ドサクサ日記 7/31-8/6 2023
31日。
福島県の新地町へ。常磐線舞台芸術祭のプログラム『ラジオ朗読劇 銀河鉄道の夜』の稽古のために前乗り。観海ホールで舞台版の稽古をみっちりと行った。津波で流されて何もなかったという駅舎周辺の土地に、文化的な施設が建てられていることがなんだか嬉しい。人口10万人規模の大きな市や町でも、真っ先にホールを建てはしないだろう。運営は簡単ではないかもしれないけれど、素敵なことだと思う。
8月1日。
『銀河〜』の初日。リハーサル、通し稽古、からの本番。前日から数えて、ほぼ3回、90分の朗読劇。同じ原稿を読んでいても、毎回、演者それぞれの語気が違う。誰がどう読むかで、全体のグルーブか変わる。そうした違いに集中し続けたので、終演後は身体にドワッと疲れが広がった。宿泊しているホテルに温泉施設があるのがありがたい。毎日、温泉に浸かって身体を温めることができている。
2日。
『銀河〜』2日目にして最終日。震災後に古川さんと管さんと小島君が始めた鎮魂のための朗読劇。その活動に感銘を受けた俺はほとんど逆オファーのようなかたちで種山ヶ原のKESEN ROCK FES.に「銀河〜」をブッキングしてもらい、演者として参加した。霧に包まれた幻想的な夜だった。個人としては長らく構想を練っていた『銀河鉄道の星』を書き、古川さんとイーハトーブフェスでセッション、そして『コロナ時代の銀河』に感動し、昨年のラジオ朗読劇の録音に参加して、今回の舞台に立つことになった。社会運動に関わっていろいろなメッセージを発信しながらも、常に自分の真ん中にあったのは鎮魂と後悔の念だった。俺は生き残ってしまったのだ。ジョバンニに感情移入するけれど、彼のような懸命さを持っていたかは疑わしい。俺はザネリより軽はずみで、無邪気や無垢をある種の美しさと誤解して、見て見ぬフリをしてきたのかもしれない。とはいえ、ジョバンニだって人間らしく嫉妬もするし、カンパネルラだって普通に私たちと同じ人間らしい感情を抱えている。そうした、決して誰もが清廉潔白だなんてことがないという事実を、赦しあって生きていくしかない。自分のすべてを誇ったりなんてできない。でも、恥ずかしい部分を持ち合わせたまま、誰かの幸いのために生きることはできると思う。
3日。
常磐線の富岡駅近くの公園にて、古川日出男さんと朗読劇。軽い打ち合わせのみの即興演奏はどこまでもスリリングで、大汗をかきながら古川さんの言葉に集中した。スタジオから持っていったシンギングボウルの白さに虫たちが誘われて、ステージ上は無数の虫で溢れていた。津波で破壊された駅舎も、近くの港も、見違えるように綺麗になった。会場から海は見えない。だから、本番前に海まで歩いた。
4日。
新地に戻って、古川さんとセッション。この日はギターを多めに弾いた。西洋の音階というのは強烈で、和声はいろいろな情緒を演出する。俺たちはそれに反応する身体になってしまっている。前日の無調的な時間が長いセッションではなく、この日は分断の先に調和があるような、あらゆるボーダーを超えて命が再び芽吹くような、そういうイメージで演奏した。朗読劇「銀河鉄道の夜」の続きも、また意識した。会場が観海ホールだったということもある。そこには朗読劇の余韻があって、それを無視することができなかった。終演後はすべてを出し尽くしたような疲労感。でも、それが心地いい感じもした。それぞれが震災のあとに考え、書いたり鳴らしたりしてきたこと、その、ひとつの集大成だったように思う。そういう4日間だった。しかし、現地の復興は道半ばだ。俺の人生も、多分、続く。新地駅前の焼肉屋は一皿の量が多くて美味しかった。夜は海の匂いがあたりに充満していた。
5日。
浪江町にオープンするhaccobaの新しい醸造所の夏祭りに参加した。久々に会った佐藤さんや小高の皆が元気そうで何よりだった。新しい酒造りのスタッフたちもキラキラしていて眩しかった。復興も地域振興も、結局は人だと思う。コンテンツみたいな言葉が跋扈して久しいけれど、人間はコンテンツではない。人間がコンテンツ＝中身を作り、それらを結ぶのだ。そういうことを忘れてはいけないと思う。
6日。
この日の朝に思うことは多い。毎年のことだ。友人がシェアしていた戦争の記事を読む。戦場の悲惨さを思って、胸が苦しい。どれだけの兵士が戦場で無念をかかえたまま亡くなっていったのか。大局的な選択と判断の失敗や理不尽の責任を、どうして現場の兵士たちが人生を賭して負わなければならないのか。そういう構造は世界のあらゆるところで維持されている。それを支持していいのかという問い。