東大ラクロス部 対談企画③(後編)
GPSSグループ代表 目﨑雅昭
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READYFOR(株) 代表取締役 樋浦直樹(東京大学運動会ラクロス部男子OB)
特別対談
司会:山口幹生(東京大学運動会ラクロス部男子GM)
文責:宇佐見彰太(東京大学運動会ラクロス部男子Relations Manager)
※敬称略
4.「好きなこと」をどのように選ぶのか?
山口: 「やりたいこと・好きなことを見つける」ことと同時に、「見つけたものの中から適切に選ぶ」ことも必要なのではないかと考えています。
友人から聞いた話ですが、開成高校3年生のある学生が、大学に行かずに花火職人になりたいと言い、親、友人、先生の全員から反対されても、突き通して花火職人になったそうです。友人たちは東大や医学部に進学し、やりたいことではないかもしれないけれど、社会的に認めらえる人生を送っていました。高校を出て5年後に同級生で集まった時に、花火職人になった彼が「やっぱり間違っていた。俺がやりたかったことはこれじゃなかった気がするし、皆を見ていると羨ましい」と言いました。
若いからこそ、社会の全体が見えていないからこそ、そういう選択をしてしまうところもあると思いますし、身近で言えば「ラクロス部を選ぶ」というのもすごく難しいことだと思います。この「適切に選ぶ」ということについてどう思われるか、お二人のお話を聞かせてください。
樋浦: まずは「どうして花火職人になりたいと思ったの?」と聞いてあげたいですね。その上で、明確に「花火職人しかない」というケースであれば、どこまで行ってもぶれないと思うのですが、花火職人になりたい!と思った時には自分が考慮していなかった事象があとから出てくると、想いと現実にズレが生じてくると思います。だから、決めつけないことが大事だと思いますし、他の選択肢があるならそれも見た上で選べるのが理想かなと。
山口: なるほど。
樋浦: 一方で、正直なところやってみないとわからないとも思います。花火職人を実際にやってみて、それが本当の目的ではないことが20代前半でわかるのであれば、いくらでもやり直しはきくので。結果的にその道が違っても、一歩いい方向に進んだだけのことだと思うので、きっと幸せには近づいているのではないかなと思いました。
山口: スティーブ・ジョブズが言う「点を繋いでいく」ことにも繋がりますね。
樋浦: 「どう選ぶか」というところは、自分と向き合い、自分を知るところが重要だと思っています。「どうなりたいかの人」と「どうありたいかの人」がいるとよく言われますが、その問いに自己分析だけで答えを見つけるのはなかなか難しい。だから、他との比較をして、自分にとっての当たり前の感覚の外と照らし合わせてみることで、自分のやりたいことの要件や幸せであることの要件の片鱗が見えてくると思います。
目﨑: 「だからみんなの言うこと聞かなきゃだめだよな」「社会的規範に従うべきだ」ということではないと私は思います。開成高校3年生の時に「花火職人になる」と言った彼とその5年後の状態を引き合いに出して、「だから大学に行きなさい」と促すのは違う。そうではなくて、「どんなにみんなが反対していてもやったこと」にすごく価値があると思います。結果として花火職人じゃなかったとしても、それで良くて、他のことをやればいいし、あとから大学に行ってもいい。
山口: 目﨑さんのご経験からすると重みがある話ですね。
目﨑: 僕自身も金融をやめるときには周りから「大丈夫か」と言われました。10年間ヒッピーをやって、戻ってきてみたら当時の同期や後輩が社長になっていたり、何十億を稼ぐ人になっていたり。「もしあの時金融を続けていたら」という考えもふと頭をよぎったけれど、そもそも金融を続けること自体あり得なくて、No Choiceでした。そこに居続けていたら自分じゃないのだから、そう考えること自体ナンセンスであって、そうしていたら不幸になっていたと自信を持って言えました。
樋浦: そのままだったら自分じゃない、お金を一番に考えていたわけではないという気づきが大事ですね。それが社会規範に塗りつぶされてしまわないように問いかけてあげる人がいるといいですよね。
