戦争と呼ばれるライブを続ける~下~

「僕らがやりたいのは普通のポップ・ロックなんです。全員で脱退します」

 受信したメールにはそう書かれていた。上京して一年後、声優専門学校の後輩も上京してきており、彼らがバンドをやりたいと言うので私もギターとして入った。ハードロックを基本としたバンドだった。
 あいも変わらずギターという物があまり理解出来ていない私は「すごい音が出る」と本に書いてあったファズというエフェクターを買った。ロシア生まれのアーミーグリーン。今現在、多少のプレミアも付いている。そんな状態だからこそメンバーに愛想を尽かされたのであった。
 リハーサルなどでも「音量を下げろ」と言われても、ライブでは思い切りでかい音を出して演奏していた。お客からの「ギターしか聞こえないバンド」という評を聞き、メンバーに「ボリュームを上げろ!」と言うと逆に下げろと言われ続けてきた。

 やりたかったバンドという行為をしているにも関わらず心は燃え上がらないままだった。どこにでもあるバンドをやっていて気がついてしまった。私は音楽に特に興味がない。しかし音楽以上に、人前で演奏するライブに興味がある。ライブをやるためにバンドを組みたいという思いに気がついたのだ。
 気がついてしまったのだからしょうがない。私はライブ中に大暴れを繰り返していた。ステージにいる時間よりも客席でギターを弾いたり踊ったりしている時間の方が長かった。バンドをちゃんとやっている人間からはグチグチ文句を言われ、ハードな感じの先輩からは「若さって良いな!」暗にバカにされていた。

 ライブとは何か?ライブとは音楽活動における副産物ではないか?違う。違うのだ。生きた人間が人前に立つことがライブなのだ。人の前に立ち何かしらの表現活動がしたい。それが何より第一なのである。

 メンバーからのメールに「了解!」と連絡を入れ、そのままパソコンでメンバー募集掲示板を見ることに成功。そして一つの募集を見つける

「エンターテイナー募集。ギターの弾けないギタリスト、歌えない歌姫、酒飲み、機械、ドラム在籍。パート応相談」

 冷やかしかと思ったが、活動範囲が私の生息圏内と被っていた。どんな形にしても上京してたった1年、友達も少ない私は暇つぶしと女メンバーワンチャン性交を目指しメッセージを送信。内容は

「先日、バンドをクビになったギターです。ライブ中にギターにジャーマンスープレックスをかけたりするタイプのギタリストです」

 こんな最高のメンバー応募メールがこの世界にあっただろうか?いわば福音。神の声。祝詞となって蝶が如く。インターネット回線を通じて飛ばしたメールを受信したメンバーからは週末に初台で練習をするので来てくれとあった。そしてその次の週にはライブが決まっているらしい。
 こんな状態でライブがあることを伝えるということは、マジメなタイプのバンドではないのだろう。それか即興スタイルのバンドだろうか?

 練習当日。初台駅。練習の開始時刻が過ぎても誰も来ない。まさかあんなクソなサクラ投稿があったのだろうか?いや、メールは通じているし電話もやった。即ち単純な遅刻なのだ。初めて会う人間に対してナイス度胸だ。それか所謂カマシ行為。ひたすら待っていると、45分遅れでやり取りをしていたベースがやってきた。遅刻したことを詫びながらスタジオに向かい都合90分程度遅刻してボーカルがやってきた。今日のメンバーは以上。え!?ドラムは!?いないのである。いないのならばしょうがない。ボーカルがドラムを叩き、スターリンのロマンチストを演奏する。その最中、ギターにジャーマンスープレックスを掛けてギター弦を5弦を残して全て切断すると大爆笑で受け入れられ、帰りのファミレスで「採用!!!」と相成った。

 そして次の週。ライブだ。曲なんて一曲も合わせていない。一曲目はDで適当に合わせてくれと言われた。二曲目はAで適当に合わせてくれと言われた三曲目はEで適当に合わせてくれと言われた。

