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私たちは香料だけで香水選びをしていないだろうか

「モテ香水」「この香水が今buzzってる」「みんながこの香水を使っている」etc…
香水好きはこんな宣伝文句に心を痛めている。

そんなんじゃなくてさぁ、自分の感覚で良いと感じたものを買おうよ

と香水の世界に片脚を突っ込んでいる人間は思う。

香水の選択に関して、もうひとつ気になることがある。

それは、香水が選ばれる時、香りそのものやイメージではなく、香料が選択のキーになってしまっている傾向があるのではないかということだ。

「バラの香料が入っている香水を買いたい」と思うのは間違った買い方ではないが、その情報を元に販売員がピックアップしてくるのは、ほとんどの場合バラの香料が”明記”されている商品であろう。
数多ある香水の中には、バラは使用されていないけれども、他の香料を巧みに使ってバラをイメージした作品もきっとあるように思う。
しかし、販売員が、客の香りの志向を知らなければ、客のニーズに沿って棚から素直にバラの香料が入った香水を選択するのではないだろうか。


このような選択の仕方を否定する全くつもりはない。

けれど、そのような選択の仕方は、はたして作り手の心を尊重しているだろうか。
香水は単にバラの香り成分を水やアルコールやオイルに溶かしたものではなく、作り手が何らかの想いをインスピレーションソースとして、それを香りで表現したものである。
生花に近い香りを選びたいのなら、花屋に行ってバラを買う方が絶対に良い。

香料をキーに香水を選択することは、アートで言えば、「赤が使われた絵を探しています」「はい、こちら赤がふんだんに使われています」というやりとりと似ていてる。
アーティストが心を砕き、頭を捻って、誠心誠意込めて創作したことに対する愛がない。
買い手が何点か絵を見て、そして説明を受け、「ああ、これは素晴らしい、この1枚に感動した」と思って買うことにこそ、アートを買う意味があるのではないだろうか。

とはいえ、山ほどある香水の中からお気に入りの1本を見つけ出すのに、香料は有効な情報源でもある。
とりわけ香水についての情報をあまり持たない人や、とりあえずファーストフレグランスを選びたいという人には、特定の好きな香りを伝え、ピックアップしてもらうという選択のされかたも当たり前と言えば当たり前かもしれない。

私が思うのは、とっかかりは香料でも良い、香水を買うことに少し慣れたら、その次は香料に惑わされず、実際に香りを試して、純粋に良い香りだな、これが好きだなと思える香水を持ち帰ってほしい。
そして販売員には香料の説明に留まらず、ブランドやクリエーターや調香師の想いをお客に伝えてほしい。
作り手の想いに共感し、その商品を気に入って購入する、クリエイション(創作物)を選択するというのは、そういうことである。


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