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日本のアカデミアシーズをグローバルマーケットに繋ぐ!IPO直後の株式会社ティムス代表取締役社長若林拓朗氏インタビュー

2022年11月に東証グロース市場への上場を果たしたバイオベンチャー企業「株式会社ティムス」(本社:東京都府中市、証券コード:4891)の代表取締役社長 若林拓朗氏に、会社概要とビジネスモデル、上場前後の苦労、若林社長のキャリア、機関投資家からのフィードバック、今後の展開について、お話を伺いました。

急性期脳梗塞で麻痺が少なくなる新薬を開発中?!

ー ティムス社の事業概要とビジネスモデルについて、改めて教えてください。

弊社は医薬品開発における一連の流れの中で、研究シーズの探索段階から早期の開発段階までを行うバイオベンチャー企業です。医薬品は商品化するまでの道のりが長く、有望な研究シーズを見つけても、非臨床試験、治験等の臨床試験や薬事承認を経て初めて患者の方々に広く届けることができるのですが、医薬品の効果を確認するための臨床試験等、開発段階が進むほど莫大な費用がかかります。そのため、後期の開発段階については製薬大手と提携し、画期的な医薬品を迅速に、かつ広く送り届けることを目的に事業を行っています。

具体的な事例として、米国の製薬大手バイオジェン社がティムス社の研究開発した「TMS-007」をもとに、急性期の脳梗塞に画期的な効果をもたらす可能性のある新薬を開発しています。

これまでバイオジェン社から提携契約に伴う「契約金」や、知的財産権を含む研究開発データの所有権の対価として「オプション行使料(開発一時金)」を受け取りました。さらに今後、開発や医薬品販売の達成段階に応じて「マイルストーン収入」や「ロイヤリティ収入」といった売上が計上される可能性があります。

目論見書「2 事業モデル」より抜粋


ー 具体的にはどのような収益があるのでしょうか。見込みも含めて教えてください(注1)。

2018年6月に「契約金」として400万ドル(約4億39百万円)、2021年5月に「オプション行使料」として1800万ドル(約19億85百万円)をすでに受領しました。今後の「マイルストーン収入」については、開発・販売状況に応じて最大で3億3,500万ドル(約435億5000万円)、「ロイヤリティ収入」は 医薬品の売上に応じて一桁%台後半から10%台前半を受け取れる可能性があります。

(注1)表記の為替相場について
当該取引発生時の為替相場による円換額で記載しております。また、将来の為替相場については、便宜上1ドル130円で計算しております。当レートにて将来必ず換金されうることをお約束するものではありません。

ー 脳梗塞医薬品の現況や、予想される市場規模について教えてください。

現在、脳梗塞では「rt-PA」という治療薬が世界各国で共通に承認されている唯一の医薬品となっています。「rt-PA」の年間売上高は21億ドル(約2730億円)程度あり、年齢が上がるほど発症しやすいことから高齢化が進むほど市場は年々拡大されると予想されています。

ただし、「rt-PA」では、副作用の発症リスクがあるため、発症後4.5時間以内という投与時間による制限があり、実態としては急性期の脳梗塞患者のうち1割に満たない患者にのみ治療薬が投与されているという状況ですので、将来的にバイオジェン社の開発した治療薬が投与時間の制限を大幅に改善し、副作用を軽減することができれば、より多くの脳梗塞患者の方に投与することが可能となり、市場はさらに拡大が見込まれます。そのため、バイオジェン社もできるだけ迅速に開発を進める旨を表明しています。

ー バイオジェン社と業務提携に至った背景はどのようなものだったのでしょうか?

前提として、バイオジェン社はヒトの首から上、いわゆる脊髄や脳、目などの神経系等の疾患に特化したアメリカの大手製薬会社ですので、脳梗塞もターゲットとして興味はあったようです。ただ、脳梗塞の研究開発については2000年代前半に多くの企業が撤退しており、実際、この25年間、新薬の承認が出ていません。つまり弊社にとっても、最適なパートナーであった訳です。

ー バイオジェン社からはどのような点を評価されたのでしょうか?

