと思います。

——Apple Vision Pro向けのSpatialゲームを開発する上で、Graffityの強みはどういったところでしょうか?
小林:ハンドジェスチャーライブラリをリリースしていることは大きいですね。世の中にあるアプリのほとんどが、空間上に2Dの四角形の画面を出して操作するというものが多い。そうではなく、Graffityとしては手が自在に使えるなら、もっと手の動作を使って面白いことをすべきだという考えです。その発想をもとに、今回のハンドジェスチャーツールを作りました。拍手も検知できるし、ビームも打てる……この技術に関しては、Graffityが一番リードしているんじゃないかと思います。

井上:今回、短い期間で試行錯誤しながら開発しました。失敗を乗り越えてきたので、問題に対する対処や潜んでいるトラブルの知見は蓄積しています。プロジェクトの安定性は高いのではないでしょうか。

——アップデートに向けての意気込み
井上:より長く、より多くの人に楽しんでもらえるように、面白い要素をプラスしていけたらと思います。また、海外でもリリースを予定しています。

小林:今まで技術的に諦めてきたARアプリというのは、世の中に多いと思います。ようやく「これがやりたかったんだよね」ということが、Apple Vision Proの登場により可能になりました。まだ初期リリースに入れ込めていない部分もあるので、これまで以上に現実とバーチャル世界が相互に干渉し合うようなARだからこそできる体験を提供していきたいと思います。

——ユーザーへのメッセージ
小林:手が自由に使えるようになったらこんな体験ができるんだっていうのを、このゲームを通して体験してもらえたらと思います。わかりやすさにこだわっているので、空間コンピューティングがどのようなものなのかイメージしやすいと思います。

井上:Apple Vision Proを手に入れたら、とりあえずこのアプリを買って、頭を空っぽにして難しいことは考えずにとにかく遊んでください! そしてクリアできたら教えてくださいね。感想を楽しみにしています。



Graffityでは、AR技術に特化した新規事業の企画・開発・運用改善まで支援するスタジオ「Graffity AR Studio」を運営しており、これまで累計25万ダウンロードを突破したARシューティングバトル「ペチャバト」や、グローバルに展開しているARシューティングバトル「Leap Trigger」など、ARエンタメを中心としたAR新規事業を推進しております。これらの知見を活かし、スピード感を持ってARを活用した新規事業をワンストップでサポートいたします。

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