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敷金返金トラブルで少額訴訟の被告になった話

家族がマンションを所有していて、賃借人が退去をしたら敷金をめぐるトラブルから少額訴訟に発展した話です。


特別送達の到着

 n月中旬に簡易裁判所から特別送達が届く。裁判所から書類が届くことは人生で初めてだ。
 所有マンションのオーナー用ポストに不在配達の知らせが入っていた。事前に管理会社からは争いになるかもと聞いていたが、実際に届くと心は穏やかではない。

トラブルの発端

 n月上旬に管理会社の営業担当から、退去時にトラブルが発生をしているという連絡を貰う。
 前月下旬に退去した賃借人が退去時の部屋確認で管理会社立会いのもと見つかったフローリングとクローゼットのキズの存在を確認する。その場でも費用の負担についてのやり取りはあったようだが、オーナーは退去に立ち会っていないため詳細は不明だ。

賃借人について

 賃借人と書いてきたが、居住していたのは遠方から引っ越してきた女性(Y)だ。実際の契約は親(X)だった。だから賃借人契約もX名義になっている。退去時にはXとYが二人とも立ち合いをしたらしい。

部屋のキズ

 退去時で確認されたキズについては経年劣化(6年居住)で生じたキズであり、故意に着けたキズではない。よってこれを請求されることは承服しかねる。とXは言ったらしい。
 なお後に管理会社からオーナー側に出された写真を見ると玄関ドア付近の電気のパネルと、フローリングのキズが2か所、クローゼットのキズが1か所の4つのキズがあった。

メールのやり取り

 退去確認時にそれ以上のやりとりは時間がかかるため、そこから先のやり取りはメールへと移動する。それから管理会社の担当者とXはメールにてやり取りを重ねていたが、Xは最後は誠意を感じられないため賃貸借契約をしている物件オーナーに対して少額訴訟を行う。と宣言をしてメールを打ち切る。おそらく最初から訴訟を視野に入れていたのだろう。

キズの詳細

 玄関ドア脇の部屋の電気のパネルに2センチ程度のカッターナイフで付けたかのようなキズ。これ関してはプラスチック製であり経年劣化の可能性もゼロではないため、メールでのやり取りの中でこの修理代は0円とする旨を管理会社がXに提案した。
 フローリングのキズは2か所あって両方ともひっかきキズ、なにかを擦ったような跡だった。築15年以上の物件であり、退去後はかならずクリーニングをしてフローリングにもワックスをかけているため、ワックス掛け前にあったキズとワックス後に着けたキズの見極めは容易である。それを経年劣化によるキズと主張した。
 クローゼットのキズについては、クローゼットドアの下に1センチ程度の穴のキズがった。フローリングは光の加減でわかりづらいと強く言う事はできるかもしれないが、これはどうみても居住後に着けたキズであるため修復費用を要求した。
 フローリングとクローゼットのキズで最後は1万円まで減額を管理会社が提案するもXは経年劣化説を繰り返すのみで、減額については一切これを認めなかった。また電気パネル、フローリング、クローゼットのキズに加えて、特約にあるルームクリーニングとエアコンクリーニングの代金のすべてを請求しても敷金から数千円程度は戻る金額であった。つまり、敷金を大きく上回る過剰な額の原状回復費用の請求を管理会社は行っていない。
 また入居時の資料も後に管理会社から見させてもらったが、引っ越し前の内見でみつかっている壁の汚れや、上記にあるワックス掛け直後のフローリングのキズなどはXとY、管理会社立ち合いでチェック済みで書類にサインももらっている。また入居後1週間以内に見つけたキズについてもサイン入りで書類を貰っている。これらの書類で電気パネルとクローゼットのキズについては記入がない。
 入居後の書類には、「フローリングに多数の傷アリ」とメモが書き込まれているが、ワックスをかけたことでワックスの層の下にあるキズとワックス後に着けたワックス層のキズは明らかにわかる。なおこの時点で管理会社はこのXは細かい傷を見る人物という印象を抱いていた。