多数ありますが、動物実験で一定の効果を得られたことや、「抗炎症作用」といった独自のメカニズムに対して評価を受けました。実際に、まだ臨床試験段階ではありますが、現在の治療薬を使用した際に発症する副作用がTMS-007ではみられなかったことなどからその期待は高まっていると思います。

上場までの長い道のり

ー 2005年の会社設立からバイオジェン社との契約に至るまでの13年、上場まで17年と考えますと、さまざまなご苦労があったのではないでしょうか。

弊社は元々、東京農工大学の蓮見蕙司教授(現在はティムス取締役会長も兼務)らの研究成果を実用化することを目的に、2005年に設立された会社です。自社で進めてきた研究開発の成果が認められるまで、「あと1ヶ月で資金が底をつくかもしれない」という時期を何度も乗り越えましたし、私自身、製薬業界のバックグラウンドを持っていなかったため、人材集めにも苦労しました。

ただ、バイオベンチャーは「自分たちの研究は世の中のために役に立つ」と信じて研究開発を愚直に進め、期待する結果を重ねていくことしかないんですよ。そこには資金繰りや採用といった経営とはまた別の忍耐が必要で、信じてやり続けることの難しさや厳しさはあったと思います。その中で、蓮見氏は研究者としての研究センスに加えてビジネス感覚を持っていますし、人として信頼をおけますので、医薬品の承認はまだ少し先ではありますが、信じて一緒にやってこれたこと、新薬の想定マーケットを測れる段階まで到達したことなどはバイオベンチャーとして本当に幸運なことだと思っています。

ー 若林社長はもともと創業メンバーではなかったと伺っております。これまでのキャリアやティムスとの出会い、社長に就任されるまでの経緯を伺ってもよろしいですか?

東京大学を卒業後、リクルートを経て、2001年に大学発ベンチャーに投資を行うベンチャーキャピタルを創業し、翌2002年に日本で初めて大学発ベンチャー投資に特化したベンチャーファンドを設立しました。当時の背景として、日本の大学の研究成果を民間企業に技術移転すべく、TLO法が制定・施行されて間もない頃で、技術移転先としては大企業が主流と考えられていたのですが、世の中を大きく変えるような技術はベンチャー企業が手掛けていくものと信じて支援したいと考えて起業しました。

日々、多くのベンチャー企業や研究者の方々とお会いし、事業や研究内容についてお話を伺う中で、2007年ごろにティムスに出会い、出資をしました。ただ、当時のティムスの投資担当者は私ではなく、関係性はまだそこまで深くありませんでした。

ティムスに参画することになった転機は2つありました。1つ目は、2011年にティムスの投資担当者が退職したことで、私がティムスの支援をすることになりました。その頃、ティムスはターゲットを脳梗塞にピボットしたばかりでしたが、蓮見氏と対話を重ねる中で「この人はホンモノだ」と確信するようになりました。2つ目は、ティムスで社長をされていた方が退社されることになり、蓮見教授が社長を兼任することになったのですが、大学発ベンチャーの規則上、教授以外の人間が共同代表にならなければ会社を存続できないというルールがあり、私に白羽の矢が立ちました。

当時、私は自身が興した会社の社長で、意思決定者は私でしたので、自分の意思で共同代表になることを決めました。ティムスの経営に専念するようになったのは2018年です。

ー IPOを意識されたのはいつごろでしたか?

明確に意識したのはバイオジェンとの契約が成立した2018年ごろでしたね。そこから幹事証券会社を決める過程でグローバルオファリング(日本国内市場以外に海外市場でも同時に募集を行うこと)をしたいと考えました。海外のバイオ企業のIPO支援実績をもつジェフリーズ証券には以前から興味を持っていましたので、ジョイント・グローバル・コーディネーターとして参画してもらえて、グローバルオファリングが実現しました。

ー グローバルオファリングをされてみて、海外の投資家と日本の投資家の違いは何か感じられましたか?

アメリカの話になりますが、NASDAQではバイオベンチャー企業が年間100社前後上場していますので、投資家の数と資金量は圧倒的に違います。また、バイオベンチャー企業の扱いにも慣れている方が多く、例えば研究開発データを精度高く見れるなどサイエンスベースで話ができる人が多いことなどは、違いとして感じています。

バイオベンチャーの株価に影響を与えるイベントとは

ー サイエンスのバックグラウンドを持たない私のような人間からしますと、バイオベンチャー株に苦手意識があります。貴社の何を見て投資判断をしたらいいのでしょうか?

