【投資家も必見!】日本のIRに新たなムーブメント!その背景と、「これから」を占う

IR系アドベントカレンダー、盛り上がってますね!

まずは簡単に自己紹介から。
2022年1月まで、とある上場企業でCFOを務めておりました。任期満了をもって退任となり、今はFiNX株式会社を立ち上げ、IPO支援やIR支援、財務統制の支援などを行なっています。
では、さっそく本題です。

これまでIRの仕事は、会社のスタンスとして、お金をかけても株価上がる訳じゃないし、取り敢えず他社の事例を参考にしながら(または、先祖代々のテンプレを活用しながら)無難にこなすというお仕事でした。

とこが、今年になって
「最近、IRの業界は活発な動きが出てきましたね。」
「IRの仕事って、評価されないし、あんまりやりたくないと思ってたけど、最近楽しいです。」
と言う声を聞くようになりました。

IRの考え方「今まで」と「2022年」


なぜでしょう?
今、IRに地殻変動が起きて、新たなムーブメントが到来しています。
この変化に気がついて、真っ先に取り組んでいる会社もあれば、あまり変化のない会社もあります。
その努力の積み重ねの差は、着実に広がっていきます。
先進的に取り組む企業は、担当者が属人的な作業で行うのではなく、経営層とコミュニケーションしながら役割分担してチームとして組織的に進化するようになってきています。

乗り遅れないようにするためには、どうしたら良いのでしょうか?

ムーブメントが起きている根源的な理由と、新たな潮流を見ながら、今後更に進化するであろうIRの未来を占います。

IR関係者だけではなく、投資家の皆さんにとっても、この流れを知っておくと、投資のヒントになると思います。

なぜ今IR業界に地殻変動が起きているのか?

2022年の大きなイベントの一つとして、東証の市場再編がありました。
東証一部、東証二部、ジャスダック(スタンダード)、ジャスダック(グロース)、東証マザーズという区分が無くなり、東証プライム、東証スタンダード、東証グロースという区分に変わりました。

東証再編のポイント

これだけだと、「なんだ。。呼び方をカタカナにしただけじゃん」と思いますよね。いやいや、そんな浅はかな話ではありません。
東証は、ちゃんと考えてます。世界の投資マーケットの中での日本が置かれているポジションとその課題点、そして、日本のマーケットの魅力をどう向上させるべきか?という点について。

CFOとして、多くの投資家や証券業界の方々と話してきて理解が進んできたことがあります。それは何かというと
「機関投資家は企業に魅力があるだけでは投資対象にしない」
という話です。彼らは投資対象に対する規律を設けています。時価総額基準や平均出来高基準などです。
下の図にあるように、実は、日本の上場企業の約7割に当たる2750社は、時価総額500億未満であり、機関投資家の主な投資対象になっていない、という事実があります。

機関投資家は投資対象に対して一定のルールを定めている

この再編がもたらしたインパクトは、実は、じわじわと効いています。
そして、この変革が、IR業界を進化させる一つの大きな要因となりました。
その中でも、特に大きかった変更点としては、上場維持基準の変更です。
株主数の基準を緩和し、流通時価総額や出来高の基準を強化したことだと考えています。
上場企業として存在し続けるためには、
「株主の数は少なくなっても良いので、多くの人に取引されている銘柄じゃないとダメですよ」
というメッセージです。
この維持基準の変更によって、IRの取組みについて考え直した経営層も多いのではないでしょうか。

魅力的なストーリーを語れば株価は上がるのか?

