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#silent のヒロインは二人だった①


『夏帆の演技がヤバすぎる』


silent第6.7話放送後、Twitterやネットニュースなど各方面においてダントツで目立った声は、奈々を演じる夏帆の手話のうまさや凄まじい演技力を讃えるものでした。


もはやうますぎて、『奈々ちゃん演技やばい』『奈々が報われるスピンオフはよ』など夏帆さんが奈々に擬態化



今回は、『この物語の主人公って紬だけじゃなかったんや。』と教えてくれた奈々についてフューチャーしたいと思います。

奈々だけでも本当に言及したいことが多すぎるんですが、もう拾いきれないので



夏帆さんってやっぱプロだったってわけ



まじでやられた。ほ〜〜〜んとうに奈々演じる夏帆さん、お芝居信じられんぐらいのクオリティで圧巻でしたね....


いちいちの説明も音声も無しに、あそこまで「リアルだ、これは夏帆ではなく奈々だ」と感じちゃうのって何でだろう。と考えた時に、前回書いた無音が生み出す余白の効果が視聴者の原体験に働きかけ、想像力を掻き立てていることももちろん挙げられますが、彼女の発するリップ音だと気付きました。



感情が昂ぶったり気持ちに熱が入るほどに、しんとした空間に奈々の衣類が擦れる音やリップ音が響く。これが何とも切なかった。見ているこちらの息が詰まりそうになる。狂おしい程の臨場感を、夏帆さんは演じて魅せた。
これらが無音の演出と相乗し、本当に奈々という一人の女性の、届かない好きな人に恋焦がれる苦しさや、心臓がドクンとなるあのやな感覚までをも私たちに体感させてくれました。


夢の詰まった青いハンドバッグ



silentは本当に"対比と伏線回収とカット割り"の仕掛けが神がかっていると個人的に思っていて、本当に丁寧にこだわって作り込まれてるんだろうな~といつも関心させられます。


今回の6話で最も話題になった青いハンドバッグの考察。一回観ただけでは全く何の伏線か分からず、「想が紬に取られそうな今、想に見せて(可愛いと思ってもらいたくて)少しでも近づきたいんかな...」と浅はかすぎる考察(にも及ばん)をしていた自分が死ぬほど恥ずかしかったです。






リアルタイムでTwitterを追っていたのですが、考察班の皆様の鋭さには脱帽ですし、このシーンの前で青いハンドバッグというキーアイテムのクローズアップをしておいて、その後車が横切るトランジョンが入ってからの伏線回収が圧巻でした。



車が菜々の前を走った瞬間音の無い世界に切り替わり、左手ににそのハンドバックを握りながら右手でスマホを耳に当てながら話す、その先には同じようにスマホを耳に当てながら笑ってる想。
言葉による心情描写の説明抜きに、『ああこれは、ifの世界で奈々の叶わぬ夢(ダブルミーニング)』なんだと瞬時に視聴者に理解させる脚本演出、まじでとんでもなさすぎます。意味が分かると怖い話ではないですが笑、青いハンドバッグというアイテムに託された意味を理解出来た瞬間『はっ.........!!!!』となりそこからはもう大号泣。
一周まわって鳥肌モノでした。



5話の、湊斗が眼を覚まして紬と付き合った日の回想シーンに切り替わった時も感じていましたが、このドラマはほんっっとうに対比(「同じ」と「違い」)や回想への切り替え方が秀逸すぎるんです。



3年前、紬と湊斗が付き合い始めた日の回想




そして、バイブレーションの振動で現実に引き戻されるいつもの朝。





何十回、何百回想の声を夢で見たのだろう。
きっと自分自身の声でさえ、そもそも"声"という概念が無いのだから脳内で想像したり、再生してみたりすることも叶わない。
一度も音を聴いたことの無い奈々が、想像もつけ得ない彼の声に思いを馳せて、焦がれてきたのだろう。


気が付くと本当にそんな風に、奈々の立場で想像する自分がいました。
想と出逢い、恋心を自覚してから明るく気丈に立ち振る舞ったりキラキラした世界だけでは生きられなくなってしまった奈々のこの3年間の心情が、自分の原体験のように伝わってきたんです。


やっぱりこんな攻めた演出、本当に視聴者を信頼してないと出来ないし、ここまで必要最低限まで削ぎ落として洗練されていると、もう逆に我々も一緒にこの作品を創り上げている感覚になります。



どの奈々も奈々だから


音の無い暗く悲しい世界の淵に立ちかけていた想に、太陽のように照らし手を差し伸べてくれたのは奈々でした。


「それは、聴者もろう者も同じ。あなたも同じ
6話  想と奈々の初めて出逢った場面





きっと、この言葉に嘘はなかったと思うんです。聞こえるとか聴こえないとか関係なく、嬉しいことも辛いことも人並みに経験してきたからこそ、これは心からの奈々の言葉。自分にそう言い聞かせるための理想論かもしれないけど、少なくともこの時の奈々はそう信じていたし決して“悲しい世界”を生きてはいなかったはずです。



