タンゴ・葉山・遊散歩(10)
朝早くの漁港を歩いた
ついさっき漁から帰ってきたばかりの漁師が低い声で話している
潮風に乗って、年老いた低い渇いた声がゆらゆらゆれている
網をたたみながら忘れた頃に相槌を打つおかみさんの声もする
短いが、心のおくの襞に直にとどく声だ
話の中身は聞こえない
ただ、年老いた生活のひび割れをいたわり合う響きだけが聞こえる
魚の腐肉の甘い匂いでもするのか
タンゴは低い背をさらに低めて岸壁沿いの細道を進む
ピーピーピー ピーヒョロピーヒョロ
細いが途切れずゆったり続く鳴き声がした
見上げると電柱にとまるトンビと見つめう形になり
ピーピーピー
ワンワンワン
トンビの鳴き声にタンゴが声を合わせた
白い波をかき分けて
また一隻漁船が帰ってきた
ピーピー ピーヒョロピーヒョロロ
トンビは仲間の鳴き声に誘われて飛びたち
タンゴは黙ってふたたび路面の探索にもどった
ぼくの使い古した足首は傷み
タンゴの望むはやさで疾ることもできないけれども
心のまっすぐな息子たちよ
見ててごらん
このちいさな港町に戻ってくる船を
迎える鳥や人の静かな暮らしは
だれも壊せないことを
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