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ふたりのためだけのラジオ

私も夫も、もの静かな方だ。
話すと黙るの割合、私は4:6で夫は3:7もしくは2:8くらいじゃないだろうか。
もちろん目の前の相手によってその比率は変わる。
親しい人なら6:4くらいにもなるし、仕事中なら2:8くらいになるだろう。

ちなみに、義母や義妹とその彼氏は、話す:黙るが10:0になるほどのお喋り好きなので、お正月に集まったときに、全員が同時に別の話題で話し始め、誰もそのことを気にしないまま、それぞれが話しきったときは驚きと愛しさがあった。
愛を込めた「あほやなぁ」を進呈したくなった。
(本当に言うと、また三人から色んな角度での突っ込みが入りそうなので、実際は言わなかった)

夫が相手なら私の方も、話す方の割合も増える。
仕事のすれ違いでなかなか会う時間もないので、話したいことはある。
けど、すんなり言葉は産まれてこない。
生まれつきの口下手もあるが、その時話したいと思ったことも夫と会う頃には、時間が経ちすぎてカピカピになっていて、何を話したかったかは忘れてしまうのだ。
なので、「なぁなぁ」「あんな」ばっかり言ってしまう。

「なぁなぁ」
「うん」
「なぁなーー」
「うん」
「なんやっけ?」
「言わんのかい」
が割とよくある。なぁなぁを言うので満足する夜もある。
夫は、私の話を聞き流す癖があるので、別に気にしていない。

そんな私が昨日は珍しく、なぁなぁの後、すぐに話題を提供した。
すごくどうでもいいことだったので、何を言ったか忘れてしまったことが悔やまれる。
他愛のないことなので、皆さんそれぞれ想像しながらこの先を読んでいただきたいのだが、

「持論なんですけど」

と前置きをしたのは覚えている。
そしてそれが夫のツボに入ったことも。

「持論なんですけど、◯◯は◯◯なんだと思うんですよね〜。」

ツボる夫。
調子に乗る妻。
笑ってもらえると、何回も天丼してしまうのがこの夫婦の面倒なところである。

「持論なんですけ、ど〜◯◯は◯◯なんですよね。」

もはや夫にとって話の内容はどうでもいいことで、話し方を笑っている。
それをいいことにどんどん調子に乗る。

「ごりぴーの深夜ラジオ、持論なんですけどのコーナーです。」
持論なんですけどって、かまいたちの『これ余談なんですけど・・・』と、やすとも姉さんと友近姉さんの『キメツケ!』のちょうど良いところをパクったような番組だなぁと架空のラジオに思いを馳せる。

ここらへんで、夫が自分も言いたくなって「持論なんですけどっ!!」と茶々を入れてくるが、
この番組はしっとりしたラジオなんで、そんな元気に「持論なんですけどっ!!」て言わないのです、とピシャリ。

そんな感じで二人だけで笑いながら、いつも以上に持論のトークを繰り広げた。半分はタイトルコールの話だ。
ふたりともこの夜だけは、話す:黙るは10:0だ。
たまに夫とこういう時間があるから楽しい。
これだけ話せるのも、夫が聞いてくれるという土台があるから話せる。
いや、話は耳から耳へ流されていってるのだけど。
どうでもいいことやアホなことを話したくなるので、真剣に聞かれても困るから丁度いい。

ひとしきり笑って、静寂な夜になったはずだった。

「夫の◯◯コ〜ナ〜!!」

夫のラジオ番組も始まったようだ。

静かな夜の、ふたりのためだけのラジオ。
二人でイヤホンを分け合いながらウォークマンを聞いている妄想をして、私は夢の世界の入口に立っていた。

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