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放浪旅あいまい記憶日記 その1

<<< ロマンを売る路上販売 >>>

1983年 秋の始まり

23歳の俺は表参道の路上でアクセサリーを売っていた。

たくさんの路上セイラーが参道沿いに並んでいた。

まだそういった行為が見て見ぬ振りをされて、なんとなく許される時代だった。

隣でネパールで買い付けてきたカラフルなビーズやアンティーク感溢れる異国情緒たっぷりのアクセサリーを売ってる高さんが

「今さー、密教についての本を書いてるんだけど、すごい秘密を発見したかもしれないんだよ」と、ちょっと興奮気味に話しかけてきた。

高さんは道で稼ぐと数ヶ月間ネパールで暮らし、ポカラで日本人相手に貸本屋をしながら密教の秘密の本を書いている。眼鏡をかけた学者タイプの、いかにも本の虫といった感じだ。

「えー!すごいすねー!で、どんな秘密?」

「いやいや、まだ言えないんだけどねー。聞いたら驚くよ!ホント凄いんだから!」

なんだそりゃ、そもそも密教なんだから秘密があって当然でしょうにと思っていると

「始まったよ」と反対隣で、ポンさんが苦笑する。

ポンさんは浅草橋などで仕入れたパーツや他の仲間たちから仕入れたもので、自作アクセサリーを売っている。スラッとしていて着こなしもヒッピーぽくでかっこいい。この道10年のベテランだ。

「あいつずーと前から、そんなこと言ってやがるけど、一度も原稿見せたことないんだよなー」

「ホントに本書いてんのー?」

「書いてるよー。いやいや。今回は本当だって!本当にすごい秘密なんだよ」

この二人いつもこんな調子だけど仲良しだ。歳は聞いたことがないのだが二人とも10歳ぐらいは上だと思う。

高さんの旅の話を聞くと、まだ見ぬヒマラヤ山脈にその神秘性と憧れがむくむくと湧いきて、よし俺も金貯めていくぞ長期旅行へ!と奮い立つ。ポンさんもインドに行ったことがあるし、路上販売の経験や変わったお客さんの話は結構面白いので、お客さんが来ない暇な時でも、旅の話で盛り上がって飽きる事は無い。

この頃は路上で売っているようなインドやネパールのアクセサリーなどは、あまり店には置いていなかったし、特に海外から自分で買い付けたものなどは珍しかった。自分は春先に1ヶ月間旅行した初めてのタイで、帰りにアクセサリーなどを仕入れパーツを組み立てた物を売っていた。

それを買うお客さんたちも、もちろんそれが気に入って買うのだろうが、みんなそれにまつわるストーリーや旅の話を聞きたがった。何しろ路上に一枚布をひいてその上にアクセサリーを置くだけだ。

そこにしゃがんだら間違いなく、それを手に取り話を聞く。

そこは大勢の人が行き交う道なのだが、そこだけ時間の流れの異なる空間ができるのだ。とにかくしゃがんだ人はまず買ってくれる。

なんというか、物だけでなくロマンを買ってくれていたのだと思う。憐れみや協力も含まれていたかもしれない。

マッチ売りの少女の逆バージョンみたいなもんだ。

お客さんにマッチの火の代わりにストーリーで想像力を焚きつけるのだ。


ある日、いつものように定位置に行くと、高さんもポンさんもいなかった

                                                                

                     ー つづく

                     その2>>

次回はカリンバを欲しいという注文がいきなりたくさん来て、気がついたらカリンバを作ることになったお話です。

<<< カリンバを作って売り始めたきっかけ >>>

読んでくれてあれがとう!!おヒマな時に続きも読んでね!

幸あれ!!




ー「喜捨」の意味は功徳を積むため、金銭や物品を寺社や困っている人に差し出すこと。ー あなたの喜捨に感謝いたします。