目﨑: 世界を放浪していたときには、「日本的なもの」をシャットアウトしていました。そうして自分を守ろうとしていても、日本に戻ると何気ない瞬間に自分の中に「日本的なもの」が復活してしまいます。
樋浦: 環境って、何を規定しているのかわかりづらいですよね。それが社会の枠組みとして設計されているから、日本の中からでは日本の特殊性に気づきづらい。
目﨑: そうですね。だから定期的に海外に出る必要性を感じています。
樋浦: 僕はコンサルから今の会社に転職した のですが、当時のコンサルのロジックが強い人が「偉い」 みたいな価値観はあまり好きではないと思っていたものの、それ以外の人の評価の仕方を知らないから無意識にその枠組みで見てしまうことがあります。人はルールがあると思考を放棄して楽をしてしまいますが、そこに自分のいた環境による思い込みがないかということをずっと考えています。
目﨑: 自分のOSの部分をいかにフレキシブルにできるか。そこにバイアスがあるんだということを自分で認識して、常に意識しながらチェックして、今自分がどこにいるのかを考えるのはなかなか難しいですよね。
樋浦: 前編でもお話しましたが、僕自身は働きすぎて燃え尽きたときにコーチから「あなたはどうしたいんだ」という問いかけをもらって、社会の仕組みがわかることや、それを自分が「これは素敵だな」と思う方向に近づけていると感じられるときに自分はエネルギーが湧くし、やりがいを感じる、ということが分かりました。その瞬間に、当時めちゃくちゃしんどかったけれど、「今の仕事は自分にとって最適だ」と感じることができました。社会を変えようとしている会社にいて、自分の思考を反映させていけるなんて、こんなに良い役割はないぞと。
山口: 結果として自分自身の選択が自分のやりたいことと重なっていたことがわかったということですね。
樋浦: そのときに、自分がいろいろなバイアスの中で判断しようとしていることに気付けました。こういう「気づきが必要な時」に誰に相談したらいいかということが常識としてあるといいなと思いますし、学生にとっては周囲に信頼できる大人がいるといいなと思います。
山口: ラクロス部はそういう人が多くいるコミュニティなのはとても良いところですよね。
樋浦: そうですね。目﨑さんのGPSSグループもそういう思想のもとにあると思うので、幸せを追い求めていける環境なんだろうなと思います。
5.メンバーの幸せを生み出すチームとは
山口: 僕が今までに会った中で一番良い影響を受けた経営者の一人にセコムの創業者の飯田さんという方がいます。飯田さんに、「経営って何が大事だと思いますか?」と質問したら、「それは社風だよ!」とバシッとわかりやすく断言されました。社風、組織文化という日々全員が触れる環境というものが、日々を強くしている。先ほどの「幸せ」ということも考えると、樋浦さんが言ってくれたように、伴走してくれる仲間がいて、自分の幸せについてしっかりと壁打ち相手になってくれる人がいて、でも「その人が自分にとっての幸せの比較対象ではない」というのが大事ですよね。「あいつに比べて俺はできていない」ではなくて、「お前の幸せを俺も一緒に考えてやるよ」っていう人が周りにいる環境が大事なんだと思います。
樋浦: ゼロサムじゃないですもんね。企画が得意な人もいれば、 オペレーションが得意な人もいる。企画が得意な人にとってオペレーションはやりたくないことだったとした ら、「オペレーションをやっている人は割を食っている」と思うかもしれない。でも、本当はそれぞれがやりたいこと、得意なことをやっていたら全員がプラスになれる。社風というのは、すぐに変えられるものではないので設計が難しいですが。
目﨑: それが多様性というワードの本質だと思います。それでもやはり、日本の教育は「できないことをどうやってできるようにするか」というのが大きくて、できることを伸ばそうとしない傾向にありますよね。そうすると皆が平均的なところに収束してしまうので、せっかくできることも伸びないから面白くなくなってしまう。実際に仕事場でどこまでできるかというのは非常に難しいけれど、それぞれの人が得意なことというのはその人のパフォーマンスが高いはずだから、得意なことや好きなことがその人の職種とはまるように上手く振り分けることができたら一番ですね。
山口: ラクロスの「ポジション」はまさにそういった考え方を実践していますね。