マンションオーナーとして

 こっちは土地建物を所有しているだけの会社で、入居者の管理は管理会社と契約をしている。部屋数だけで両手両足を余裕で超えるので個々の入退去の立ち合いに参加をすることはない。管理会社からは入居希望者の審査が終わったという連絡と退去の連絡を貰い、賃借人とは賃貸借契約書に押印をするだけの関係だ。賃借人のトラブルはそれなりにある。ゴミ出しから共用部での喫煙などは過去にも何度かあったし、騒音トラブルもゼロではなかった。が、そういうトラブルを丸めるのも管理会社の役目であって、訴状がこちらに届いたからと言って、オーナーが何かできるものではない。相手はそれを狙った可能性はゼロではない。

少額訴訟

ここでやっと訴訟の話になる。
少額訴訟とは、以下のページを見てほしい。
少額訴訟 | 裁判所 (courts.go.jp)

 裁判所から書類が届くなどという事がまず普通に暮らしていたら起こることではない。最初は物件のポストに不在通知が入っていたので、慌てて中央郵便局まで取りに行った。この時必要だったものは、訴状の宛先が会社名であったので、会社宛てに届いた他の郵便物、取りに行った人の社員証、そして身分証明書だ。薄い赤色をした大きな封筒とそこに貼られていた切手の値段に驚いた1500円以上だった。特別送達という種類の郵便で届いた。これは必ず本人が受け取ることとなっているし、法的拘束力をもつ郵便物なので受け取り拒否できない。(マンションやアパートオーナーの中には高齢者もいるだろう。そういう場合も本人ができるだけ郵便局などに行かないと受け取れない。)
 戻ってから封筒を開けると訴状や裁判日、答弁書などが入っている。どれもこれも人生で初めて見るものばかりだ。
 まず訴状を見る。退去時に故意ではないキズについて請求されたから賃貸借契約に基づき御社の代表を訴えた。被害額はn円。(敷金と同額だった)。
 裁判所からの通知で、訴訟を受理したので3月某日に出廷をしなさい。答弁書を入れてあるので、反論ある場合はこの書類に記入をすること。その他に注意事項などが入っていた。
 ざっと目を通して管理会社に電話を入れた。
 管理会社営業担当から出た言葉は、「契約書の特約で、訴訟に関しては物件のある土地の地方裁判所の管轄で行う旨があるので、裁判の移送手続きを行ってほしい。「そしてこれは非常に大切なことなのですが、」

非弁行為

 「管理会社の人間は、弁護士ではないため裁判に出廷をすることはできません。これを非弁行為といいます。今回訴状がオーナー様宛に届いている以上、オーナー様が出廷をしていただくことになります。もちろん反論の証拠を集めるなど全力でサポートはさせていただきますが、できるのはそこまでです。」
 と言われたのだ。
 こちらとしては「( ゚Д゚)ハァ?」である。退去時にも立ち会っておらず、メールのやり取りもざっくりしたものしか聞いていないのに、こっちからすれば駄々をこねてるだけのX相手に裁判所に行けというのか。である。
 とにかく出廷は後程考えるとして、当日まで支援を貰うことを約束し、まずは移送手続きを最初におこなうことにした。

裁判所移送

 とりあえず賃貸借契約書の特約の確認をすると、たしかに裁判についての記述があった。早速簡易裁判所の担当書記官に電話を入れて対応を聞くと、移送申立書という書類をダウンロードできるので、記入して送ってほしい。ただ裁判期日の10日ほど前までには届いていないと裁判官が検討できないので、早めに送ってほしいと言われる。書記官は方言が少し出る良い人だったが、これはどちらにも与しないようにする態度だろうと思った。
709.pdf (courts.go.jp)
 また今後も裁判所から書類が届くのか。と聞いてみると、原告から新たな証拠が出たり、裁判所から移送申し立ての結果は送るので、配達先を自宅などに替えたい場合は、この書類を送ってほしいと言われる。また原告に自宅の電話番号を知られたくない場合、電話番号は空欄でも良いが裁判所から電話がかかるので付箋に貼ってほしいともいわれた。
送達場所の届出書
705.pdf (courts.go.jp)