上場企業は、どの企業も厳しい審査を通過した素晴らしい会社です。事業規模や成長性、ビジネスモデル、経営層の体制から、内部統制など全てトップレベルの水準を満たしている企業ばかりです。
年間100社程度しか上場できず、その合格率は大学で言う東大よりも遥かに難関です。
でも、だからと言って必ずしも全ての企業が投資されている訳ではありません。
よく経営者の方とIRの在り方についてお話をすると、「魅力的なストーリーを語れば株価が上がる」と考えているケースに遭遇します。未上場の時はそれで確かに良かったのですが、上場すると、株価に対する考え方のルールが変わります。未上場時の株価は、その先のIPOなどのエグジットを見据えて、想定エグジット額よりも低そうな額であればOK(キャピタルゲインを得られる)なのですが、上場してしまうとそういう単純なルールではなくなります。
ある程度先々の成長まで現在株価に織り込まれてしまっていますし、他の人が発見しきれていない、現在株価に織り込み切れていないα(アルファ)を発見したときに投資対象になり得ます。
他の人より安い段階で株を購入し、高くなって売るからキャピタルゲインが得られるわけで、どんなに魅力的なストーリーでも理論株価を超えた時価総額になれば、逆に空売りや利確の対象になってしまいます。
だから、単に魅力的なストーリーだけでは不十分で、成長を裏付けるトラックレコードや、蓋然性などの確らしさも大切です。

そして、できれば、話を聞いた投資家だけがピンとくる伝え方が望ましいのです。

人によって何にピンとくるかは様々ですが、全員が全く同じ情報を持っているのだとすると理論上、株価は動きにくいのです。

投資家が「自分だけが気がついてしまった!」と感じられるようにする、パズルのような知的格闘技です。

機関投資家は、ビジネスとして、投資した額をキャッシュフローとして回収しながら運用時価総額を上げていく必要があります。日々の出来高が少ない会社は、(どんなに業績が良い会社でも)キャッシュフローを億単位で回収することが難しくなります。その銘柄を取引している人が少ない訳ですから、売ろうと思った時に売れないのです。ましてや配当を出していないとなるとキャッシュフローを回収するポイントがありません。
せっかく「面白いな」と思ってもらえても、出来高が少ない企業は投資対象にならないか、なったとしても僅かな額しか投資されないのです。

新しいムーブメントとその背景にあるものは?

この課題点に気がついていた人達は、東証再編の前から存在していました。ただ、課題が分かったところで、どのように対策を打てば良いのか分からない。出来高形成のために提案されるIR施策といえば、個人投資家向け説明会です。会場に数十名から100名程度を集客するイベントですが、有料であることが多く、また、1回の開催で解決できる問題ではないため、なかなか継続的に実施するのは企業としては辛いのが本音です。
そこに登場したのが、TwitterやnoteといったSNSの活用です。
特にTwitterの活用は、今年に入って急激に増えた印象があります。
ちなみに私が2019年に始めた時には、私以外にCFOやIR担当者が積極的に活用している事例はありませんでした。事例が一つ一つ増えていく中で、徐々にスタンダードになってきたのだと思います。
最近では、IRにおけるSNSの活用についてご相談いただく事も増えました。

SNSの活用は、情報発信だけではなく、IR関係者の横のつながりも強化しました。
これまで、各企業の取組みはブラックボックスになっており、それぞれが孤軍奮闘していた状況でした。しかし、SNSで横の連携が深まることにより、機密情報を守りながら手法の研究について知恵を共有する流れが今起きています。個人としてではなく、コミュニティとしてIRにおける知の探究が始まりました。これが新しいムーブメントです。
だからこそ、「楽しい」と感じる担当者も増え、それぞれの企業で手法のアップデートのレベルも上がってきているのだと思います。

クローズドコミュニティ「IR向上委員会」という仕掛け

ただし、SNSの連携だけでは、そこまで情報共有が活発に行われることにはなりません。SNSでしか繋がっていない人同士では、なかなか踏み込んだ相談までできません。実際に何度も顔を合わせて信頼できる関係になって初めて本音の情報交換ができます。
そこで、2022年3月から仕掛けたのが、IR向上委員会というクローズドコミュニティです。IR実務に関係する人だけが参加できるコミュニティで、原則として投資家サイドや、IRサービスの販売を目的とした業者は参加できません。日本の中小型株にもっと投資マネーが集まるようになって欲しいという思いから始めたもので、本業の傍ら非営利で運営しているイベントです。

