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早く着くことになんの意味があるだろう

最近メインの移動方法が自転車から徒歩に変わった。思えば物心ついた時から30代までどこかへ行くときは大抵自転車だった。

とにかく早く到着したい。車は歩行者優先だったり渋滞に巻き込まれた時にじっとしていないといけないのが嫌。あと考え事が多いので事故をする確信がある。電車も大人数が詰め込まれた空間でじっとしていないといけないのが苦痛で仕方がない。その全ての条件から最も自由に近い移動手段が自転車だったのである。

いつも家を出る時間がギリギリだというのも急いでいる理由だ。家を出る寸前まで何かをしていたい。むしろ出ようと思うほどに家で何かをしたくなる。そうこうしているうちに集合時間に間に合うか否かのチキンレースが開催されてしまう対戦相手は時間。そう、僕はいつも時間に追われていた。


歩くのが好きになったのは散歩をするようになってからだった。メンタリストDaiGoがYouTubeで「ストレスには自然を見るのが効く」と言っていたので、そのために近所の大きな公園をグルーっと回って帰ってくるようになったのがきっかけだ。

いろんなことから逃げるために駆けずり回っていた日々の中で、その瞬間だけ時間の流れがゆっくりになった気がした。風が吹いて木の葉をカサカサ鳴らす音が聞こえて、いつもの橋から見える川面が波打っているのが見える。心がすっと静かになっていくのを感じた。天気の感想なんて「雨が嫌だ」しかなかったのに晴れの空が好きになった。

路地裏を歩いて見ると自転車で走っていた時には全く気がつかなかった店が見つかる。坦々麺屋とか編み物メインの雑貨屋とか。速く進むことで見えなくなるものがたくさんあるのだと知った。もうすぐ今の家に住み始めて10年近くなる。それなのに引っ越してきたばかりのように感じた。


音楽活動をしているとどうしても年齢や売れる売れないを意識することになる。歴が長くなればなるほど下の世代も追い上げてきたり、自分自身もいつの間にか停滞していて焦ったりする。気づけば「結果を出すには…」ばかり考えて笑うことを忘れてしまう。

とにかく早く着きたい。自転車にしか乗らなかった時の感情と同じだ。

先日mac miniを返品するために近所のクロネコヤマト営業所に行った。こんなところに営業所があったのかと思った帰り道、ふと頭をよぎった。「早く着くことになんの意味があるだろう」

例えば大阪から東京に行くとして、新幹線で行けばあっという間。そして「早く売れたい」は「早く東京に着きたい」と同じ。東京に行って何かをすることではなくて、東京に行くことが目的になっている。そこに早くついたから一体何があるんだろう。

この時間に東京に着かないと楽しめないものがある。果たせない約束がある。それなら急ぐ意味はあるだろう。だけどそうでないのなら、青春18切符を使って一駅ずつ降りてみたり、歩いたりヒッチハイクをする。そのうち偶然友達ができたりして、東京に着いた時にはこんなことあったなあと笑って思い出話をできる。そういうことの方が豊かだなと思ったのだ。


前までは音楽をやって行く方法はほとんどメジャーデビューしかなかったし、30歳を超えたらアウトだった。早く行かなきゃ行けなかった。でも今はいろんなことが変わって誰にでもチャンスが掴めるようになった。

目的地に到着した時にどれだけの仲間や宝物を持っているか。友達と会う時に「こんなことを成し遂げてやった」じゃなく「あそこに坦々麺屋あったんだよ、今度行く?」みたいなことを話せるか。それを考えていきたい。

「豊かさ」というキーワードが今自分の中で大きくなっている。2020年も早くもあと半年。自転車を降りてたくさん歩いてみたい。

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