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裁判の傍聴に行ってきた話2-1

 初めての裁判傍聴は衝撃の連続だった。この感覚を誰かに伝えたい。そう思った僕はnoteに記事を投稿し始めた。傍聴欲を30年弱温め続けたその反動が来たのだろうか。今後は今ほどのペースで傍聴出来ないだろうなあと思いながら、細々と続けられる趣味になったらと思っている。

 さて、人生2回目の傍聴は詐欺・商標法違反の裁判から始まった。法廷に入室すると、きちんとスーツを着た男性が被告側に座っていた。前回の最後にひどいものを見たので、今回はドキドキしながらの傍聴だったのだが、少しホッとした。
 男性は30代だろうか、緊張した面持ちで待機していた。
「ご起立ください。」
裁判が始まった。
検察官が起訴内容を述べていく。

  • ネットで購入した偽物のロレックスを本物と偽って代金を得た。

  • 偽物の購入代金は2〜3万円程度、販売代金は25〜30万円程度。

  • 同じ手口で7回繰り返した。

  • 『地元の掲示板 ジモティー』を使用して購入者を募った。

  • 釣り文句は『夫に先立たれた未亡人、夫の趣味の時計があるが自分には良く解らないので譲りたい、大事にしてくれる方にお願いしたい。』のような感じ。

  • 未亡人を名乗っているので、振込用口座は被告の母親の預金口座を使用した。

弁護側は起訴事実は争わない、量刑判断をお願いしたい。

  • 新規開業したカフェがコロナのタイミングと重なりうまくいかなかった。

  • 運転資金が不足していた。

  • 両親から開店資金を借りており相談できなかった。

  • 2度離婚しており、養育費の支払いがある。

  • ロレックスの本物と偽るならば高額な金額を要求することもできそうだが、運転資金と養育費の合計の25万円前後の金額設定にしておりそこまで酷くない。

  • 現在は夜間飲食店でアルバイトをして月収は9万円程度。さらに、家庭用浄水器の委託販売の仕事を始めたところ、10月以降は30万円以上の収入が見込める為、被害弁償をしっかりしていきたい。

身勝手な理由だし、カフェがコロナでうまくいかないのなら早くに閉店して違う業務を行うべきだっただろうし、委託販売でそんな順調に収入が得られるのだろうか?僕は思い切り首をひねっていた。裁判官が被告にいくつか質問をし始めた。
「まず、カフェの運営がうまくいかなかったとのことですが、コロナのタイミングと重なったということですね?前年度の実績がないので補助金の申請はできなかった感じですか?」
「はい。」
被告人がやや弱々しい声で答えた。
「銀行も借入れはできませんでしたか?」
「はい、審査が通りませんでした。」
「なるほど、ではカフェをやめて会社勤めなどをしようとは思わなかったのですか?」
「過去にも会社勤めをしていた時期がありましたが、人に雇われるというのが性に合わないと感じて転職を何回かしました。それで個人で開業しようと思ったのです。」
ん?妙に声が元気な気がしたがなぜだろうか。
「なるほど、養育費についてですが減額調停は行わなかったのですか?」
「行いませんでした。」
「収入がないなどの理由があれば認められると思いますが、やらなかった理由は?」
「・・・・」
被告が口ごもる。
「特に理由はないのですか?」
「拒否されると思ったからです。」
節目がちに被告人が答えた。
ただの直感で理屈は無いが、これはいらんプライドが邪魔したんやろなあと思った。
「委託販売の仕事を始めたとのことですが、現在まで契約は取れましたか?」
「いえ、まだ始めたばかりで契約はとれていません。」
「本当に大丈夫ですか?被害弁償と養育費の支払いを行うとなると結構な額になると思うのですが?」
「はい!委託販売の一件あたりのマージンは高額なので大丈夫だと思います。」
「本当に大丈夫ですか?」
「はい。」
「でも、まだ契約取れていないんですよね?」
「はい。喋ったりするセールスは得意なので大丈夫です。」
その自信はいったいどこから出てくるのか?根拠など到底ないに等しい。すでに委託販売を始めていてまだ1件も契約が取れていないも関わらず妙な自信だ。ふと詐欺師体質なんだろうなと思ったらとてもしっくり来た。

量刑の言い渡しは後日になる。示談が成立するのだろうか?詐欺罪は実刑が基本だったはず。前科が無く初犯としても執行猶予は免れないのだ。被告人は既に仕事をしていると言うことだが商標法違反の罪も入れると結構な量刑になるのではないか?

被告人の無根拠な自信と無意味なプライドが今後に悪影響を及ぼさないように願うしかないなあ。午前の裁判が終わり昼食のために僕は裁判所から出ることにした。

(続く)

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