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共依存という病

2年前に他界した夫は依存症だった。

私は結婚している間、夫の病気を治そうと必死だった。夫さえ治れば、夫さえまともな人間になれば、もしくは夫と離婚して離れられれば、私は幸せになれると、そう本気で信じていた。

そんなふうに依存症の家族に対して自分を犠牲にして献身的に尽くすことを「共依存」というらしい。私は間違いなく夫に共依存していた。

依存症の本を読み漁ったり、病院に連れていこうと血眼になって画策したり、分子栄養学を学んで食事を改善したり、思いつくことはすべてやった。それでも夫は変わらず事態は酷くなっていく一方だった。

夫のことで悩みまくり悲劇のヒロインになって絶望に打ちひしがれているうちに私の身体はどんどんおかしくなっていった。ある日、栄養満点の食事をしているにも関わらず、下痢が止まらなくなった。過敏性腸炎というやつだ。明らかにストレスが原因だった。何がそんなにストレスなのかと自分の内側に問うてみたところ、やはり夫との関係だった。もう限界だ。もう我慢できない。夫を変えるのは無理だ。私は私の道を進もうと、その時改めて決意した。

それから半年ほどして、夫が突然この世を去った。

夫が亡くなって、私は依存症の問題から解放されたと思った。もう頭のおかしい依存症患者と関わらなくて済む。これで自由だ。これからはまともな人と付き合おう、と。

しかし、一人になって依存症者から解放されたはずの私が惹かれる男性は、やはりどこか心がアンバランスで不安定な人ばかりだった。おそらくそのまま深い関係に進めば、また依存と共依存の関係を繰り返すことになっただろうと容易に想像できた。

私はようやく依存症者から解放されたのに、なぜまた自分から暗い道に迷い込んでいくのだろう。自分でも自分のことがわからなくて混乱した。頭では分かっている。この人は危険だ、と。それなのに、なぜか制御が効かないのだ。理性が崩壊していく。

そんな愚かな自分を観察して観察して、ようやく分かったことがある。

私はいまだ「共依存」という依存症の檻の中にいたのだ。

依存症の檻は、夫が作って私を閉じ込めたものじゃなかった。私は夫に出会う前から、すでに私は依存症の檻の中にいたのだ。そこにピッタリと合う夫と出会っただけなのだ。

私は「共依存」という依存症だったのだ。

今思えば、私の父親はアルコール依存症だったと思う。毎晩酔っては大声をあげたり大きな物音を立てて家族を威嚇して母親と言い争いをした。母親は父親を怒らせないようにビクビク生活していて、父親の愚痴を私に言って聞かせた。私はそんな可哀想な母親を助けようと一生懸命だった。私はそんな小さな頃からすでに共依存という依存症の檻に絡めとられていたのだ。

共依存てさ、気持ちいいの。ジェットコースターような毎日で、必死になって頑張ったり泣いたり怒ったり絶望したり、自分がまるで昼ドラのヒロインにでもなったみたいなドラマチックな日々。その中にいれば、相手の問題だけを一生懸命考えていればよくて、そうしていれば「可哀想」な私は同情を得られるし、自分を犠牲にして献身的に相手を支える姿は周りからも評価されやすい。

そして何より、自分のことを考えなくて済むのだ。自分の無価値観に、恥に、絶望に、蓋をしていられる。それがとても楽なんだよね。自分と向き合うことから逃げている自分を堂々と正当化できる都合の良い逃げ道なんだ。痛みを麻痺させる麻薬なんだ。

このシステムこそが「依存症」そのもの。他のアルコールやギャンブル、買い物依存症となんら変わらない、自分と向き合うことを避けるために快感に逃げる手っ取り早い方法なんだ。

そう、「共依存」も依存症なんだよ。自分の意思では抗えない麻薬のような快感を体験してよく分かった。意思の力では如何ともし難い、それが依存症。病気なんだ。

ここから抜け出すためには、自分をよく観察することが大切。向き合いたくない不安がある。それを紛らわせるために強い衝動を必要としている。もしくは慣れ親しんだそのシステムから出られなくなっている。意思とは関係なく、その快感を求めてしまう。そんなすべての動きをよーく観察して、そのすべての瞬間にマインドフルになる。今に気付いていく。

自分の気持ちから逃げたいから、不安を紛らわせるために強い快感を欲するわけだから、その不安な気持ちをしっかりと見ていくんだ。怖くても、痛くても、目を背けずに、ただ自分を観察して今に意識をとどめる。

それだけが依存症から抜け出す唯一の方法だと思う。自分の内側を見つめることが一人では難しければカウンセラーさんなどプロを頼って。意思の力ではどうにもならないと感じるなら医療の力を借りてください。強い衝動に負けそうになるなら、自助グループに参加して仲間を見つけてください。どうか諦めないで。助けを求めてください。

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