代理人探し

 管理会社は非弁行為で裁判に直接立ち会えないが、サポートをする。といわれても、裁判当日に現地でなにがあったのかを知っているのは管理会社のみだ。原告は当日立ち会ったXで、現場を知らないオーナーが行っても相手に言いくるめられてしまうかもしれない。また裁判官からの質問にも丁寧正確に答えなければならない。そこで、代理人がが立てられないかを色々と検討することから始めた。
 まずは弁護士だが、顧問弁護士と契約をしているわけではないので、税理士に相談をして紹介できそうな弁護士はいないかを聞くと、「弁護士を紹介はできるが、訴状の金額からすれば大きく足が出てしまうことは確実です。ただ、会社が訴えられている以上、弁護士費用は経費になる。」と言われる。「ただ別の選択肢もありますよ」と言われたのは以下の職業
 司法書士
 弁護士よりもろもろにかかる費用はずっと安く済むうえ、少額訴訟にはもってこいな役目であるが、結局は遠方での裁判なので裁判所が確定をしてから探したほうが良いのではないかと言われる。
 

裁判所決定

 移送申請をして2週間ほどしたら決定通知書が届いた。結果は「否」である。法律用語過ぎて読めないが、金額が少ないため原告にとって不利であること。あと2つほど関連する判例が出ていた。結果、誰が行くかは別として小旅行確定の気配が漂う。

代理人決定

 オーナーとしてできるだけ原告Xとは会いたくないため代理人がどうにかならないかと思案していたが、調べると管理会社の人でも代理人として認められる可能性があることがわかってきた。訴状にある事案について一番詳しいものを出廷させることが望ましいためだ。例えば社長を訴えた裁判でも現場を預かる営業担当を出廷させることはあるわけで、オーナーが訴状の原因となった現場にいなかった以上、一番くわしい者を出廷させるのが最適解だから、管理会社の担当を代理人として申請をすることにした。もちろん管理会社にも顧問弁護士に聞いてもらった。
代理人許可申請書 | 裁判所 (courts.go.jp)
 ただ出したところで、代理人が許可されるかどうかは裁判官次第である。また、申請の許可がいつ下りるのかもわからず、結局は申請書を送って数日たってから書記官に電話をした。帰ってきた答えは
「裁判官が当日代理人の許可を与える」と話しています。とのことだった。
そういう結果も裁判所は伝えてほしいものだと思った。

答弁書提出

 これは反論の提出である。原告の言い分から否認する部分を明らかにし、裁判所に提出をするのだ。これも判決日の1週間くらい前までに届いておいたほうが良いと言われており、訴状が届いてから3週間以内には内容をまとめる必要がある。
訴え(少額訴訟)の相手方となった方へ… | 裁判所 (courts.go.jp)
 答弁書を出さずに、通常訴訟へ移行する選択をすることも可能である。この場合、原告と被告の立場が入れ替わり、お互いに弁護士を立てての訴訟となる。その際に、審議をする裁判所がどうなるのかは不明だ。元の訴訟額からすれば弁護士にかかる費用が大きくなってしまうので、今回は和解の道を探ることにした。もちろん60万になる訴訟金額なら通常訴訟を選んでもいいだろうし、金額の問題じゃない。相手をボコることが目的!という場合は、検討する価値は十分にあるだろう。
答弁書 | 裁判所 (courts.go.jp)

答弁書の内容

 今回に関しては、代理人を管理会社にお願いすることになってから、管理会社に答弁書を書いてもらった。もちろん原告Xとやりとりをしているし、現場での写真も多く撮っているので、どういう答弁書にしたのかは書き終わったものを見ただけである。これを素人が1から書いてみてもいいだろうが、正直面倒だという感想しかなかった。当然だが、裁判官が読んでこちらの言い分をしっかりくみ取ってくれるような証拠を添付するべき。訴訟の結論として、オーナー側の意向で裁判を長引かせたくないことと、ルームクリーニング費用とエアコンクリーニング費用については特約にある金額を退去時に求めており、書類にXもサインをしている。訴状に書かれている金額のうち、争点になるのはフローリングとクローゼットのキズだけであることを明確にした。さらに、長引かせないためこれらのキズの修復費用をオーナーから返金することで和解を申請した。

