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「タンゴ・葉山・遊散歩」(1)

2014年9月、タンゴが我が家にやってきた。タンゴは、3歳のミニチュア・ダックスフントで、身体は漆黒の毛で覆われていた。顔は白黒まだらで、黒い鼻先、黒い目玉、そして鼻の付け根に下地の黒い皮膚が露出しており、顔の輪郭にだけ白く短い毛が生えて、第一印象はなんだか情けない顔の犬だった。

飼い主に虐待され保護されていた保護犬だった。鼻の上から馬の轡のような金属製の口輪を付けられ(その金属で擦れて毛が剥がれ、下地の皮膚が黒く露出していた)、散歩にも連れていってもらえず、餌もろくろく与えられずの状態になった。というのが、保護されるまでのタンゴの生い立ちだった。

うちに来て今年で7年、もう10歳になる(人間なら50代後半にあたるらしい)が、妻はタンゴを「ドM犬」と呼んでいる。その言葉を言う時、妻は私とタンゴの両方を揶揄うような口調である。

タンゴの名付け親は妻で、タンゴへの愛情も私などよりはるかに大きいと思う。にもかかわらず、タンゴは私を自分の保護者と思っているのか、いつでも私の後をついて回る。時に多少邪険に扱われても、である。くっつきすぎて私に足の指を踏んづけられることが何度かあったが、その度にいかにも痛そうな鳴き声を一声だけあげる。

私が一人になりたくて自分の部屋に籠っても、何とかして侵入してくる。そして部屋の入り口で、私の出入りをチェックするとでもいうように小さく細長い体を横たえてじっとしている。時に、何か欲しいと甘えた鳴き声をあげる。
私はそうしたタンゴの素振りに大概の場合、応えない。それでもタンゴは、妻ではなく私の後を付いて回ることをやめない。

1日に二回、タンゴと一緒に葉山の一色界隈を歩く。まあ、日課になった犬の散歩なんだけど、海岸を歩くこともあるし、近くの神社にお参りすることもあるし、木の実を拾いに里山に足を伸ばすこともある。自由に、気の向くまま、その日の気分で、ふんわり、ぼんやり歩き、を続けている。

季節と天候によって変化する葉山の自然に触れる「タンゴ・葉山・遊散歩」を
毎週月曜日に連載します。犬好き、葉山好きの方、どうぞお立ち寄り下さい。


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