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ブドウ糖という名の救世主 博士の治療探求#6

皆様こんにちわ。

気が付けば5月、温かくなってきましたね。
4月から環境が一新した方もいらっしゃると思いますので、身体の健康とともに心の健康も保っていきたいところですね。

さて、私も患者さんの中の「痛みや不具合という相手」と向き合い戦う日々のなかで最近凄く思うのは治療は格闘技に似てるなあという事です。

治療では己の技術と知識を総動員して「痛みや不具合という相手」を打倒していくことになり、例えるならば保存療法=打撃、手術=投げ技、先進治療=寝技といったところでしょうか。そしてたとえば寝技の中でも様々な技の引き出しを持っておくことで、どれかの技が通用しなくても次の選択肢に移行できます。なので、オプションが多いほど、様々な方向から治療が可能で、そしてそれぞれのオプションの経験値レベルが高ければ高いほど、目の前の患者さんを治癒させられる可能性が高くなります。

ということで、私は常に良い治療は他にないかを探しオプションを増やし、レベルを高める治療探求の終わりのない旅路に出ています。
さて、そんな旅路の中で2年ほど前から「ブドウ糖」を利用した「プロロセラピー」というものに注目しています。プロロ=増殖、セラピー=治療という意味になりますが、その背景には下記のようなエビデンスがあるようです。

✓組織修復・増殖は成長因子によって促進される(Memeo A et al. Injury 2014, 45:418-)
✓細胞外のグルコース濃度上昇が様々な成長因子の分泌を促す(Wolf G et al. Curr Diab Rep 2003, 3:485-490)
✓細胞外グルコース濃度が0.45%になると成長因子産生遺伝子が活性化(Murphy M et al. J Biol Chem. 1999, 274:5830-5834)

つまり、ブドウ糖によって成長因子の産生が活性化することで傷んだ組織の修復や、減少した組織の増殖を促す可能性が高いことが明らかとなっています。
成長因子というのは多血小板血漿(PRP)治療などでもキーとなる作用を示す物質で、自己再生能力を促進するといわれており、このプロロセラピーはPRP治療に類似した効果が得られる可能性があるので、再生医療のひとつと位置づけする方々もいます。

また、末梢神経絞扼障害に対する注射療法のシステマチックレビューでは5%ブドウ糖液がPRPと並んで、生理食塩水、ステロイド、局所麻酔薬よりも有効性が高いという驚異的な成績を示す論文(Buntragulpoontawee et al. Front Pharmacol 2021, 11:621150)があったり、従来から胸膜癒着術では50%ブドウ糖液が活用 (櫻本ら 日本小児呼吸器学会雑誌 2015 26:226-232) されていたりと、まさに「たかがブドウ糖・されどブドウ糖」的な雰囲気が醸し出されており、目的に応じたブドウ糖の濃度や用量なども重要です。

約40件/週(年間2000件ペース)の治療から見えてきた秘伝のタレ的な部分と、これまでわかっているプロロセラピーのエビデンスなど、知られざるブドウ糖の世界をお伝えできればと思います。

それでは甘い世界をのぞいてみましょう。

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