防災に関するアンケート調査(2022年)
こんにちは。ゼネラルパートナーズ 障がい者総合研究所の戸田です。
今回は、「防災に関するアンケート調査(2022年)」をお届けします。
今年で東日本大震災から11年となります。全国にお住まいの障害のある方を対象に、防災に関する調査を実施しました。一昨年同様、障害のある方が普段から災害の備えとしてどのような準備をしているのか、といった定期的な調査に加え、新型コロナウイルスの感染拡大によって防災意識にどんな影響があったのかについても調査しました。
※2020年にも同様のアンケート調査を実施しています。
対象者:障がい者総合研究所アンケートモニター(回答者属性は巻末をご覧ください)
実施方法:インターネット調査
アンケート期間:2022/1/18~2022/1/31(有効回答者数:119名)
【質問1】最も備えが必要だと思う災害は何ですか?
【質問2】あなたまたは同居のご家族が、防災対策として実施していることを教えてください。(あてはまるものすべて)
<2022年の調査>
<2020年の調査>
【質問3】あなたの障害に関連した防災対策はありますか?
<2022年の調査>
<2020年の調査>
【質問3-1】質問3で「ある」と回答された方にお聞きします。備えている内容をご記入ください。
(2022年調査 自由回答欄より一部抜粋)
・常飲薬を非常用持ち出し袋に入れている。(女性/30代/近畿地方/ADHD)
・白杖を常にわかるところに置く。(男性/50代/関東地方/視覚障害)
・人工内耳用の電池を1ヶ月分多く備蓄。(女性/50代/関東地方/聴覚障害)
・視覚障害故に避難所等で必要となるサポートについて、自治体へ伝えておくこと。(女性/50代/関東地方/視覚障害)
【質問4】新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、新たに防災対策として実施したいと考えていることを教えてください。(あてはまるものすべて)
【質問5】今後、災害が発生し避難する必要が生じた際、あなたの障害に起因する支障はあると思いますか?
<2022年の調査>
<2020年調査>
【質問5-1】質問5で「あると思う」と回答された方にお聞きします。どのような支障があると思いますか?
(2022年調査 自由回答欄より一部抜粋)
・避難場所へ移動する場合、路面が変形していたりと健常者であっても歩きにくいような状況となっていたら支障をきたします。(男性/40代/関東地方/上下肢)
・障害の部位的に音声による案内等が分からない。(男性/60代/近畿地方/聴覚障害)
・集団の中での避難生活はかなりのストレスが予測出来るので、如何に家族だけで避難するかを考えています。(男性/50代/中部地方/うつ)
・情報が入らない。自治体の放送もわからない。スマホに災害情報が流れてくるが、スマホが災害時使えるのかわからないので。(女性/50代/関東地方 /聴覚障害)
・透析施設の確保。(女性/40代/近畿地方/腎臓)
・家族・仲間を探せない。墨字のみの情報下でトラブル・不具合を生じてしまう懸念、災害時の電線切れなどによる感電。(男性/40代/関東地方/視覚障害)
・不安・寝不足・ストレスによるてんかん発作が出てしまう可能性がある。(女性/30代/てんかん)
【質問6】今後、災害が発生し避難所で過ごすことを想定した場合、あなたの障害に起因する支障はあると思いますか?
<2022年の調査>
<2020年の調査>
【質問6-1】質問6で「あると思う」と回答された方にお聞きします。どのような支障があると思いますか?
(2022年調査 自由回答欄より一部抜粋)
・差別、偏見。(男性/40代/関東地方/免疫機能)
・人の目が気になる。(男性/50代/関東地方/統合失調症)
・避難所での文字伝達がどのくらいあるのか不明。過去のデーターで音声のみの案内により食料の配布に気づかなかったという例が報告されている。( 男性/60代/近畿地方/聴覚障害)
・いじめにあいそう。 (男性/50代/関東地方/上下肢)
・情報が入らない。避難先でマスクで説明されてもマイクで説明されても、聞き取れない。 (女性/50代/関東地方/聴覚障害)
・障害を理由に差別される。障害を理由にいやな思いをする。障害を理由に排除される。障害を理由に嫌がらせを受ける。障害を理由に配給される食糧や飲料、物品をもらうことができない。(男性/50代/近畿地方/躁うつ(双極性))
【質問7】災害時に周囲や自治体の方に支援してほしいことはありますか?
