2023夏至日記
夏に至る。シンプルな名前の美しさ。二十四節気の中でも一番好きな響きかもしれない。こうして日記を書くことでゆるやかに二十四節気をなぞっていると、はっとする言葉との出会いもある。冬至、は絶望するけれど、立冬、は凛々しい感じがある、みたいな。
北欧のように一晩中踊り明かすようなことはしないけれど、自分なりの夏至の過ごし方がある。カレーをつくり、苺のケーキを食べること。どちらもSNSかなにかで見て真似したくなっただけの借り物なんだけど、毎年やっているうちにこれをしないと落ち着かなくなってくるというか……。過酷な夏はそれだけで大変だから、夏の始まりは何にせよ気合を入れてかかる。そのきっかけとしてカレーを煮込む、というわけ。
まだ梅雨のはずなのに雨の降らなかった週末、夏の準備としてはもう少し早くやっておくべき、名前を言うのも嫌な虫対策をした。床に散らばっていたものを片付け、クローブホールをお茶のパックに入れて部屋のあらゆる隅に設置し、除湿を心がける。部屋を除湿することにより、人間も活動しやすくなるのだから、体を冷やさない程度にエアコンに頼るべきである。さもないと生活は成り立たなくなり、あらゆる締切を落としてしまう。
ずっと溜め込んでいたレシートもようやく処理し終わった。下半期にスムーズに入っていくために、片付けておくべきことは片付けておきたい。
最初は暑さのせいでやる気が出なかったけれど、母の教えで、「何も手につかないときはとりあえず脱いだ服を一枚拾いなさい」というものがあり、服は落ちてなかったかわりに茶渋のついたマグを重曹とクエン酸で掃除した。それからはシンクを掃除していろんなものにハイターをかけ、そうしているうちに「年内に室内ではあの虫を見ない。絶対にだ」と決意して、そしてやっといろいろなことが手につくようになった。
日曜は街へ出て、Gallery Green&Gardenでの展示『迷走と恍惚Ⅲ ーそれぞれの、きもちとカタチー』に行った。本田征爾さんの作品で、祇園祭の蟷螂山がモチーフの立体があり、京都がこれからそういう季節を迎えようとしていることに気づく。よほど連れて帰りたかったが、手が出なかった代わりに、ギャラリーの常設物販の中から足田メロウさんの鳥の箸置きを見つけて、一羽購入した。以前アバンギルドの物販で見かけてから気になっていたのだけれど、アバンギルド経由では完売してしまっていたから、こうして数年越しにお迎えできて嬉しい。
そのあとは金曜にたまたまSNSで知った小さなイベントに寄った。狙っていたものは買えなかったけれど、出版社さりげなくから出ている長湯文庫『するべきことは何ひとつ』を購入。お風呂で読めるよう耐水紙でできているとのこと。そういうコンセプトにはとことん弱い。
日用品を買いに無印良品が入っている商業施設に寄る。人々が心地よさを求めて買い物をしているところを眺めるのは楽しい。楽しい気分のままおやつを買ってしまう。丸善にも寄る。料理本が一冊欲しいと思っている。料理をするためというよりか、料理はかなり適当に済ませているくせに、料理人の哲学っぽい部分に惹かれているように思う。しかし結局料理本は買えなかった。「フランスの古い紙広告展」をやっていたせいだ。
ふらふらっと入ってみると、簡単な額装をして展示販売している。セールものもある。軽い気持ちでディグっていたら、サヴィニャックのものを見つけた。同じFRIGECOの広告を使ったポストカードを部屋に飾っているから気づいたのだ。それを抱えて帰るときの昂揚感ったらない。
本当は帰りにエノテカに寄ってワインでも買おうかなと思っていて、それを諦めざるをえない予想外の出費だったけれど、冷蔵庫にとっておいたビールを1本空けて幸福だった。
そうそう、この晩酌のあとでなんとなく眺めていたヤフオク、酔っぱらって入札していたみたいで、後日落札通知が来てたまげた。以前より喉から手が出るほど欲しかった音源ではあったが、しかしLP盤しかない音源。よせばいいのにオークションで見つけてしまい、いてもたってもいられなくなったのだ。これはプレーヤーも買わなきゃいけないなあ。えらい出費だなあ。困ってはみているものの、めちゃくちゃ楽しみなのである。
腰を据えた読書もしていないし映画も見てないし、書けることがそんなにないのはアトリエのほうにかかっていたからかな。半夏生、ものづくりのほうも9周年を迎えました。それでいろいろ考えることもあり、ちょうどいいタイミングでリリースされた新しいSNS・Threadsはアトリエのほうで試験的に始めてみています。
創作のほうでは、誰かとの往復書簡で1冊つくりたいなと妄想をしていました。手紙じゃなくても散文でも詩歌でもいいし、写真や絵でもよくて、何年か後にまとまった分を1冊にする。互いに日常を知らない者同士のほうがおもしろいかな。自分の身の回りのこととか添えられていると嬉しい。鉢植えの花が咲いたとか、ペットの様子とか、もう夏の星座だねとか。往復書簡だから、相手の言葉から拾って打ち返すようなやりとりになるじゃないですか。昔は書いていた手紙とかをもう書かなくなって、何かの機会に「この感覚懐かしいな~」って…なんだっけ…そうそう、何年か前にやっていたマッチングアプリ。お互いのことはろくに話さず本や映画の話ばかりしていたんですが(不真面目ですよね)、言葉の端々から拾って展開していくのってなんというか思いやりというか歩み寄りというか、寒いねとか暑いねとか色気のない会話を繰り返して季節も1年くらい無駄に巡って、そういうのんびりした、まるでマッチングアプリらしからぬやりとりだった。あれが残っていたら結構面白かったんだけど、ああいうのって時間が経ったら消えちゃうんですよね。手紙だっていつかは捨てちゃうだろうしね。だから本にすればいいんじゃないかなあ。
板前の友人Kが一日限定で店をやるというので行ってきた。大学のときギターマンドリンクラブで一緒だったころからの付き合いだから、知り合ってもう10年以上経つか。
以下は短くはない思い出話。
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