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タンゴ・葉山・遊散歩(14)

子供の頃、犬を飼ったことはあるが、数年で手放した。
スピッツという白くてよく吠える中型の犬種だった。
私が小学校の低学年の頃だった。
母親が近所に生まれた子犬をわけてもらってきたのだろう。
どちらかというと、当時は愛玩動物というより
番犬として飼っていたようだ。
やがて年の離れた弟ができて、犬はいなくなった
時は1960年、
「安保反対、安保反対」と叫びながらデモする人が街に溢れ、
子供たちもデモゴッコで遊んだ頃だった。
それ以来、犬を飼ったことはなかった。

40年後の2000年、
東京から葉山に引っ越してきたある日曜日、
妻に買い物への付き添いを乞われた。
その大型のショッピングセンターには、犬の販売コーナーがあった。
さりげなく「ちょっと覗いてみようよ」と誘われた。
生後3ヶ月で、売値が半額になったミニチュア・シュナウザーがいた。
とても愛らしかった。
妻が言った。
「ちょっと抱いてみたら」
私の両手で包み込めるぐらいのその子犬を抱くと、
じっとすがるように私の顔を見つめてきた。
「ねえ、お願い、助けて」と目で訴えてきた。
手放せなくなった。
その場で購入を決めた。
全て妻の策略だったことは後で知らされた。
物の見事にその策略にはまってしまったのだ。

1930年代、第二次大戦前に活躍したスペインのアナキスト革命家、
ブエナベントーラ・ドルーティの名前からドルティと名付けた。
当時のスペインは、ナチスドイツに支援された軍部と、
アナキストが先頭に立つ共和国民兵との内戦が激しく戦われた。
ブエナベントーラ・ドルーティはアナキストの伝説的なヒーローだ。
シュナウザーはドイツにルーツのある犬種だが、
私の希望でスペインの碑銘に名の残る革命家の名前をもらった。

その名のせいでもなかろうがドルティは意志の強い犬だった。
甘えるのが苦手、抱きしめられるのは大嫌いだった。
鼻の癌になり食事ができなくなっても、
最後まで生きる意欲を捨てなかった。
2014年5月、
明け方にほのかな風が吹いて、
命の埋み火がふっと消えるように亡くなった。

2014年9月、タンゴがやってきた。
タンゴは、当時3歳のミニチュア・ダックスフンド、
前の飼い主に虐待され保護されていた保護犬だった。
今もう10歳になる(人間なら50代にあたる)のだが、
相変わらずとてつもない甘えん坊だ。
私を自分の保護者と思ってか、いつでも私の後をついて回って、
何か欲しいと甘えた鳴き声をあげる。


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