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12月読書感想文:むらさきのスカートの女/今村夏子先生

12月の読書感想文は何を書こうとずっと悩んでいた。
年末やクリスマスにちなんだ本の方がいいのかな?だったり、2022年最後の読書感想文だしどういう本がいいのだろうとう~んう~んと考えていると、もう年末だ。

あれもこれも紹介したい!と候補がたくさんでたなかで、今村夏子先生の「むらさきのスカートの女」を選んだ。
いくつも候補の本が頭に浮かぶなかで、毎回頭にチラチラと姿をみせてくる。
それほど面白かった。こんなに強烈に印象に残ってるなら、書こう!と思い選んだ。
帰省の電車の中で読むのにも、ちょうどいい厚みなのでぜひ読んでみてほしい。

※これより先ネタバレ含みます※

   ○○○

今村先生の本は、「こちらあみ子」や「あひる」を読んだことがあり、じわじわと迫ってくる不気味さや人間のいや~な感じがすきだ。

「むらさきのスカートの女」は、SNSで話題になり、怖いと聞いていたので楽しみにしていた。

この話は、街で変わっている人で有名な「むらさきのスカートの女」と呼ばれている女性を観察している主人公の視点で描かれている。

たしかにこの女性は変わっている。
色んなエピソードが出てきて、この人ちょっと変わっているな~って思うように書かれている。
しかし読み進めていくと、むらさきのスカートの女を観察している主人公が変じゃない?と、インクがカーペットに落ちてシミになっていくように、じわじわと不気味さが広がっていく。この感覚がおもしろい!!

この主人公、むらさきのスカートの女に対する執着心が異常すぎる。
街でおかしな人をみてもその瞬間に思うことは何かしらあるかもしれないけど、
家に帰ってお風呂に入るころにはすっかり忘れていることだろう。
そもそも街ですれ違う人の顔なんて覚えている人の方が稀だと思う。

だけどこの主人公はあだ名をつけ、行動範囲を把握し、家を特定してる。
これだけならただのストーカーだけど、この主人公はそこらのストーカーとはちょっと違う。

なんと自分の職場にむらさきのスカートの女を働かせるように仕向け、思惑通り一緒に働くことに成功するのだ!! 

もう怖いを通り越しておもしろい。
この人の執着はどこまでいくんだろうとワクワクする。

執着心だけでなく、自意識過剰さもすごく、そして恐らく認知が歪んでいる。
むらさきのスカートの女がちょっとおかしな人だなと他の街の人からも思われているだろう描写もあるけど、あくまで主人公の視点での描写だから、実際は皆主人公ほど気にしてないんだろうなぁと思われる。

そして主人公は妄想癖もすごいし、絶対自分の思った通りに人を動かしたいタイプだからだんだんとむらさきのスカートの女が普通の人に見えてくる。

普通ってなんだろうとこの本を読んでいると考えさせられるけど、仮にここでの普通は「周囲の人に溶け込んでいるかどうか」とすると、むらさきのスカートの女は確かに浮いてるところはあるけど、物語が進むにつれて周囲の人に馴染んでいく。
なので普通に見えてくるのだ。

主人公は最初普通の人のようにみえるけど、だんだんと変わってる人のように思えてくる。
これは「周囲の人に溶け込んでいた」のではなく、「周りに認識されなさすぎて、透明人間になっていたから溶け込んでいるようにみえただけ」なのだ。

実際に何回か、あっ…いたんだというような反応をされている。
このステルス特性を活かして、むらさきのスカートの女へのストーカー行為は成功していっている。

特におもしろかったのが、むらさきのスカートの女を尾行していて、彼女が居酒屋に入っていったのでついて入り、ビールや何か食事を頼み観察し、彼女が出ていったら、本当にしれっと食い逃げして店を出て行った場面だ。
普通こういう時って、私は店員にバレないかとビクビクしながら店を出た、だったり、私はいつものようにお金を払わず出た。ラッキー。とか何かしら感情があるものだと思う。
そんなことは一切なく、ただただ目の前のむらさきのスカートの女がどこに行くか、その一点にだけ集中している。
その清々しさと、ステルス特性により店員も気づいていないところが面白かった。

また主人公は、むらさきのスカートの女といつか話すことができたらこう話そうと、シュミレーションをよくしている。
そしてついに話すことができたとき、絶対今心のなかでは笑顔だけど実際には無表情かつ早口で話してるんだろうなぁ~~!!って思えるのが面白い。読んでいていつのまにか主人公を応援してしまっていた。なんだコイツとずっと思っていたはずなのに…。

   ○○○

この本は不気味だけど、エンタメ感もありとても面白い本だった。
この主人公の、徐々にあれ?この人の方がおかしくない?と分かってくるときのゾクゾク感をぜひ楽しんでほしい。


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