「あの子(紬)に聞こえない想くんの気持ちはわからないよ」

「18歳で難聴になって23歳で失聴した女の子探して恋愛しなよ」


それなのに、初めて想と出会った時、『聴者もろう者も同じ』と手話をして見せた奈々がきっと誰よりも、聴者とろう者の壁を感じている。線を引こうとしている。



特にこの時の奈々はの心は、今まで以上にざらざらとしていました。
いちばん近くに居て唯一心を開いて貰えた話し相手ではあったとしても、想の「思い人」にはなれないんだと悟ったその時から、『都合よくあってくれる友達としか思われていない』としても、この関係性を終わらせないために、せめて想の傍に居続けられるようにするために“凍りついた想の心を照らす太陽のようなポジション”を築いてきました。
そんな風に、この5年の間 壊さないように、大切に大切に守り抜いてきた関係が目の前で崩れかけそうなのを感じてしまったから、繋ぎ止めようと必死だった。

紬の落としたイヤホンにも『お金持ちだよどうせ』的なことを言っていたけど、それは想が自分の知らない世界に行く気配がして、そうなってしまうのが怖かったから。自分の手から離れて行って欲しくなかったから。



好きな人の前ではいつも笑顔で、天真爛漫で前向きな女の子で在りたかったから見せはしなかったけど、ずっと心の奥底では抱いていた本音を、妬みや僻み、やるせなさが混ざった刺々しい言葉に乗せて想にぶつけてしまう。


どうして、本当に心から好きな人に対してほど、必死になって空回りしてしちゃうんだろう。どうしてかっこ悪い自分ばかり見せちゃうんだろう。もっと上手く立ち振る舞いたかったし、こんな事言うつもりじゃなかったのに。恋をしたことがある方なら誰しもが、そんな後悔を抱いたことがきっとあると強く思うんです。


『奈々にだけ伝わればいいから。』心を閉ざしていた想が、静かに自分の話を聴いてくれて、世界に光を差し込んでくれた存在として唯一心を許した奈々にだけ、わかって貰えればいいから。と、文字通りの言葉を真っ直ぐに伝えました。


でもこれが、好きな人から貰った言葉だったらどうだろう。
自分にだけ向けられた手話で、自分だけのものだと思っていたのに。恋愛感情は抱かれてないと気づいてはいても、この人の世界を照らせるのは、通じ合っているのは自分だけだと思えていたのに。奈々にとって「手話」という共通項は誰も触れない、“魔法”のようなもので、唯一そこに、矜持を抱けていたはずです。


そんな二人の間だけの特別なものさえも、自分が何度も何度も夢に見た、でも夢の中でさえ聞くことは叶わない想の声を知る聴者の女の子に奪われてしまった

堪らなかったと思います。

好きな人の好きな人。

自分がどんなにに欲しくても手に入らないものを全て持ってる人。
その人は8年越しに現れて、今まで想が何を思い過ごしてきたかも、自分と想がどんな3年を過ごし、どんな思いで傍に居たのか、紬は知らない。


それは想も同じで、想の知らない湊斗との3年間で築き上げたもの、紬の知らない奈々との3年間の思い出がちゃんとある。


そこに他の人は土足で安易に踏み込めないし、きっと踏み込むべきではない。


想も紬もお互いに、それぞれの知らない世界がある。

一話まるまる、こんなにも丁寧に湊斗や奈々、サイドの方々の思いを掬い上げ、恋心が育っていった過程を描かかれてしまわれたら、「定番ラブストーリー」の展開にすっかり慣れきっているのに意表をつかれてこっちまで感情ぐちゃぐちゃになってしまうのはもう仕方ないです。




そんな相手を前にするときっと誰でも嫉妬にまみれて、そうしたくなくても自分の意に反した行動だってとってしまう。自分が惨めにならないようにする盾のように、つい棘のある言葉をぶつけて傷つけたくなってしまうと思うんです。


紬と会い紬が注文を頼んでくれた場面で、普段なら恐らく気に留めないことでも心が荒んでいたらひねくれた思考になってしまう。
紬だって奈々が聴こえないだろうから代わりに私が、とか思うことなく、ただ気が利く性格でなんの気なく頼んだかもしれません。私だって頼めるのに。ろう者だからケアされる立場だろうって、気を遣われて見られてるんだろうか。なんて思ってしまったりして。


だからこそ、『(私が想に教えた手話をあなたが想から教わってるのは)プレゼント使い回された気持ち』という言葉が溢れてしまった。


もうしょうがなくないですか、どろどろとした気持ちにそりゃなりますよ。



自分だって同じ立ち位置に立って、ただ大好きな人の声を聴きたい。
でもそんなささやかな願いすら自分は叶わない。夢は夢のまま。


聞こえないと分かっていても、想からの電話に出ようと耳にスマホを当てる奈々



この演出はもうほんとに、さすがとしか言いようがなかった。



7話以降については次回に綴ります。







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