悪夢を見た話
まず、父がいつの間にか離婚して再婚していました。
再婚相手は30かそこらの、父の年齢を考えれば随分と若い派手な女性でした。
どうやら父は莫大な財産を持っていたようで、遺書にはその大半を後妻に渡すよう記されていました。
そして程なくして、父は不審な死を遂げました。
私は父の後妻とふたり暮らすようになりました。
後妻は煙草を吸い始め、夜な夜な男を連れ込むようになりました。
当然私は彼女に疑いの目を向けました。しかし証拠がある訳でもなく、また小心者の私は問い詰めることもできず、できるかぎり顔を合わせないように気を使うのが精一杯でした。
ですが、彼女を完全に避けられる訳ではありません。同じ家に住んでいる以上、偶発的に顔を合わせることは稀ではありませんでした。
彼女は私に何を言うわけではありません。
ただ、その目は、「邪魔だ」と叫んでいました。
私は恐怖を感じ、この家から逃げ出そうと思いました。幼い頃から住んでいた家で、愛着もありましたが、命には替えられません。
夜が耽けるのを待ち、最低限の荷物と、父の通帳と印鑑を鞄に入れて、誰にも見つからぬよう家を抜け出そうとしました。
ですが、それは叶いませんでした。
私の行動は父の後妻に筒抜けでした。
後妻はどこから連れてきたのか、屈強な男たちを数人従えて玄関に立ち塞がりました。
後妻は煙草を燻らせながら、私に通帳と印鑑を置いていくように言いました。
私は拒否しました。母が去り、父を喪った私にとっては、それが最後に遺されたものでした。
私の答えを聞くと、後妻は男たちに顎で指示をしました。
私はあっという間に組み伏せられ、男の太い腕は私の首をギリギリと締め始めました。
私が最期に見たものは、赤い唇から吐き出された真っ白な煙でした。
この辺りで目が覚めました。
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