この質問には「私が」というよりも「機関投資家の方々が」おっしゃっていたフィードバックをもとに回答します。当面は、TMS-007の段階ごとの臨床試験の結果が株価に影響を与えるイベントであると言われています。結果が良ければリスクディスカウント(投資用語、リターンの期待値から確実性等価格を引いたもの)が減り、理論株価が上がると期待されています。

ただ、この臨床試験の結果が出るまでの期間が長く、前回は2017年11月から2021年8月と約4年にわたって「TMS-007の前期第Ⅱ相臨床試験」を実施し、臨床試験のデータを公開しました。今後は「フェーズⅡB」、「フェーズⅢ」と進み、それぞれ結果を公表しますので、その結果を投資家の方々に受け止めて判断いただいた結果が、株価に反映されていきますが、バイオジェンが実施しますので、そこまで時間はかからないだろうと考えています。

TMS-007の他にも、開発パイプラインはありますのでそちらで好材料が出ることで株価が動く可能性もあります。

ティムス社 目論見書
https://search.sbisec.co.jp/v2/popwin/info/connect/ipo/202210182101.pdf

機関投資家、個人投資家問わず、限られた時間の中で数多の企業の投資検討をされています。その中で投資対象として弊社に興味を持っていただくため、リスク言及を怠らずにいかにわかりやすく企業価値を伝えていくかについては非常に意識しています。ただ、良い意味で驚くようなデータが出た場合に、投資家の方々の正常性バイアスをどう克服するかなど、苦心するポイントは多いです。

ー 今後の行動目標について教えてください。

TMS-007をもとに新薬が完成し、必要とする患者さんの手に届くことはもちろんのことですが、企業としてはTMS-007に続く成功事例をつくるため、研究開発とアカデミアシーズの発掘を進めます。すでにTMS-008といったパイプラインの研究開発は進めていますが、日本のアカデミアシーズは全国のラボに存在すると考えています。弊社が彼らの研究成果を支援し、グローバルでマーケットを持つ企業につなぐという事例を増やしていきます。

バイオベンチャーの未来について

ー 医療・バイオサイエンス系のベンチャーが日本から生まれるためには何が必要だと思われますか。

まず、日本には大手の製薬企業や研究機関が多数ありますので、その分、バイオベンチャーが生きる道があるということを認識することではないでしょうか。その上で「この研究の結果、こういう疾患に効く薬ができる」というコンセプトをしっかりつくれるといいですが、「理由はまだはっきりとわからないけどこういう効果が出た」という研究についてもお話を伺ってみたいですね。また、製薬会社で不要とみなされて研究を続けられなくなったものの中にも、シードになる可能性、余地があると思います。あとは、グローバルで考えると、アメリカの製薬会社やバイオベンチャー企業が取り組んでいないものだと、より戦いやすいのではないでしょうか。かっこわるいかもしれないけど誰もやらなさそうな研究であれば、資本力を持った欧米の企業との争いが避けられます。

ー 最後に、バイオベンチャーの経営者や大学発ベンチャーの支援者など、すぐに結果が出ない世界でキャリアを積む方々にエールをお願いします。

投資家や経営者として、20年以上大学発ベンチャーに携わってきましたが、「若い研究者が将来に希望をもてる社会にしたい」という考えは当初から変わっていません。バイオ領域におけるスタートアップエコシステムをつくるよりもさらに上位の、いえ、基本の概念として、サイエンスベースでロジカルに話せる社会を「未来のあり方」として考えています。

過去においてサイエンスは何度も社会を大きく変え、今の社会が存在しています。これだけの大きな力や可能性を持ったサイエンスが社会の役に立つ手助けをしたいし、社会から正しく認識される世界が見たい。しかし、登山に例えると今はまだ2合目くらい。私の人生をかけても頂上まで辿り着かないかもしれない、と思いながらも歩き続け、世の中のために役に立つと信じたことをやり続ける。これだけです。ともに頑張りましょう。

※TMS-007が対象とする「脳梗塞」について、急性期の脳梗塞を指しています。慢性期は含まれておりません。

インタビュー:栖峰投資ワークス コミュニティマネージャー 亀岡 愛弥

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