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Lazy Dog Live'05 (佐野元春& TheHoboKingBand)

Now&Here#03 (Lazy Dog Live'05) 2005年7月記

今にも降り出しそうな曇り空。
渋谷の街はきらびやかで、ぼくのしょぼい欲望さえ
滲ませて、力ずくでふんだくる。

ヒト,人,ヒトひと,ヒト,人間,ヒト・・・・・・・・・。

涙がこぼれるのを押さえるかのように灰色の雲が
ぼくの大嫌いな渋谷の街を覆い尽くす。
ラヴホテル街のど真ん中。知らずに通り過ぎ、
やっとこさ現地にたどり着く。

予定時間が過ぎても扉は開かない。
リハーサルが延びていて開場は遅れ気味とのこと。

扉が開き、ライヴハウスへ入場。
ライヴハウスならではのこぢんまりとした造りで
ステージと向かい合うようにバーのカウンターがしつらえてある。
客席側には大きな柱が建物の構造上2本ある。
観る場所によってはかなり邪魔になりそう。
ぼくはその柱のすぐ脇の席。
ステージからは本当に目と鼻の先で胸が高鳴った。
胸の高鳴りをそのままにバーにてビールを
ごちそうになって目の前のステージ上の楽器や
その佇まいをじっくりと眺めていました。

そして開演の合図。

ステージにThe Hobo King Bandのメンバーがあらわれてくる。
最後に佐野さんが赤いシャツで登場。
大声援が起こる中ちょっと雰囲気が違う。
古田さんが笑いながら口元に指を立てにあてがう。
佐野さんの足下に白いふわっとした固まりが見える。
よく見ると 大きくて真っ白な 犬 !?
あぁライヴのタイトル「Lazy Dog」はここからか?!  

名前は「ミカコ」

こんな多くの人の中と照明のまぶしさでも少しも
動じることもなくおとなしく佐野さんの足下にお座りをする。
客席から「佐野さんのですか?」と声がかかる。
佐野さんはすかさず「ちがう、友達の犬」と返す。

サブタイトル「ぼくのリビングルームへようこそ」のとおり
とてもアットホームで暖かな雰囲気が会場にあふれる。
少しすると「ミカコ」はステージを去り。
ちょっとした挨拶の後、佐野さんはアコースティックギターを
手にしてカウントを送る。

アコースティックギターのボディをピックで叩く音が響く。
そしてそのマーチン・アコースティックギターの
美しい響きが鳴り渡り、スタンバイしていたメンバー達が
一斉に音の全体像を浮かび上がらせる。

軽快なリズム聴き慣れないイントロ。
こう歌い始められた

「雨に濡れたフロントガラス~」
 "麗しのドンナ・アンナ"

どこかのライヴハウスで
The Hobo King BandとBlindBoy.Mが演ったとの噂は
聞いていたけどこうしてこの曲を目の当たりにしたのは
15年くらい前のTimeOut!ツアーの時以来かもしれません。
レコードに記されたライチャスブラザーズ風のアレンジは
大幅に変えられアコースティックな音色でカントリーロック調のサウンド。

この大好きな楽曲に心を奪われ、吸い込まれるように
間近で観る佐野元春 & The Hobo King Bandに思わず見とれていた。

続く「Rainbow in my Soul」「約束の橋」
「すべてうまくはいかなくても 」
「ロックンロールハート」「彼女の隣人 」
どれもこの日ぼくらのためにあつらえ直してくれた楽曲達。

光と影が交錯する。ちぎれそうなBluesの響き。
ふとした瞬間に空を駆けるJumpBeat。

ぼくは心を掻きむしるその音の空間に呑み込まれていました。

今回、佐野元春 & The Hobo King Bandには
新しい仲間が加わっていました。

パーカッションのSPAMさん。
地味に見えるがすごく効果的にサウンドの端々へ
花や毒を盛る。

中盤に差し掛かろうという頃。
聴き覚えのあるキーボードのメロディ。
オーディエンスから声があがる。「おぉぉ!!」

"バルセロナの夜 "

キーボードはもちろんDr.KYON 
佐野さんはアコーステックギターを手に
昔とは違う歌い方で丁寧に唄い上げる。

つづく「こんな素敵な日には 」~「Do What You Like - 勝手にしなよ 」Jazzyなサウンドに少しだけ地上から離れた場所で心も体も揺れていた。

これらロマンチックな楽曲を終えると佐野さんはこう話した。

「こういった歌詞をしばらく描いてこなかったけど、
これからはまた描き始めてみたい」

つづいて、この日10月9日が佐野さん自身が
大きな影響を受けたジョン・レノンの誕生日であることを告げ、
以前に大きなトリビュートコンサートで
「Revolution」をThe Heartlandと演奏してから
カバー曲を演奏するのは2度目になることを説明した後、
この楽曲「ComeTogether」を演奏しはじめた。

