ちょっと寄り道・・・「DX最前線」

 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは、高いパフォーマンスを実現するための「証明された」リーダーシップと経営の実践的な方法(プラクティス)を示したものです。

 ボルドリッジ・エクセレンス・フレームワークは2年ごとにその時代の最先端の実践を取り入れて改訂されています。最新の2021-2022年版で特に着目した点に「デジタル化と第4次産業革命」があります。

 丁度、デジタルトランスフォーメーション(DX)について話す機会を頂きましたので、その準備のため、関連する情報を集めています。以下はその覚書です。

「日経BPムック 攻めと守りで変革を実現 DX最前線」
(日経XTECH編、日経BP社、2020年8月刊)

 新型コロナウイルス感染症の拡大が、企業にDXの有効性と必要性の認識を確かなものとしたとして、ウィズコロナ、アフターコロナで取り組むべき必須の課題としてDXを位置づけ、日経BP社の雑誌記事を中心に、事例や論説をまとめたものです。

 本書では、DXを「攻め」のDXと「守り」のDXの2つに分けて説明しています。「攻め」は新しい技術を使ったDX。ドローンやALなどの技術を使い、業務を大きく変えるもの。「守り」は基幹系のシステムをクラウドに移行するもの。「攻め」の事例として、大手保険会社、アパレルなどの小売りの現場、ドローンを活用したサービスを紹介しています。

 既存ビジネスをデジタル変革しようとすると様々な壁にぶつかりがちであるとして、事例紹介とともに、国内企業20社の実態調査から得た教訓をまとめた山田亮氏(デジタルトランスフォーメーション研究所)の記事「デジタル化を阻む厄介な存在」があったので、ポイントを覚書としておきます。

厄介な存在1.現場を混乱させる経営トップ 
 デジタル化ありきでそれによって何をなすか目的が明確でないケース。
 これについては、デジタル化の目的を6つに分類して、それぞれの特徴と求められる行動特性、必要とされる人材を提示しました。

 デジタル化の目的(6つ)
働き方を変える(Work Style)
業務工数を削減する(Operation)
顧客サービスの価値を高める(Service)
製品の価値を高める(Product)
顧客の行動を変化させる(Customer Experience)
事業モデルを変える(Business Model)

 達成難易度は6つの上から下に向けて高くなるとしています。
 上の2つ、Work StyleとOperationは業務効率化を目指すデジタル化であり、「守り」のIT化であると言え、時間をかけて確実に実行することに慣れているIT部門が推進するのに適しています。
 残りの4つ、Service、Product、Customer Experience, Business Modelは、企業競争力を高める「攻めのIT」であると言え、新しいことに挑戦することが求められており、従来のIT部門ではなかなか推進が難しい。
 20社調査によれば、どうしても守りのITのほうに偏る傾向にあるようです。

 ここでいう「守りのIT」はビジネスプロセスのデジタル化であり、「攻めのIT」は新しい価値の創出です。
 本によっては、目的ではなく、これらをDXの段階として次のように提示しているものもあります。

 DXのフェーズ(3段階)
アナログデータのデジタル化(デジタイゼーション)

ビジネスプロセスのデジタル化(デジタライゼーション)

新しい価値の創造(デジタルトランスフォーメーション)

「いちばんやさしいDXの教本」
(亀田重幸・新藤圭、2020、インプレス)より

厄介な存在2:変化を恐れる保守的な社員
 日本企業では年能やポジションが上がるほどチャレンジしたがらない傾向が強い。DXの推進には、こうした変化を恐れる保守的な社員の意識改革が必要として、意識改革のステップを示しました。

 意識改革の9ステップ(1~9)
1.デジタルビジョンを示す・・・デジタル化の価値を社内外に明示
2.シナリオ設計・・・戦略を自社もしくは市場へ展開する際の具体的なシーンを想定
3.ステークホルダーマップとコミュニケーション計画の作成・・・メリットの伝え方を注意深く検討する
4.スポンサーマップとRACIチャートの作成・・・変革のスポンサーに対して役割を説明
5.変革のコアメンバー設定・・・経営トップが権限を与えることを社内へ明示
6.ミドルマネジャーへのコーチング・・・社内で変革の価値を理解してもらう
7.変革に前向きな部門のピックアップ・・・抵抗勢力を理解
8.影響力が強い抵抗勢力の特定・・・コミュニケーションの頻度を上げて、変革の重要性を示す
9.変革にチャレンジした者の評価

 ボリドリッジのいう、イノベーションを支援する環境をつくるリーダーシップの役割として、日本では必要な手続きの一つの例と見ました。

厄介な存在3:日本特有の人事制度
 日本企業が多く採用している「職能資格制度」は、デジタル人材の処遇にそぐわない。
 この点については、デジタル人材の獲得に必要な施策を、採用、配置、評価、報酬、育成などの側面で提示しています。例えば、職能資格制度でなくプロジェクト単位で評価する、年俸制や成果に応じたインセンティブ制度を用意する、などです。

厄介な存在4:機能しないデジタル推進組織
 専門のデジタル推進部門をつくっても、現場部門の協力がないと成功しない。

厄介な存在5:アウトソーシング癖
 すべてをITベンダーにアウトソーシングしてきた習慣が染みついている。
 自分の頭で考えて企画し実行に移し、素早く仮説検証を繰り返すための力として、「デジタルマッスル」を鍛える必要があるとして、デジタルマッスルを鍛えるポイントを提示している。

 デジタル化のビジョンを明確にし、社内外へメッセージを発信し続ける経営トップの決断は重要である。
 その他のポイントは、CDOの起用、デジタル推進組織の設立、など大企業向けのであり、ポイントとなっているが、そもそもこの問題自身が大企業のものということかもしれない。

 本書ではこのあと、「DXの現場を強くする5つのチカラ」も提示しています。中身は少し(かなり)技術寄りです。

 中堅・中小企業がDXをうまく進めるためには、別のステップ、別のポイントが要りそうだ。
 もう少し「寄り道」を続けたい。



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