【小説】曇天らいふ4

《ホームレス生活3日目》ロープ

とうとう、時刻は二十一時半。夜がやってきた。今日は昨日よりもかなり寒い。昨日も寒さのせいで眠れていないが・・・睡魔は襲ってこない。俺は公園内をウロウロし、寝床をさがした。体を休めたかった。

壁に囲まれた駐輪場・・・吹き抜けの風が余計にきつい。
公園内の遊具の中・・・狭すぎて腰が折れそうだ。
公園近くのビルの間・・・全然だめだ。隙間風どころではない。暴風だ。

しかたなく俺は魚ロードへ行くことにした。ちらほらと同業者が、段ボールを敷いて仮眠をとっている。もう寒さも感じなくなったベテランだろうか?今の俺にはできない芸当だ。そんな境地にはまだ達していない。そして暫く、魚ロードを歩き外にでた。ふっと夜空を見上げると、ある感情が俺の心を支配した。
(もう、どうでもいいっか)

そう俺は何のためにここに来た?自分に問いかけた。そうだ見知らぬ土地で死ぬためだ。
寒さをしのいで生き延びるためじゃない。死の恐怖で自分を誤魔化していただけだ。
そう思い俺はフラフラと歩きだした。すぐに工事現場が目に入った。今日の仕事は終わっているようだ。そこには黄色いトラロープがある。何も考えずに拝借した。

公園の裏には小さな丘がある。起伏のあるちょっとした散歩コースになっている。そこを歩くと右手に大きな木が、何本を乱立してある広場を見つけた。時刻は二十四時を回っていた。人の気配はまるでない。俺はその中で一番大きな木に登った。太い幹にロープをくくり、反対に作った輪っかに首を通した。恐怖がなかった訳ではないが、淡々と仕事をこなした。そして準備ができた。

靴は脱ぐのかな?それは飛び降りの時か・・・。
服装は乱れてないかな?汚れてはいるが大丈夫だ・・・。
散髪して髭も剃っておきたかったな。・・・それは仕方ないか。
覚悟を決めた俺は、何故だかいたって冷静だった。

そして暫く目をつむった。

昔のことでも何か思い出すかと思ったが、何も浮かんではこなかった。
そして俺はゆっくりとおろすように、足を木の幹からはずした。

すぐさま体重で首が締まる。
やはり、かなり苦しい。今までに味わったことのない苦痛だ。
そして脳が今までに遭遇したことのない、暗闇になった。
あと少し・・・・

ドスン!
(はぁ・はぁ・はぁ!)
俺は首に手をやり、座り込んでいた。くくりつけたロープが外れてしまったのだ。絶対に失敗しないよう、きつく結んだはずなのに・・・。映画やドラマのようにうまくはいかないようだ。俺は暫くそこにへたり込んだ。

動けなかった。

首を吊って数秒だろうか。暗闇が俺を支配したときに、子供の頃の記憶が頭に映像化されたような気がした。もしそのまま現在の記憶までたどり着いていたなら、俺は逝っていただろう。そう思った。よく死ぬ前にこれまでの人生が走馬灯のように・・・と聞くがどうやら本当のようだった。

ロープを回収し紙袋の中に押し込んだ。そして俺は誰に気兼ねすることなく、子供のように泣きじゃくった。何の感情だか分からないが、抑えきれずに涙が止まらなかった。
自分の涙の意味が説明できない。不思議な空間に俺はいた。

そして・・・そのまま朝を迎えた。
どうやら今日も生きなきゃならない。


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