「シュッ」(アンソロジー3でShoot meって
はっきり唄ってることに何とも言えない驚き・・・・)

歌詞が少し怪しいところがあったけど全体的には
オリジナルに忠実な素晴らしいサウンド。

井上さんのポールマッカートニー バリバリのベースラインと
古田さんのドラムス・リフ「ズドドドドドドン」間奏では
山本拓夫さんのソプラノ・サックス!
「クゥーッ!スッゲーかっこいい!!!!」
思いがけない選曲に感謝です。

あの時、あの会場に、
もしかしたらジョン・レノンも来ていた気がする。

後半 唐突に聴き慣れた佐橋さんの
あの芳ばしく狂おしいギターのイントロ!!!が鳴り響く

"恋しいわが家"

The SUNツアー本編では演奏されなかった楽曲。
複雑でいて素晴らしいアレンジ構成と旅に出た男の
Homeへ馳せる複雑な思いが滲み出て来るような
最高にHipなサウンドに参っていました。
このライヴで聴くことが出来て本当に嬉しかった。

アコーステックギターのみで唄われた
今、ここにいるぼく自身の心に染み渡る 
"希望"

"レイナ"  
これもThe SUNツアー本編では演奏されなかった楽曲。
はじめて聴いたTHE MILK JAM TOUR をよく憶えています。

Dr.Kyonがキーボード席から大きな体を立ち上げ、
フェンダーのセミホロー仕立てのテレキャスターで
あのゴキゲンなリフを奏で始める。
コアなオーディエンスが好みそうな選曲

"ドライブ" 
派手さはないけどとてもいい感じの太陽が滲み出てきそうなグルーヴ。

最後のフレーズ「君だけなんだぜ」を
オーディエンスに向けて何度も繰り返す。
その内の1回。あれだけやればみんなそう思ったと思うけど、
こっちに向けて演ってくれた気がした。
単純に嬉しかったです。

ここで本編は終了でした。

しばらく続く声援の後アンコールに応えてくれた。

"RockandRoll Night" 
「たどり着くといつもそこには川が横たわっている」
「どんな答えが待っているのか」「たどりつきたい」

この日の締めくくりとして用意してくれた楽曲。
年を重ねたぼくにもまだこの曲が有効であり続けて
いることにあらためて気づいた。

「ぼくのリビングルームへようこそ」
その名の通り本当に目の前で
佐野元春 & The Hobo King Bandの演奏する姿を
観ることが出来た。

佐野さんの揺れる銀髪。メンバーのちょっとした仕草や表情。
ぼくは本当にそこいらの少年みたいにすべてが
新鮮で夢を見ているかのような驚きと
ときめきでいっぱいだった。

この日のライヴは小さなライヴハウスで
ということもあって確かにとてもアットホームで
暖かな雰囲気でもあり、ジャンルにこだわらない音楽への
本当の意味での敬愛をここにいたオーディエンスみんなが
佐野元春 & The Hobo King Bandとともに分かち合えることを
信じられたライヴだった。

でもそれだけじゃない。
佐野元春 & The Hobo King Bandのこの日の鬼気迫る
集中力が醸し出す演奏には次なるステップが滲み出ていた気がする。

Popな出で立ちでRock。
そしてBluesy。

2005年今年も色々なことがありました。
この国の形が揺れ動いている。
冬の夕暮れがこの上ない寒さを携えて忍び寄る。
狂気の連鎖。ぼくらが望んでいた世界。
そこからはみ出た弊害。
ほころびは思いも寄らぬ形であらわれてくる。
それらをどう受け止めていくのか?

景気が良くなっていると言われています。
この先それで全てがうまくいくのか?

覚悟を決めて生き延び続けなきゃいけない。
もう誰も手を差し伸べてくれないんだ。
ぼくはもう甘ったれた子供ではない。

ただ、どうか正気を保たせて欲しい。それだけ.......。

ぼくはいつの間にか年をいくつも重ね、
あらためて自分の現実を背負い続けることに愕然としながらも
「おぼれないように泳ぎ続ける」ことを心に留めておく。


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