タイさんの取材ヨレヨレ日記⑫ サリンで吹っ飛んだスクープ
「戦後50年」となった1995年は、いろいろな事件が起きた年でした。1月には阪神・淡路大震災。この連載で以前に書いた「東京銀行、三菱銀行の大合併」。そして、オウム真理教による地下鉄サリン事件。年明けから途切れなく、大ニュースが相次ぎました。
地下鉄サリン事件という超ど級の大事件が起きたちょうどその日の夕刊で、私は金融関係のスクープを放っていました。ある銀行が傘下のノンバンクへの支援を打ち切って破綻させる、という特ダネです。
当局による「護送船団方式」で守られてきた国内の銀行はバブル崩壊まで、どこも経営は安定していました。しかし、90年代半ばには、抱え込んだ不良債権の重みで屋台骨がゆらぐ銀行も現れ始めました。
銀行は「信用」が命です。危ないと思った銀行に預金する人はいませんし、取引をしたがる会社もありません。信用を守るために、どの銀行も力を尽くしてきました。系列企業の経営が危うくなったら、「親」である銀行がカネやヒトを送りこんで、徹底的にサポートしました。そうしなければ「あの銀行は相当に弱っているようだ。グループ企業の面倒を見る余裕もなくなっている」という噂が一気に広がってしまいます。大切な大切な「銀行の信用」が失われてしまうのです。
銀行が系列ノンバンクの支援を打ち切るという私のスクープは、不良債権に苦しむ銀行が、すでに世間の目を気にする余裕も失っている実態を浮き彫りにしました。この渾身の特ダネを夕刊1面用に送った直後です。あの空前絶後の大事件「地下鉄サリン事件」が発生したのは。
時とともに被害状況が明らかになるにつれて、私の記事はどんどん小さくなっていきました。渾身のスクープだったはずなのに、最終的には片隅のベタ記事になってしまいました。
30年近く前の出来事ですが、私にとってとても印象深い経験です。