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ドサクサ日記 8/8-14 2022

8日。
久しぶりに仕事で渋谷へ。渋谷駅前の再開発はどんどん進んで、20年前に地下のライブハウスでウダウダとしていた頃とは別の風景が広がっている。東京の繁華街は、例えば京都に比べて、街の景色が塗り変わることに対する逡巡が薄いように感じる。諸行が無常だとしても、だ。アクセルを一杯に踏んで屹立するビル群。その片隅で古びたビルの如何わしい会議室。派手な変化の裏側の、変わらなさを嗅ぐ。

9日。
新宿のビルの地下で撮影。蒸物の鍋の中は恐らく灼熱で、蒸し鶏に気分があるとするならば我々の比ではないことを承知しつつ、それでも蒸されているような感覚になるほど通路が暑い。東京の大地面ごと温いホットプレートのように蓄熱して、このように地下の空気まで温めているのかもしれない。恐ろしいことだ。地上に出たら更に暑かった。太陽の熱を利用しないのは愚かだと思うほど、日差しが鋭い。

10日。
ギターの録音をしていると、突然にギターの音がローカットしたような音になり、ジリジリとボリュームが下がって消えてしまった。スピーカーからは白煙。アンプが燃える、と書くとロック伝説的な感じもするが、なんのことはない、規定の出力を超える電流を流してしまったことが原因だ。あと数メモリ絞っておけばという後悔もあるが、ここは明るく構えて、いろいろな部品をつけかえて改造したい。

11日。
黒胡椒を買いに出かけて、まんまとそれだけを買い忘れて帰宅してしまった。目移りというのは恐ろしいもので、美味しそうな魚だとか、フルーツだとか、そうしたものに夢中になり、この素麺棚のなかで最強の素麺はどれなのだろうと考えているうちに黒胡椒のことは頭の中からすっぽりと抜け落ちた。そして夕飯の時間になって、黒胡椒なしで晩御飯を美味しく食べることはできまいかと悩むのだった。

12日。
3年ぶりのライジングサンロックフェス。ゆっくりと暮れていく空の向こうから、大きな満月が登り、YOASOBIの溌剌とした演奏の残響がまだ漂っているような夜の始まりが我々の出番だった。RSRのメインステージはどこのフェスよりも観客たちの移動が多く、早い。はっきり書けば、やや散漫な印象がある。奥まったRED STARのほうが観客たちの集中力が高いと感じる。そうした経験を踏まえて、俺たちは俺たちらしく、自分たちの演奏が絶対に届くであろうオーディエンスに向かって、現在進行形の俺たちの楽曲を演奏した。それはRSRへのリスペクトでもある。この場が育んで来た力と観客を信じた。演奏中、ステージ袖に居たwessのワカさんと目が合う。万遍の笑みだった。それはそうだろう。どれほど苦しい局面を乗り越えて、今日という日があったか。すべてが最高だと思った。

13日。
早朝6時に集合して空港へ。台風で飛行機が飛ばない可能性を考慮しての時間変更だったが、とにかく眠い。最高だったRSRの余韻は身体に残っているものの、アルコールの残響が脳の奥底でタコ踊りをキメている。ハングオーバーとも言う。千歳空港の美味しそうな寿司類を前にしても、俺の食欲は早起きとアルコールで死滅してピクリともしなかった。そのままスタジオに直行して音源のミックス作業。

14日。
水曜日に燃えてしまったスピーカーの交換を自力で行う。思い切って買った高額なスピーカーは磁石の部分が存外に大きく、アンプのユニットを取り外さねば取り付けられない感じだった。ゆえに、ほとんど木の箱になるまでギターアンプを分解し、スピーカーを取り付けた。人任せにしていると構造がわからない。しかし、人任せにしたほうが質が上がる仕事もある。とにかく無事に音が出てよかった。