【ダブルバーレル質問】内閣府の「家族の法制に関する世論調査」における設問の問題点(2)
はじめに
前回の記事では、内閣府が2021年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の、選択的夫婦別姓に関する問12において、【資料1】を見せることで、選択肢の解釈が限定できることが問題であると主張しました。
この記事では、問12が2つ以上の事柄を同時に聞く「ダブル・バーレル質問」であり不適切であることを説明します。
問題点:問12はダブルバーレル質問である
ダブルバーレル質問とは
ダブルバーレル質問は、質問紙・調査票作成に関する書籍の中で次のように定義されています。
ダブルバーレル質問の例としては、次のようなものが考えられます。
問.あなたは、りんごやバナナが好きですか?
1. どちらも好きではない。
2. りんごが好きでバナナは好きではない。
3. バナナが好きでりんごは好きではない。
この場合、1つの質問でりんごとバナナについて聞いています。りんごとバナナが好きな人のための選択肢が無いため回答ができず、正しい調査結果が得られません。
『聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―』では、ダブルバーレル質問の問題について、次のように指摘されています。
この問題を解決するには、選択肢4として「りんごもバナナも好きである」を追加するか、設問を2つに分けて、りんごとバナナそれぞれについて、好きかどうかを聞く方法があります。
問12はダブルバーレル質問で不適切
問12の問題点は、設問が「ダブルバーレル質問」になっているということです。問12では次に示すように、「旧姓の通称使用についての法制度」と「選択的夫婦別姓制度」の2つの制度について、同時に聞いています。さきほどの例で、りんごが「旧姓使用についての法制度」で、バナナが「選択的夫婦別姓制度」と考えると分かりやすいと思います。
【資料1】の下の表「問12の選択肢について」の右下の部分が空いていることからも、この2つの制度両方に賛成する4つ目の選択肢が、用意されていないことが分かります。
2つの制度両方に賛成する、選択肢4が無いことが許容されるための条件は、次の命題1、2が同時に成り立つことです。
「旧姓の通称使用についての法制度を設けたほうがよい」と思っている人は「選択的夫婦別姓制度の導入した方がよい」とは思っていない。
「選択的夫婦別姓制度を導入したほうがよい」と思っている人は「旧姓の通称使用についての法制度を設けたほうがよい」とは思っていない。
設問作成時に、この命題2つが成り立つことを確認するのは困難であり、また、この命題が成り立つと仮定することは不適切だと思います。りんごとバナナの例で考えると、次の2つの命題が成り立たないことは明らかです。
1.りんごが好きな人はバナナは好きではない。
2.バナナが好きな人はりんごは好きではない。
今回の問12は「旧姓の通称使用についての法制度」と「選択的夫婦別姓制度」について別々の設問を作成して質問すると、ダブルバーレル質問は解消されます。
おわりに
今回は、問12がダブルバーレル質問であり、不適切であると指摘しました。設問作成時に予備調査などを行うことで、ダブルバーレル質問だと判明すれば修正可能できたはずですが、修正されることなく世論調査が行われてしまったことは残念です。
次の記事では設問が誘導質問になっていることについて解説します。
参考文献
山田一成(2010)『聞き方の技術―リサーチのための調査票作成ガイド―』
鈴木淳子(2016)『質問紙デザインの技法[第2版]』
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