<2022年の調査>
<2020年の調査>
【質問7-1】質問7で「ある」と回答された方にお聞きします。どのような支援をしてほしいと思いますか?
(2022年調査 自由回答欄より一部抜粋)
・明確な情報が必要。(男性/50代/関東地方/聴覚障害)
・仕切りやパーテーションなどのプライバシーの保護。(女性/30代/近畿地方/ADHD)
・ホテルなどの融通。(その他/関東地方/自閉症)
・障害者、健常者に関係なく、分かりやすくリアルタイムが出来る表示器があれば安心。 (女性/50代/近畿地方/聴覚障害)
・相談にのってもらうこと。(男性/40代/近畿地方/うつ)
・通常の災害対応(食料提供、医療支援等)に加えて、メンタルヘルスケアの専門家による相談窓口。(男性/50代/関東地方/ うつ)
・移動の介助。(男性/40代/九州地方/上下肢)
・一般の健常者と同等の扱いをしてほしい。障がいを理由に差別を受けることの内容配慮、または一般の人に呼び掛けて欲しい。(男性/50代/近畿地方/躁うつ(双極性))
・安全安心な避難移動や避難場所、医療や介護サービスの提供ですが、実際は混乱の中何とか生き残って自助努力しか無いと思っています。 (男性/50代/近畿地方/上下肢)
・可能な限り自宅で避難生活ができるような方法を考えていただけるといいと思います。(女性/50代/関東地方/視覚障害)
まとめ
[1]最も備えが必要だと思う災害として、「地震」と答える方が最も多く、全体の約78.2%であった。
[2]同居のご家族が防災対策として実施していることとして「飲料水の備蓄」と答える人が最も多く、ついで「食料の備蓄」「地域のハザードマップの確認」「避難場所・経路の確認」「非常用持ち出し袋の準備」が続いた。
[3]防災対策として実施していることで障害に関連して備えていることが「ある」と答えた方は約13%であった。前回調査の回答割合とほとんど変わらなかった。具体的な備えとしては、薬の備蓄、補聴器・人工内耳用の電池の備蓄、白杖の置き場所の把握などとなった。
[4]新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、新たに防災対策として実施したいと考えていることとして「マスクの追加備蓄」が最も多く、ついで「アルコール消毒液の追加備蓄」「除菌シートの追加備蓄」「体温計の備え」が続いた。一方で「特にない」という回答も全体の約25%となり、コロナ禍の防災で準備ができていない面も見られた。
[5]災害が発生し避難する際、障害に起因する支障が「ある」と答えた方は約49%、「ない」と答えた方は約17%となった。具体的には「歩いての移動ができるか」「避難期間中の薬の確保」「透析が受けられない」「情報保障が不足する」等があった。
[6]避難所ですごすことを想定した場合、障害に起因する支障が「ある」と答えた方は約61%、「ない」と答えた方は約11%であった。具体的には「薬の不足」「透析の確保」「障害を理由とした差別、排除」「情報保障の不足」などがあった。
[7]災害時に周囲や自治体の方に支援してほしいことが「ある」と答えた方は約51%と一番多かった。次いで「分からない」と応えた方が約34%、「ない」と答えた方は約15%となった。具体的には「薬の確保」「プライバシーの保護(ホテルの融通など含む)」「情報保障の整備」などがあった。
【総研の見解】
今回は119名の方より回答をいただきました。アンケートにご協力いただいた皆様には改めて御礼申し上げます。
備えが必要だと思う災害として、およそ8割の方が「地震」と回答しました。余談ですが、「噴火」が前回調査時の5位から3位まで順位を上げています。これは、調査期間中にトンガ沖海底火山噴火が発生した影響により印象が強かったことによる影響と考えられます。
そして、防災対策として実施していることとして、「飲料水の備蓄」「食料の備蓄」「地域のハザードマップの確認」「避難場所・経路の確認」「非常用持ち出し袋の準備」となりました。
