奇策、ホームスチール

あの頃僕はミソだった。
高校生の頃、仲の良い5人で友だちの部屋に集まり、初代ファミコンのファミスタ(ファミリースタジアム)をやっていた。下手くそな僕は後ろで観ている。
NとKがチームを組みTとOがチームを組む。レイルウェイズ対フーズフーズの対戦。割と健全だったのだろう。誰もタバコも吸わず、酒も飲まない。みんなただの野球好き。かと言って野球部ではない。
9回の攻防、NとKのチームが1点差で負けていた。だがランナーが3塁にいる。TとOはあと1アウト取れば勝つという場面。コントローラーを握るのはN。Nは奇策に出た。3塁ランナーを投球と同時に走らせたのである。TとOのチームはどちらがコントローラーを握っていただろうか。とにかくランナーを3塁とホームの間で挟む。ミスを誘い、ランナーがホームに返って同点。
Nの眼は血走っていた。Nと握手するK。うなだれるTとO。何故そんなに熱くなるのかが分からなかったが、ミソの僕まで熱くなっていた。