見出し画像

永遠とあるこの迷宮

Now&Here#07 (2009年8月記)

それはまるで、果てしなく続くフリーウェイを
爆走するジェットマシーンに乗っているかのようだった。

気まぐれに襲いかかるスコール、
めまいをもようすかのような曲がりくねった道。
晴れ渡る夜空に見たことのない宝石のように輝く
数える気にもならないほどの星。

手加減はいらない。
しょっぱなからフルスロットルで、
爆音を鳴らして駆け抜ける。

そのマシンには2席しかない。
お前と俺がこの瞬間を駆け抜けるためだけのシート。

シートの後ろには凶暴なエンジンが
牙を研ぎながら唸っている。

ハードな荒れ地ではギアを落とすが、
エンジンの回転数は落ちることなく、
そして彼らは気を休めることなく豊穣なブルーズを奏でる。
LOWな心には柔らかな鍵盤の調べが
にじんだ目の前の風景をぬぐい去る。

2009年7月

日本各地を駆け抜けたThe CoyoteBandと佐野元春は、
そんな風に時間を圧縮して、圧縮した音を解放して、
ライヴハウスに集うヒトビトをその瞬間、
この世界につなぎ留めていた。

ライヴハウスというタイトな空間。
気持ちは前のめりになり、体は上に上にと舞い上がる。

このジェットマシーンには余計なものは載せられない。

お前と俺だけ。

誰もが望んだ、止まることのない文明は狂おしいままに
輝きながら朽ち落ちていくだけなのか?

フロントガラスに切り取られた世界は現実。
受け入れて、はしゃぎ続ける程のゆとりはない。

逃げるのもいい。所詮このタフな世界よりも
先に朽ちるのは目に見えている。

俺は「愛をくれ、愛をくれ」と遠吠えする
誰にも相手にされないみっともない野良犬のようだ。

たどり着くと時も音も圧縮された漆黒の場所。
潮の香りと波の音が聞こえる。
揺らぎないグルーヴと鍵盤と弦の音は、
かつて聴いたどんな熱いサウンドよりも切実で、
佐野元春の歌声はこの世界の誰にも
気づかれることなく現実を貫く。

バックシートのないこのミッドシップマシーンの
心臓の裏側にはちょとしたトランクがあった。

そこには、かつて掘り当てたほんの少しの宝石が、
このコヨーテバンドと佐野元春によって
磨きをかけられ、俺やお前が歩んだ日々があらためて
現実の一部分であったことを示し、
それらをソリッドな音にのせて高らかに奏であげ、
俺とお前の心の秘密の場所を一瞬、貫き通した。

永遠とあるこの迷宮の中、
俺とお前はこのタフな世界のほんの狭間でコメディのように
真剣に戯れ、さまよいながら、余命を燃え尽くす覚悟が出来ている。

それまでの時間と空間の道すがら、
誰になんと言われようともかまわない。

切ない思いを傍らにふがいない俺は、
明日、もしかしたらあさってもこの世界にのさばり続ける。


「なんだ、バカ野郎!?」By荒井注


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?