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荒地の何処かで逢いましょう。

Now&Here#05 (2007年6月記)

ぼくは目まぐるしく過ぎてゆく自分の人生という
毎日の中で生きてゆく理由をかみ砕き、
そして現実を現実のまま背負ったり、
または誤解を重ねて痛い想いをしながらも歩き続ける。

かけがえのない輝く瞬間。
身動きのとれない真っ暗闇の絶望。
それらの間を行ったり来たりしながら,
かろうじて運良く息をしている自分。

年を経るごとに自分の身の丈がわかってくる。
子供の頃は自分はまだ青虫だけれど、
いずれさなぎになり,そして美しく羽ばたく蝶へと
成長するものと思っていた。

当然、そんなことはままならない。

そうして大人になるにつれ、色々なことをわかった
振りをしながらよたよたと歩き続けている。
その道すがらに訪れる大切なものとのさようなら。
小さな命との素敵な出会いとその成長の過程を
見続ける喜びと感動。

今のぼくはそんなたわいのない日々を
大切に抱えているつもりでいる。

それでも自分の力ではどうにもならないこの世界の流れ。
それらに取り残されてしまう事への不安。
いつのことからだろう、この国に蔓延する「強迫観念」
ぼくらは漠然とそいつに囚われ、蹂躙されながら
不安な日々が過ぎている気がする。

そんな毎日の中、待ち焦がれていた佐野元春の
真新しいアルバム「COYOTE」がリリースされました。
アルバム「THE SUN」がリリースされた3年前、
今ここにいるぼくらがせつなく輝く太陽のもと、
バラバラになりかけた儚い希望や夢を佐野元春と
The Hobo King Bandは静かに力を込めた言葉と
粋なサウンドで紡ぐことによりあらためて
この世界に生きて往く理由とその連帯を感じさせてくれました。

ぼくはそのアルバム「THE SUN」のツアーを経て
そのサウンドを咀嚼して舞い上がったのもつかの間、
佐野元春は新たな地平へと歩み始めていたんだな。

2005年末 3トラックEPをリリース 表題曲「星の下 路の上」を含む,
その3曲はBluesを感じさせるゴリゴリのRock&Rollでした。
そして2006年、年明け早々にはじまったツアー「星の下 路の上」
ぼくにとって心の奥底に残る忘れられないツアー。
今までの佐野元春のキャリアを整理整頓して
「これが今のぼくだよ。どう?!」とぼくの前にポンッと置き、
ぼくらが生きてきた時間の貴さと愛おしさ、
そして痛みを惜しみなく
佐野元春&The Hobo King Bandは鳴り響かせた。

その後いくつものアルバムの進行経過を告げる
アナウンスにワクワクしながら、とうとうリリースされた。
アルバム「COYOTE」

佐野さん自身からこのアルバムについて多くのことが説明されている。

主人公COYOTE男の視点で描かれるロードム-ビー。
生き延びる事への意識。
自分の存在。
サウンドはROCK&ROLL。
深い潜在能力を持つ次世代の男達との共同制作。

ぼくが感じるのはこのアルバム「COYOTE」の佇まいが
アルバム「SOMEDAY」の後の「VISITORS」、
アルバム「CafeBohemia」を含む
「CafeBohemiaプロジェクト」の後の
「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」、
アルバム「Sweet16」の後の「TheCircle」のように
完成度の高いアルバムの後の揺り戻しとして
サウンドや言葉が生身の血を滴るのを
感じさせる限りなく骨身に近く、魂に近いギリギリの
崖っぷちで鳴らされている気がします。

そのことによって浮かび上がる
"どこでもない"けど まさしく"今、ここ”を
通りすぎてゆく
ぼくや君に"COYOTE男"は語りかける。

視覚的な言葉とそれらに呼応する視覚的なサウンド。
観念的な言葉は少なく直截的な言葉が綴られる。

便利で居心地がよくなるはずだった現代。
しかし、心は離ればなれになり、すれ違い、
殺しあい 憎しみあうヒトビトの営みは
日を増して殺伐とした荒れ地を浮かび上がらせる。                      生きている事への実感さえ削がれてしまいそうな
文明の進歩とヒトの往く先について、
COYOTE男は君に語りかけつづける。

「あぁ、もう後戻りは出来ない。
けれど出口を探して俺たちなんとかして
変わらなくちゃな...。」

海が見えてきた。

「ヒリヒリとした現実を背負って、
無駄かもしれないがこの先はこの世界のあるがままに
もう一度逢いに往こう。」
「そしていつのことかわからないが、
この荒れ地のどこかで君とまた逢うことを約束しよう」
アルバムの佇まいが色々な以前のアルバムに
似ていることを書きましたが
このアルバムに納められた"言葉とサウンド"は
どのアルバムにもない響きを感じます。

今までになくストレートに綴られる言葉はBANDの
サウンドの中で、この路の上、空果てしなく舞い上がり、
そしてこの世界に星の数程ある魂へ滑り込む。

物語はぼくらのもとに届けられた。
そこにある新たな世界に通じる迷宮の出口を
探りあてるのは詰まるところ
あなたやぼくなんだろうな....。

アルバム「COYOTE」
ぼくはまだトンチンカンな聴き方をしているかもしれません。
けれどこのアルバムが無性に気になる。
まだまだこの先、この世界のどこかに黄金色の天使が
いる限りくり返し繰り返し聴き続けることになるでしょう。

そしてその度に新たな映像や言葉が浮かび、
新たなストーリー紡がれていくような、
ぼくにとってそんなかけがえのないアルバムになりそうです。

それでは、この荒れ地のどこかで......。

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