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【誘導質問】内閣府の「家族の法制に関する世論調査」における設問の問題点(3)

はじめに

これまで2つの記事で、内閣府が2021年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の問12の問題点を指摘してきました。

今回は、問12の設問文が、現状維持を強調した誘導質問であると指摘します。

誘導質問とは?

誘導質問は『聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―』で次のように定義されています。

誘導質問とは、回答者に回答者自身が思っていることとは異なる回答をさせやすくする質問である

聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド― p. 45

さらに、この書籍のp. 45の表1-9「誘導質問における誘導の形式」に「現状維持の強調」の例として『郵送調査法の実際 : 調査における品質管理のノウハウ』p. 30の誘導質問を引用しています。

現状維持を引き合いに出してさえ応答の傾向が歪められる。例えば、
今日までこの州では賭博が非合法でしたが、賭博を合法化することについてどう思いますか。」

郵送調査法の実際 : 調査における品質管理のノウハウ p. 30

この質問文では「今日まで」という言葉が現状維持を強調しているため、誘導質問になっています。実際に、この誘導質問によって回答分布にどれくらい影響があるかは不明ですが、あえて現状維持を強調する言葉を使用する必要はないでしょう。

前述の書籍では、このような誘導質問を書かないために、両方の立場について明示することを提案しています。

必要とされることは、両方の立場について明示しておくことである。

郵送調査法の実際 : 調査における品質管理のノウハウ p. 30

そして、誘導質問を改善した例として、両方の立場を明示した次のような質問文を示しています。

例えば,「賭博の合法化を支持する人もいれば,賭博を非合法にして欲しい人もいます。あなたはそれについてどう思いますか。」(余談になるが,この例を,わたしは最初「・・・賭博をこのまま非合法にして欲しいと思う人もいます」と書いてしまった。それと気づかずに,うっかり見過ごして誘導質問を作ってしまうのは,いと易いことである。つまり,この事例において,わたしは,最初の言葉づかいでは,つい現状維持を用いてしまったのである。

郵送調査法の実際 : 調査における品質管理のノウハウ p. 31

この書籍の著者も「このまま」という現状維持を強調する言葉を、うっかり使用してしまったことを述べており、誘導質問は非常に簡単に発生してしまうということが分かります。

問12は現状維持を強調した誘導質問である

今回の世論調査の問12の設問を見てみましょう。

問12. 資料1に記載のある現在の制度である夫婦同姓制度を維持すること、選択的夫婦別姓制度を導入すること及び旧姓の通称使用についての法制度を設けることについて、あなたはどのように思いますか。(○は1つ)

1.現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい
2.現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい
3.選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい

令和3年度 家族の法制に関する世論調査 調査票
https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-kazoku/3_chosahyo.html

「現在の制度である」、「維持したほうが良い・維持した上で」など現状維持を強調する誘導質問の要素が含まれています。
同様に資料1にも現状維持を強調する言葉が含まれています。

資料1 (筆者が赤線を引いて加工済み)
令和3年度 「家族の法制に関する世論調査」の概要(p.35)
https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-kazoku/gairyaku.pdf

このように問12は、現状維持を強調することで、選択肢1・2に回答を誘導する誘導質問になっています。

選択的夫婦別姓制度は現状の夫婦同姓という選択肢を残したまま、新たな選択肢である夫婦別姓を追加するものであり、選択肢を追加するか・しないかが本来強調するべき部分です。わざわざ「維持した方がよい」という言葉を使う必要はありません。現状維持を強調する言葉を使用すると、選択的夫婦別姓制度を導入すると、現状ある選択肢が維持されないような印象を与えてしまう可能性があります。

おわりに

今回は、内閣府の令和3年度の「家族の法制に関する世論調査」の問12が、現状維持を強調した誘導質問であると指摘しました。この問12だけでも問題点が多いため、この記事を含めて3つ目の記事を書くことが出来ました。

このように質問文を詳細に検討してみると、設問作成者がどういう意図をもって設問作成したのかが分かると思います。

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