「あの、DとかAとかで合わせるってどういうことですか?」

 メンバー全員が固まった。多少音楽にマジメなドラマーは脱退したメンバーに連絡を取ろうとしている。出番まであと15分の地獄の状況で、曲の説明などを聞いた。

 そしてライブはスタートした。完全によくわからなかった私は頭の中で好きな楽曲を流し、それに合わせてデタラメに思い切り弾きまくった。ステージでギターにジャーマンスープレックスをするのも忘れなかった。観客からは高評価でライブを終え、ドラムとその恋人が俺を入れたくないと他のメンバーに言っているのを聞いたが、他のメンバーは「絶対に必要」と言ってくれた。

「我々はライブをやるためにバンドをやっているんだ」

 ここまで受け入れてくれるのだから心根も同じだよな。バンドに実家のような安心感を感じ、私のライブパフォーマンスは更に先鋭的になっていく。具体例を上げると

・スイカを割る
・パイナップルを30個破壊する
・一人芝居をやる
・観客をステージに上げてメンバーになれと恫喝する
・途中で帰る

 など枚挙に暇がない。これらは全て今から15年以上前からやっていた。最初は私をクビにしたがっていたドラマーも、毎回全力で暴れて楽屋で失神同然に倒れていた私を見て「お前が必要だ」と言ってくれた。私はギターを爆音で弾いて暴れ、ボーカルはステージを駆け回り、ベースは基本的に客席で演奏し、ドラムは物凄いソロを長時間やる。
 ショウマンが集まるとこのようなエクスプロージョンが起きるのである。観客からの支持も得はじめたが、ショウマンが集まると大抵はロクなことにならない。いつしか我々は平和的に、だが、確実にメンバー全員を仮想敵、ライバルとして認識し

「こいつ以上にライブをする」

 ことが目的になっていた。そんな時、観客として見に来ていたバンド友達から表題の言葉を言われる。

「音楽じゃなくてメンバー間で戦争をしているよね」

 音楽は武器じゃないし、戦いじゃないとの意見ももちろんあるし肯定する。しかし、我々、私はライブという現象は常に自分と向かい合い、どつき合うことだと考えていた。学もなければ見た目も良くなく、曲も悪い。ならば観客に対してどういった形で礼を尽くすのか?それは毎回のライブでメンバー同士がシノギを削りあい、立てなくなるまでライブを完遂することである。

 楽曲の正しさや心地よいメロディー、それをやれる方はやれば良い。しかしできないからといって遠慮なんてする必要は全く無い。観客の前で常に自分やメンバーと戦い、そしてその瞬間をある種の異世界に変容させる行動ができれば良い。自分にとって良い。他人はナシだ。

 ただただ自分が満足するためにやる行動はマスターベイションと言われることがある。誰だってマスターベイションからはじまるからそこで遠慮してはいけない。それにセックスなんて生命が生まれた時から発展してないクソ行為だが、マスターベイションは今このnoteを読んでいる瞬間にも発展していく。原始、人はミントタブレットやウマビルを尿道に入れたか?答えは否だ。

 言葉としては乱暴だが、これからも戦争のようなライブをやっていくだろう。この文章で書いたバンドはすでに解散しており、当時のベースと私、そして後期に加入した奴隷と三人でパンクバンドをはじめた。奴隷が解放奴隷となり脱退し、32年程の付き合いがある幼馴染とよく対バンしていたバンドのドラムが入り、私のバンドはより苛烈な戦争に突入した。

 心が踊り、危険を感じ、笑顔になれる時間を感じたくはないか?感じたい方は8/17 土 渋谷ラママ に来ていただきたい。私たちのバンド「イカ」は14:30ころから出演する。

 リハビリついでに書いたノートが長くなり申し訳ない。告知をしたかっただけなのだ。許してチョンマゲ。

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