今回「コロナ禍における防災対策の面で、新たに実施したいこと」についても聞いてみました。回答上位には「マスクの備蓄」「アルコールの備蓄」「除菌シート」といった、普段の生活から心がけていることが挙げられました。一方、密を避けるための「分散避難」については複数回答できるにも関わらず回答率が約18%にとどまりました。これは、「分散避難」自体の認知度がまだ低いことが影響しているのかもしれません。
備えの重要度順については前回調査と大きく変わるところはなく、自宅内避難を主眼に、自宅外避難も想定した準備がされているようです。そして、前回調査で防災対策は「特に何もしていない」と回答した割合が21.6%でしたが、今回の調査では9.2%と半減していました。これについては、防災意識の変化の表れとみるか調査時の誤差の範囲なのかは、継続してデータを見ていく必要がありそうです。
一方、「自分の障害に関係して備えていること」に関しては、防災対策として実施していることについて「ある」と答えた方は約13%であり、前回調査とほとんど変化はありませんでした。これについては後述の質問「避難する際、あなたの障害に起因する支障があるか?」そして「避難所ですごす場合、あなたの障害に起因する支障はあると思いますか?」と併せてみる必要があるでしょう。
前回調査時と同じく、「避難する際、あなたの障害に起因する支障があるか?」の質問では、およそ半数(48.7%)の人が障害に起因する支障が「ある」と答え、「避難する際、あなたの障害に起因する支障があるか?」質問では6割近く(60.5%)の方が障害に起因する支障が「ある」と答えています。にもかかわらず「自身の障害に関係した防災対策はありますか?」との質問に対し「はい」と回答した割合は13%にとどまっています。これは注目に値すると言えるでしょう。
前回調査とほぼ回答割合が変わっていないことから、災害の備えに関していえる点は、障害当事者自身で賄えること(自助)には限りがあるということです。一例として、聴覚障害者の場合、防災対策として自分でできる備えとして、補聴器用の予備電池の備蓄や防災バンダナの準備など完備したとしても、避難状況を把握することや、避難所生活を続けることになった場合に、文字情報や手話通訳といった情報保障環境が整備されていなければいずれ孤立化する恐れがあります。
このように避難に際しては他者の協力(援助・配慮)、自治体、行政側の支援(公助)が必要不可欠です。そしてどのような援助、配慮が必要なのかについては障害者一人一人個別性が高くいため、「福祉避難所」を確保していくことは今後の課題といえるのではないでしょうか。
「周囲や自治体の方に支援してほしいことはありますか?」という質問に対しては「ある」と答えた方は約51%となりました。(前回の調査では約37%)。防災に対する意識は年々高まりを見せており、いざというときにどういった支援が必要かについて障害当事者の声が具体化されつつあるようです。
アンケート回答で得られた、発災時の具体的な不安や困りごとは実に貴重な情報かと思います。これらの情報を広く社会に知ってもらい、今後の被災対策に役立ててもらえれば幸いです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【属性情報】
■性別
■年代
■障害種別
■これまでに実施した防災関連のアンケート
・防災に関するアンケート調査(2020年8月)
・震災対策および防災に関する調査(2018年3月)
■プロフィール
障がい者総合研究所 所長:戸田 重央
2015年より聴覚障害専門の就労移行支援事業所「いそひと(現atGPジョブトレ大手町聴覚障害コース)※」を開所、初代施設長に。 2018年より障がい者総合研究所所長に就任。新しい障害者雇用・就労の在り方について実践的な研究や情報発信に努めている。 その知見が認められ、国会の参考人招致、新聞へのコメント、最近ではNHKでオリパラ調査で取材を受ける。 聴覚障害関連で雑誌への寄稿、講演会への登壇も多数。※聴覚障害者専門の就労移行支援事業所「atGPジョブトレ大手町聴覚障害コース」