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中小上場企業が取り組むIR業務のヒント

自己紹介
初めまして、ロードスターキャピタル株式会社CFOの川畑です。
まずは自己紹介です。
生まれは神戸らしいのですが記憶にありません。
親が転勤族で、小学校は3つ行きました。
中高大とテニスをしておりまして、最近も捻挫するまでスクールに通っていました。大学ではアジア中心にバックパッカーもやりました。
就活では、30年勤める会社=人生をかける会社が見つけられなかったことから、資格を取ろうと思い、公認会計士を目指しました。
監査法人で色々経験を積み、30代をどう過ごすかを考え始めた矢先に、部活の先輩に誘って頂き、今の会社で新しいキャリアを築くことになりました。
 
現職ではCFOとして決算業務や資金調達、予算策定等を統括するほか、その他の管理部門全般も管掌しております。IRとしては、開示書類準備から各種市場関係者の対応、各種登壇や情報発信など、業務全般を担っております。最近ようやくIR担当(@ir_20220913)を採用でき、ワンオペリスクを減らすことができてほっとしています。

当社も漏れなく「認知度」が課題でしたので、個人的にTwitter(@RiverField___)を数年前に始めました。Twitterからの縁で今年からは新しいIRコミュニティにも誘って頂き、今回の執筆に至った次第です。
 
今回のIRアドベントカレンダーでは、私は、中小上場会社のIR活動について、取り組むべきこと/後回しにしてもいいことを整理したいと思います。

私自身、初めてのIR業務で右往左往しながら、当社時価総額100億円→350億円に成長する中で得た見解です。

あくまで個人の意見であり、当社とは関係ないことを先に申し上げておきます。 

1.専任のIRなんかいない!?

日本IR協議会の第29回「IR 活動の実態調査(2022年)」によると、回答があった上場企業1047社のうち、IR専任者が3人以下41.4%、4人以上15.7%、専任者なし39.8%と専任がいない割合が大きいです。
次にIR兼任者の場合は、3人以下62.1%、4人以上が12.3%、兼任無しが17.9%という結果です。

同調査に回答している企業はIR担当者数が多い時価総額の大きな会社と勝手に推測するに、時価総額が数百億円の中小上場会社においてはIR業務に人も時間もお金も掛けられていないが現状ではないかと思われます。

日本IR協議会 第29回「IR 活動の実態調査(2022年)」より筆者作成

中小上場会社の株主構成では機関投資家の割合が低く、四半期ごとに10件程度しかIRミーティングが入らないため、専任を置くほどではないと判断されることが多いです。

しかし、IR活動というのは会社そのものを資本市場でアピールし、自社と資本市場の期待ギャップを埋め、よりよい資本政策を実現するための大切な活動です。

(「IR活動の意味」については、IRAgents(
@ir_agents)さんの記事(https://note.com/ir_agents/n/n339941c17d60)が秀逸です。)

また、業務にあたっては、会社の経営方針・経営戦略から財務情報、組織体制、プロダクトの状況など、身につけておくべき知識が多岐にわたるため、兼任の業務としては非常に大変です。非常に大変なのです。

2.IR活動とは

一般的に言われるIR活動を列挙してみます。
実際の活動に興味ある方は佐藤淑子さんの著書などご覧ください。 

中小上場会社のIR担当者はお気づきの通り、兼任でこれらすべてを行うのは現実的ではありません。

3.中小上場会社のIR活動

中小上場会社は限られたリソースの中でやるべきことを取捨選択する必要があります。
<必ずやるべきこと>
①IR活動に対する経営陣の期待ギャップの解消
IR活動の本質は、「市場との対話を通じて、企業と市場の期待ギャップを解消し、資本市場で正当な評価を得ること。」であります。

しかしながら、企業によってはその効果が見えづらいことからIR活動そのものが重視されていない・予算の割り当てがないことも多いです。にも拘わらず、「株価対策するのがIR担当だ」と考えている経営陣が多いことも事実です。

とすれば、まず最初にやるべきことはこの期待ギャップの解消です。
IR活動の本質をわかってもらうためには、機関投資家/個人投資家との面談をフィードバックする必要があります。

本当に一番いいのはIR面談に社長に出てもらうことですが、あれやこれや言われたり、何度も事業内容を一から話すことを厭う社長もいますので、社長の時間を節約するためにもここはIR担当が中継ぎしましょう。

市場の期待を経営陣に伝え、それに応える経営戦略の策定と実行がその後の株価形成にもつながります。「株価対策」という言葉はあまり好きではありませんが、株価形成するのはIR担当ではなく経営陣だということをちゃんと認識させましょう。

なお、伝達するときはその際、社内役員だけでなく、社外役員にも共有してください。社外役員は外部者としての立場も有しておりますので、フィードバックに対しても建設的な意見が期待できます。
 