裁判の結果

 和解で終結した。当日は代理人である管理会社の担当に行ってもらった。裁判官からも質問があったようだが、30分で終わった。結局、こちらの要望通りに返金(一部減額)の和解となった。詳しいことは電話で聞いただけだが、商習慣への質問もあったようだから、やはり物件を持っているだけのオーナーが興味半分で行ってもうまく答えられたかは疑問に思う。相手の反応を見る限り、納得いかなくても裁判官がそういうなら和解します。だったようだ。
 和解金をオーナー名義の口座から振り込めば良い。期間は3か月以内。和解調書の作成が終わり次第、裁判所から送られてくる。これで終わりとなる。和解金が60万円とかになると、分割も認めらるようだが、それは裁判内容、あるいは裁判官、あるいは過去の判例次第なんだろう。

かかった費用

 裁判のために買ったもの
 管理会社とのやり取りで使用したレターパックが3通(370円×2,520円×1)。1枚は書き損じてしまった。
 裁判所に移送申立書送った先に使用したレターパックが370円
 代理人許可申請書に必要な500円の収入印紙
 答弁書を送る際に、原告にも送るために必要と言われた切手代が1592円?  
  詳しい金額は忘れたが、1500円以上の切手を買った。
 その他
  訴状は紙で届く(当然)なので、それを全部PDFにスキャンをした。複合プリンターを持っていたので、それを使いPDF化はそれで済ませた。
 PDFの加工は
JUST PDF 5 | JUST PDF 5 - PDFソフト | ジャストシステム (justsystems.com)
 を使用した。
 こんなことは2度とないだろうと思うので、買い切りタイプとした。もちろん経費にする。
 

かかった時間と心労

 1番辛かったのは代理人が管理会社になることを調べるまでだった。ろくでもなさそうな相手と裁判でやりあうのかと思うと辛かった。弁護士の知り合いがいれば調べてもらえばよかったがいなかったので、グーグルに聞く以外になかった。代理人が決まってだいぶ心労は下がった。
 あと直接出廷はしなかったが、裁判所に行くと丸1日がつぶれることになる。往復の交通費も必要だ。その他に証拠書類を整理して、書いて、郵便局から投函する時間もばかにならない。管理会社の担当も訴訟は初めてと言っていたくらいだから、その人物を1日出張させる費用もかかったはず。また、答弁書は手書きだし、それを書く時間も通常業務の中でやるとはいえ、その時間をほかに回せた可能性だってある。オーナーとのメールのやり取りも50通近くになっている。
 訴訟金額は大したことないし、和解の金額だってそうだが、それにかかった時間を金額に直すとはそれを大きく超えている。相手はそれも狙ったのだろうか。

住所流出の懸念

 訴状の宛先には登記簿に書かれている住所が書かれていたが、それを調べるための登記簿を見れば代表者住所は載っている。つまり原告には代表者の住所は知られているのだ。もしアパートマンションなどの物件オーナーになって、そこへの収入は会社名義で対応をする。という人は、訴訟の際は覚悟をしておいてほしい。もちろん原告の住所もわかるが、相手に住所は筒抜けになる。
 個人情報が重要視される時代に、裁判だからといって住所が第三者に知られるのはあまり気持ちのいいものではない。手間がかかっても裁判所で住所の扱いを制限してほしいものだ。

最後に

 被告になると面倒だったというのが一番の印象だ。原告側は怒りが原動力のようなところがあるだろうし、被告が無視すれば請求額が全部通るから、やりやすいタイプの訴訟なのだろう。ただ今後はオーナーが訴えられても管理会社を代理人として請求すれば淡々と進むことは覚えたので、戸惑うことは少ないと思う。

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