7月のテーマ
5月にはHENNGE様に登壇いただきました。投資家バーSTOCK PICKERSにて


10月には、経済アナリスト馬渕さんに登壇いただき、伊藤レポート3.0について勉強しました。
9月は個人投資家の目線を勉強しました

2022年3月に始めたこの仕掛け。最初は、私の知人10名程度でスタートしました。
そこから、回を重ねるごとに参加人数が増え、直近の12月7日の回では、会場とオンライン合わせて170名以上の参加者となりました。会場には、福岡や大阪、名古屋から参加される方もいらっしゃり、大いに盛り上がりました。

これまでのIR向上委員会の軌跡

3月 アピリッツのIR取組み事例紹介
4月 マクビープラネットのIR取組み事例紹介
5月 HENNGEのIR取組み事例紹介
6月 ヴィスのIR取組み事例紹介
7月 元機関投資家はどのように取材メモを取るのか?
  カラダノート、IR Agents
9月 個人投資家はどのように企業のIRを見ているのか?
10月 伊藤レポート3.0を読み解く
12月 SHIFTが挑む果てしなき夢
   〜成長を支えるIRのキセキ〜

7月頃から、ログミーファイナンスさんにご協力いただき、共催するようになってから一気に参加者が伸びました。ちなみにIR向上委員会では、会場参加者はセミナーの後に懇親会を行なっています。
これにより、担当者同士の交流が一気に深まり、それぞれの担当者が仲良くなり、情報交換や悩み相談が頻繁に行われるようになりました。
今年に入ってIRにおけるSNSの活用が一気に増えた背景の一つにはこういった事もあるのではないかと思います。
年初にはまだIRにおけるSNSの活用はそこまでありませんでしたから。

そして、なんといっても、つい先日、12月に開催したSHIFTの回が業界関係者にもたらしたインパクトは相当大きかったと感じています。
上場時時価総額40億程度の会社が8年間で時価総額約5,000億に至る道のりについて語っていただきました。
多くの企業が、自分達の取組にまだまだ改善の余地があることに気がついたと共に、「そこまでやるのか!」と大きな衝撃と刺激を受けたと思います。
来年以降、さらに戦略的に取り組む企業が増えるでしょう。
「次のSHIFTは私達だっ!」と言う思いを胸に秘めて。

※過去の回で記事化された内容はこちら

これからのIRの進化について考える

表層的に現れているのはSNSの活用や決算説明資料のアップデートなどですが、その本質は関係者における知の探究です。

「企業価値を向上させるために事業成長とセットでIRを経営戦略の一つに位置付ける」

今後、SNSの活用やコミュニティの活性化が一定程度進んだ後には、こうした事がもっと当たり前になるんじゃないかな、と。
そして、一定程度のテクニックの共有が完了した先には、本質的な事業成長のキーファクターへ回帰すると予想しています。

投資家に説明する際に、
・そのKPIは事業の本質的な成長にとって本当に大切な指標なのか?
 〜先祖代々・・なだけで、思考停止に陥っていないだろうか〜
・参入障壁の構築戦略を見直す必要はないのか?
 〜事業成長の前提となる事業環境は変わっていないか?〜
・事業のライフサイクルとして次の投資をどう考えるべきか?
 〜いつまでも同じ事業だけで成長するのは限界がある〜
・短期目線だけではなく数年単位の事業投資と成長、財務バランスをどう考えるのか?
 〜腰を据えて中長期で事業を育てる気があるか〜
など、経営層の自問自答のレベルが進化するフェーズが訪れると思います。
そうした中で、成長戦略がアップデートされ、未上場の時のようにワクワクしながら成長戦略を語る企業がもっと増えると期待しています。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

明日は、マーケットリバー代表取締役の市川さんですね!
業界でとても有名な素晴らしい方です。
僕も読むのが楽しみです。

これまでのアドベントカンレンダー記事もご紹介しておきます。
素晴らしい内容ばかりなので、是非一読をオススメします。
「良い記事だな」と感じたものがあれば、是非、「❤️」を押してあげましょう!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?