②資本市場での評価の確認
株価は日々資本市場から絶対値で評価されているわけですが、株価の高低だけでは資本市場からの正当な評価はわかりません。
期待が先行し過ぎているのか、一時的な要因なのか、認知度が低いのか、事業内容の説明が足りないのか、将来性への期待が小さいのか、資本構成や株主構成に問題があるのか。

これを紐とくには、機関投資家からのフィードバックが特に重要ですので、機関投資家からの質問に答えて終わりにするのではなく、a当社への関心の理由、b当社の株を保有しているか、c当社に不足しているものは何か、d当社に期待するものは何か、などの質問をしましょう。
この点については他の方の記事が役に立つかもしれませんね。
 
③積極的な情報発信
中小上場会社の一番の悩みは認知度不足→出来高不足ではないでしょうか。
なぜ出来高が必要なのかについては説明を省略しますが、認知度獲得のためには積極的な情報発信が必要です。

意外と見落としがちなのが東証TDnetのPR情報。適時開示ではないけれど会社として重要なニュースの場合は是非利用しましょう。無料です。

次に見落としがちと言えば専門紙。新興会社だと購読していないことも多いですが、大手や社歴の長い会社だと結構購読していたりするので、営業に繋がることもありますし、日経や四季報の記者は読んでいますので取材に繋がることもあります。

そして、最近私も力を入れているのがTwitter(@RiverField___)です。
Twitterのメリットは拡散力と情報収集。ここ数年上場した会社はIR担当がツイートしていることも多く、IR担当同士でお互いの情報を拡散、かつ情報交換してたりします。
皆さん、後藤さん(@toshihito_goto)が主催するIR向上委員会に参加しましょう!
 
④決算説明資料の開示
決算説明会を四半期ごとに行っていなくても、決算説明資料は四半期ごとに開示しましょう。
これは当時アナリストからアドバイスを受けたことでもあります。
投資家は企業からの情報を心待ちにしています。
決算短信や四半期報告書で財務数値の把握は可能ですが、業界の動向、事業の状況、企業独自のトピックなど非財務情報についても定点観測したいのが投資家です。
 
<やらなくてもいいこと、こだわらなくてもいいこと>
こちらはケースバイケースになりますので、自社の状況に合わせて考えてみてください。

・年間スケジュール作成:
IRスケジュールは大きく変化しないものですので敢えて作らなくても良いかと思います。

・個人投資家向け説明会:
最近は開催できる機会も減ってしまいましたが、実開催(特に平日日中開催)のIRイベントだけでは認知拡大の効果を得ることが難しいのであまりお勧めしません。
費用対効果が良くないです。

一方、ウェビナーであれば、視聴者層が拡散力がある比較的若い層になり、オンデマンド配信による拡散も期待できますのでお勧めです。
YoutubeならログミーさんやIRTVさんですし、
Twitterなら湘南投資勉強会さん(@kenmokenmo)、Kabu Berry(yama)さん(@nagoya_kabuoff)、キリン@神戸投資勉強会さん(@yudu1105)などがあります。

・個人投資家問い合わせメモ:
IR担当者の工数が避けない場合には、大株主、クレーマー株主以外について問い合わせ記録簿は不要です。
個人投資家からの問い合わせは、株価か事業内容に関するものがほとんどであり、インサイダー情報管理の観点から話せることが限られるからです。

・マスメディア対応:
広報兼任IR以外は、基本は広報に任せ、取材時同席する程度で問題ないと思います。
しかし、四季報記者とは連絡を密にして、しっかり情報交換しましょう。
個人株主は思っている以上に四季報を読み込んでいます。

・株主通信、統合報告書、ファクトブック:
IR担当者の工数が避けない場合には、後回しで構いません。

・投資家面談への社長の出席:
社長に出てもらった方が、投資家ウケはいいです。
しかし、社長の役目は本業の拡大に力を入れることですので、無理してまで社長に出てもらわなくても大丈夫です。
実際多くの企業では、投資家面談はCFOや財務担当役員などが対応しています。
重要な投資家を選別し、社長を使うタイミングを考えるのもIRの仕事です。

・社内IR:
IRというニッチな仕事は社内から評価されないことも多いです。
これも認知不足問題で社内IRによって地位を高め情報収集しやすい環境を整えることは大事ですが、社内IRは優先順位的に劣後しますので、やらない、やっても年数回という頻度でも良いかと思います。

4.まとめ

中小上場会社のIR担当は、兼任で忙しい/経営陣の理解が乏しい/結果が見えづらい/ノウハウが取りづらいと悩みがいっぱいです。

なので、再掲しますが、後藤さん(@toshihito_goto)が主催するIR向上委員会に参加しましょう!
IRに関する勉強と情報交換ができて一石二鳥の素晴らしい会です。

IRはまだまだマイナーな職種かもしれませんが、会社のすべての要点を知り、論理的にまとめ、外部に伝達する仕事であり、経営マインドを身に着けられる稀有な職種だと思います。

引き続き頑張っていきましょう。 
                                                                                                                      以上
 

火の心理的効果に興味があり、ゆるく研究しています。