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人生の中での見知らぬ1日(a Day in The Life)

Now&Here#19  

一昨年の年末から父親は体調を崩し、
何度か入退院を繰り返していたが,なんとか
現状維持でいてくれていた。
今年に入ってからすぐに再び感染症で入院したが
2週間ほどで退院、ある程度回復できる事を想定していた。
しかし、帰宅した後、日に日に弱ってきているのが
見て取れていた。

自宅介護の態勢を整えた。
ベッドからは起き上がれなくなり、反応は少なくなり、
ドクターからは危険な状態であることを告げられた。
そんな状態になってからは、仕事を終えて帰宅後は父親の
寝床のそばで晩酌をするようになった。
ただいるだけなのも間がもたないので、仕事一途の父親が
働き盛りだった頃に流行っていたと思われる 昭和歌謡 を
サブスクの音楽サイトからランダムに流してみた。
聴こえていたのかどうかはわからないけど、
何か穏やかな表情をしていたような気がした。

そんな父親の危険な状態の最中、
ぼくは一枚のライブチケットを手にしていました。

佐野元春&TheCoyoteBand
Manijuツアー最終公演

もしかしたら、このまま…......。とも思い、
行くことを諦めかけてはいた。
ところが父親の体調は良くはなっていないが、
不思議に持ち直していた。
その日の午後、申し訳ないが介護士の方と
母親に介護を任せて会場へ向かいました。

2018年4月1日

曇りがちな空、シャツ一枚だとかなり肌寒い。

会場は東京ドームシティホール。 
はじめて訪れるところ。

東京ドームのある敷地内の地下。
勤め先とは目と鼻の先で、話では聞いていたが
地下にあんな立派なホールがあるなんてぜんぜん知らなかった。
開場時間になり、降りてみると巨大なライブ空間が広がっていた。
ステージから観客席が扇状に広がり、
アリーナ1階2階3階と重なっていて、
ちょっと見では日本武道館でのライブ空間をぎゅーっと
小さくまとめた感じに思えた。

開演時間を少し過ぎてステージにメンバーが揃い
ぼくらをどこかへ誘い出す始まりのサウンドが響きわたる。
ツアー初日を目撃し、その後の噂話をいくらか
かじっていたので進行内容はある程度 承知していたが、
この日 なんといっても初日には都合によりステージに
立てなかったコヨーテバンドのもう一人のギタリスト
藤田顕が加わり、オリジナルのTheCoyoteBandサウンドが
聴けることを心待ちにしていました。
ツアー初日に目撃したパフォーマンスでは選曲も相まって
かなりのインパクトを受けた。
しかし、この最終日のパフォーマンスの威力には
この上なく圧倒されました。
深沼元昭のクールさと熱情を織り込んだギターサウンドに
藤田顕のギターが加わる事によって醸し出されるさらに
イカしたアンサンブルとぶ厚くてぶ熱いサウンド。
観客を煽るアクション。
小松シゲルと高桑圭のセンスと技術とパワーのリズムセクション。
繊細なグルーヴを誰にも描けない指さばきで彩る渡辺シュンスケ。
そしてスパムはさりげなくパーカッシブな毒を盛る。
彼らが奏でる音像はこの日、弾けて、ドライブ感にまみれて、
スピンアウトしそうでいて危うくすり抜けるスリルと
グルーヴはこの世界でここにしかないサウンドだった。

第1部では、TheCoyoteBandサウンド13年間の集大成。
初日には第2部の芯に選曲されていた2曲の楽曲が
第1部の芯に演奏された。

そしてマニジュ・ツアー本編である第2部。
曲順のバランスを整えて、ほぼ全曲演奏!

真夜中の扉に足をかけたようにブルージーな  「夜間飛行」

唄うように語る 「現実は見た目とは違う」や
 レコードの間奏ではささやくように語られていた 「純恋」
での言葉たちは、TheCyoteBandサウンドに絡み合いながら
通常のスポークンワーズよりもさらにドライブが掛かり
目に見えない壁をググッと登りつめていくようだった。

誰もが望んだこの世界
張り巡らされたアミにこんがらがっていながら、
皮肉にも透明度が増した世界。
戦後 はじめてメッキのはがれたいびつな裸体をさらす国家。
このガチな日常でえげつなくデタラメな
コントを見せられても笑えない。

ありとあらゆる事を計りに乗せて文明を食べ散らかした。
不都合な事は闇へ葬り、都合のいい事だけがはびこり、
嘘がまかり通り、真実は書き換えられる。

狂気に冒されてしまう前にさようならを告げようか?
めまいがしそうなほど憂鬱な世界に目を逸らさず、
新しい人と人の関わり方、そして人と物の関わり方を
見つけ出せるのでしょうか⁈

その日から9日後の早朝、
父親は静かに息を引き取り、この世を去った。

葬儀を終え、再び元の日常へ戻る。

まだ実感がわかない。
人がひとり亡くなるだけでこの世界は決定的に
バランスを欠くことを経験上知っている。
まるでこの世界の所々で人型にぽっかりと穴が
開いている様に感じる。
普段の人間関係も通常の判断力もどこか
ネジが外れてしまってる感じだ。

見知らぬ1日がまた通り過ぎていく。

そして物語はまだ続いていく。

もう二度と会えないあなたが残していったぼくは、
異常事態であるこの世界で忍び寄る優しげな闇を
視界の片隅に捕らえながら、いつものように振る舞い、
目の前の仕事をこなしていく....。

どうもありがとう、佐野元春&TheCoyoteBand

そして、ぼくのお父さんに 深謝......。


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