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書店経営難を考える 後始末編

3月から4回に亘って「書店経営難を考える」をnoteにて公開させていただきました。そもそもこのテーマは、経産省の書店振興プロジェクトの始動を受けて、なぜ今書店は経営難に陥っているのかの要因について、様々な事象の中から、店頭での書籍雑誌セグメントでの黒字化が難しい状況がそれの最大の要因であることをベースに、売上、営業利益、そして原価の3つの中から、原価、すなわち仕入れ値を落とす、出版業界で言うところの正味改善は可能なのかをそれぞれの立場から検証し、結果、正味改善は難しく、いま出版業界でできるとすれば定価設定方式を再考し、書店の粗利額を増やす手はあるのではないか、という提案で4回目を終了し、一旦ここでこの連載を終了しました。

4回目を投稿した後、お読みいただいた方々の中では、私の記事をベースに、私の考えの足りない部分や、定価を再考した場合こうなるのではないか、と素早く検証いただいた記事も出ております。

そもそも私の連載の最大の目的は、遅々として進まない出版業界の変革への動きのきっかけのひとつにでもなれば、と思い、書き始めたもので、私の意見を皆さんに知っていただくというよりも、このきっかけで何らかの形で議論と実践が深まって欲しいという思いから始めたものですので、こうした反応を非常に嬉しく思っております。

今回はこの連載の後始末として、4回目までで伝えきれていない補足をします。


補足事項

「書店経営難を考える」は4回に分けて書いたので、最後はそもそもの主旨が分かりづらくなってしまった感があります。連載主旨は「書店店頭での書籍雑誌セグメントでの黒字化はどうすれば達成できるのか?」であり、それを考えるにあたり、書店の粗利を増やせる方法として正味改善は多分出版業界として議論は進まないし、時間も相当かかる。正味改善の場合出版社の負担も大きくなる。業界のプレーヤーレベルで改善可能な手法として定価設定方式の変更を検討してはどうか?という提案です。

まずは定価設定方式の変更について誤解もあるようですので、補足しておきます。
私は「再販制度」の撤廃を意図して定価設定方式の変更を提案しているわけではありません。どちらかというと再販制度よりは委託販売制度の運用方法の改善の方が望ましいと考えています。再販制度撤廃となると、書店、出版社、取次だけでなく、著者も絡んでくる可能性がありますし、公取も関係してきます。そして再販制度を撤廃した後は前述のhiroyamaさんご指摘のような結果になると思われます。
私の提案した定価設定方式の変更とは再販制度はそのまま運用し、出版社が定価を設定する際、出版社だけの採算分岐を基準にした定価設定ではなく、取次や書店の持続可能な粗利も含んだ定価設定に変えてはどうか?というものです。

意図的に現在の流通をベースとしました


お読みいただいた方々の中には「現行の出版流通をベースに議論しても無駄ではないか?」と思われている方もいらっしゃると思います。私も以前は「もう取次は要らないのではないか?」と思っていました。今回敢えて現行制度をベースに検討したのには理由があります。出版業界の多くの方々には取次のないスキームが想像できないし、取次が不要になる、或いは無くなる、ということが想像したくないのかもしれません。新しい流通を作るような議論になる場合、殆どの人たちは「そんなことはできるわけがない」など、全く議論が進みません。よって今回は敢えて現行制度だとこれぐらいしか思いつかない、誰か他に思いつきますか?を投げることにしたわけです。私自身は取次の方々の努力や苦労も目の当たりにしているので、取次がない方が良い、とは一概に言えませんが、一方で取次自体が変わらなければ取次を中心に書店も出版社も沈む可能性が高く、どう変わるのかを注視しています。ただ一方で取次のない(或いは取次の範囲を限定した)出版流通についても以前から考えています。

書店経営を考えるならば他の手もあります


そもそものお題が「書店経営難を考える」ですから、どうすれば書店経営が順調にいくのかを考えるべきところですが、これも売上、営業利益、原価の3要素の中の原価について、つまり仕入れ値をどう下げるか、正味改善の可能性に絞って検証しました。①で記載した通り、やはり「本業」で利益を出せない構造自体が最大の問題である、と考えているからに他なりません。しかし、「書店経営」という観点からすると、書籍雑誌の店頭販売のセグメントだけに固執する必要は確かにないのです。現在書店振興プロジェクトで議論されているような「魅力ある書店作り」や書籍雑誌の店頭販売セグメント以外の会社を黒字化できる「稼ぎ頭」を作ることでも書店経営難からの脱却は可能でしょう。しかし、それは以前から行われてきたことでもあり、それでいて今、書店を閉める動きが止まらないのは、やはり「もう手は打ち尽くした」感があるからなのかも知れません。

書店の役割が終わったのか?仕組み悪いのか?


④での結論というか提案は出版社が定価設定の際に取次や書店の粗利を十分考慮して定価を決定すべき、それが書店経営難を解消するかも知れない一つの手法、としました。ですが根底にあるのは、出版社も取次も書店も「本を作る」「本を流通させる」「本を売る」ことで各々が堅実に持続できないことに最大のネックがある、と言うことです。なんのために作って、流通させて、販売しているのでしょうか?一部に「国力」「文化」と言われる方々もいらっしゃいますが、それ以前に「ビジネス」として、です。それが成り立っていないから違うところにエクスキューズを求めているように思えます。言えることはこれが成り立っていないのは「既に存在価値がないのか?」それとも「仕組みが悪いのか?」のどちらかだということでしょう。後者だと信じてその仕組みを改善するためのアプローチを早急にしていくだけだと思うのですが。
フォローしておくと、「仕組みが悪い」のではなく、「仕組みが合わなくなっている」が正解だと思います。日本の本は雑誌をベースとした安価な物流に相乗りする形で、世界に類を見ない低価格を維持してきました。しかし、既にそれは崩壊しており、書店も取次も出版社でさえも書籍の販売を通じて利益確保できない状況になっています。壮大な変革プランも必要ですが、まずは出来るところからどう変えるのか、が重要と考えます。

最後に

ウィスキーキラー名義でのnote更新は今回で終了します。
流石にこの領域までくると「ペンネーム」での続行は卑怯かな、と思っています。そもそも個人匿名でnoteを書き始めたのは、私の考え自体が業界のマイノリティ的な部分があり、契約先の会社に迷惑を掛けてもいけない、と考えて、私個人の責任において始めたものです。しかし私の所属する㈱ブックダムから、私の考えはブックダムの考え、と思って書いてもらって構わないい、というお話をいただき、今後ウィスキーキラーとして発信してきたnote記事は下記にて発信していきます。

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