樋浦: READYFORもそれをすごく意識していまして、いろいろなツールを使ってお互いの強みを可視化しようとしています。ストレングスファインダーという各自の強みを分類してくれるテストを入社時に全員に受けてもらい、一緒に働くメンバーがそれを読み合ってお互いの強みや弱み、特徴の相互理解を深めています。
目﨑: なるほど。ダイバーシティについて思うのは、表層的にダイバーシティにすること自体が目的になっているのではないかということです。ダイバーシティというものは、本質的には幸せになるために必要なものだと思っています。それぞれの人が人生を主体的に生きるということ。自分で選んで自分なりの人生を歩むほどに結果が変わってくるはずです。それができる環境を担保すれば、それに影響されて皆が自分の好きなことをして、主体的に生きていこうという方向性になる。そうすることで幸福に近づくはずだと思っています。
6.「学生日本一」に向けて
山口: GMというポジションのミッションとして、「東大ラクロス部に関わった人全員に幸せになってもらいたい」と心の底から思っています。そのためにPower of Communityというコンセプトを持ちながら日々活動しています。
一方で、「学生日本一」という目標を掲げて日々ラクロスをしていると、どうしても「やらされ感」、作業をこなす感覚が出てきてしまう印象があります。自分の経験としても、「ラクロスができて幸せ!」と毎日感じられるわけではありません。そんな中で、ラクロス部の現役部員に「毎日ラクロスができて、仲間といられることが幸せである」と思ってもらうためには、組織マネジメントの観点からするとどうしたらよいと思われるか、教えていただきたいです。
樋浦: 「学生日本一」という目標も、READYFORのミッション・ビジョンも、それに共感できなければ辞めた方が良いと思う一方で、個々のメンバーにとってはそれが人生のすべてではないし、最優先事項ではないと思うのです。READYFORのミッション・ビジョンというのも、会社としては一番大事にしていることですが、それは会社の人格であって、個々のメンバーのそれと完全に一致するものではありません。本人のミッション、やりたいことと向き合った時に、それと所属する組織の目指していることがどうつながるのかということが考え抜かれていると良いと思います。
山口: 個々人の想いや目標がそのまま「学生日本一」ではないかもしれないけれど、ベクトルとしては同じ方向を向いていて、双方の達成に向けた進歩を支え合う関係になっているということですね。
樋浦: そこが繋がると、「自分のやりたいこと」をやることの延長線上にチームの目標があるので「やらされ感」はなくなると思います。それを知るために、他の人と話をして「自分のやりたいこと」を言語化することが大事です。
山口: 仲間を知ることにも繋がりますね。
樋浦: 会社であれば、ミッションやビジョンを嫌いになったわけではないけど、その人の「やりたいこと」 を機会提供することが難しいタイミングが来たから辞めるケースもあるし、辞めた人が外で成長してまた戻ってきてくれることもある。辞めた瞬間に敵になるわけではありません。コミュニティとしては、チームを離れた人たちともそういった関係性を築ける環境を提供できればいいのかなと思います。
目﨑: ひとつの理想として、会社というのは人生の一部分を過ごす場所になると思うけれど、その時間がその人の人生にとって最高な時間であってほしいと思っています。そのためには、大前提として、事業が掲げる大義のもとに、「自分は世の中の役に立っていることをやっているんだ」とみんなが認識できるようなビジョンや事業を組み立てなければいけません。それが自分の人生の大きな存在意義に繋がってくると思います。その中で、個人個人が最大限にポテンシャルを発揮でき、それまで培ってきた経験やスキルを出し切って社内に貢献できるような環境づくり。そして組織のカルチャー。コミュニティにおける人と人とのコミュニケーション、人間関係が単に仕事だけでなく、仲間として時間を共有できるような関係性をどれだけ作れるかが大きな課題であり、目標だと思います。
山口: 非常に勉強になりました。「幸せとは何か」というテーマから「幸せを生み出すチームづくり」というところまでお話しいただきましたが、現役にも両社の皆様にも良いメッセージになるのではないかと思いながら伺っていました。ありがとうございました!