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ただそれだけでは足りない

街の風景を撮影した写真をもとに、その周囲に広がっていたかのような架空の風景を描き足す。城田圭介の写真を利用した絵画作品は、フレームの外にも世界が広がっていることを思い出させる。当たり前の事実ではあるが、鑑賞者の盲点でもある。

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A Passage / "A Sense of Distance"シリーズより
城田圭介,2014(茅ヶ崎市美術館にて撮影)

額縁やフレームの中で作品世界が完結すると誰が決めたのか。外側の世界を想像する楽しみがあったっていい。絵画や写真を鑑賞するときの新しい楽しみ方を教わった気がする。

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Untitled / "Drawing"シリーズより
城田圭介(同上)

城田圭介の作品展「-写真はもとより PAINT, SEEING PHOTOS-」を開催している茅ヶ崎市美術館もいい。高砂緑地の丘の上にひっそり佇む。聴こえてくるのは小鳥たちの鳴き声、松林を抜ける潮風、落ち葉がはらりと落ちる音。出口から一本道を歩けば、茅ケ崎の海。

ひっそりと夏は去った
夏などなかったかのように

日なたはまだ あたたかい
ただ それだけでは足りない

起こりえる すべてのことが
私には 手の平に
収まるように 思われる
ただ それだけでは足りない

善もなく 悪もない
むなしいものなど 何もない

ひとつの火となり 燃えさかる
ただ それだけでは足りない

生は私を その羽根のもと
やさしく包んでくれたのだ

私は本当に 幸運だった
ただ それだけでは足りない

葉は 焼かれずに
枝も 折られずに

日はガラスのように 透き通る
ただ それだけでは足りない

映画『ストーカー』,ジカブラスの弟の詩より

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