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4月読書感想文:くるまの娘/宇佐見りん先生

宇佐見りん先生の本の感想は2年前に書いていて、その後特にnoteには書いていなかったが、この日からずっと宇佐見先生の本が好きだ。

今まで『かか』が一番好きな作品だったけど、こちらの『くるまの娘』もランキング上位に、ぎゅいん!!とくい込んでくるほど好きになった。いや、好きというのは恐れ多い。
読み終わると、へなへなと膝が崩れ落ちていって、そのままひれ伏してしまうような…
とにかく凄すぎて圧倒されてしまうのだ。

『かか』のときも感じたが、アダルトチルドレンの苦悩を、心情をかくのが本当に上手い。
『かか』のときはうーちゃんの独特なかか弁で書かれていたから、本質は見えづらかったかもしれないが、『くるまの娘』は普通に書かれている分、ぐさぐさ刃物で刺されているように苦しくなってくる。

そして今回は父親の存在感がある。
『かか』でも父親はいた。が、かかの存在感97%に対し、父親は3%くらいの存在感のように思えた。
(かかの話は思い出せるけど、父親は食事のシーンくらいしか思い出せない)
しかし『くるまの娘』は父親もキーパーソンだ。

この変化にあたって、母親の苦労と、そんな母を見て自分が何とかしなきゃと悩む娘の苦しみや悲しみが、より具体的に感じるようになった。

幼少時代、公園に連れて行ってくれたり、学校の送り迎えや毎日のご飯を用意してくれるような、自分の成長に一番深く関わって育ててくれる人
(ここではあえて父・母と言わないこととする)

その人の苦労って一番子どもに伝わってると思う。
私がそうだったからそう思うのかもしれないけど。 

そう思うと、まず良い子にしなくちゃって思うようになり、
自分が家族の空気を良くしないとって思うようになっていく。
主人公、かんこのそういう苦労が読書中ずっと感じられ、胸がじくじく痛んでいく。

この作品のすごいところは、父親がただのクズで終わらないところだ。
こういうテーマって、例えば父親がアルコール依存症やギャンブル依存症だったり、または浮気性だったりして、まず読者からの印象を悪くし、最後DV虐待のフルコンボを決め退場するパターンがよく見られる。

『くるまの娘』は、娘のかんこ視点からだが、父の過去や内情を掘り下げられていき、この人も被害者で悪い人じゃないんだと思えてしまうのだ。そう思ったら、かんこの気持ちとよりリンクするから、より読んでて苦しい(笑)

私が、かんこの父親をそう思った原因のひとつは、父親も子どもの頃、母からは愛情をもらえず、父からは暴力をふるわれたことから、苦しかった思い出などを語るとき、擬音語で話してしまうというエピソードにある。

苦しかった思い出を話すとき、もう一度その経験をなぞることになるので、飲み込まされた熱々の鉄の塊をもう一度口から出すように苦しい。

ぼごーんされたのでえんえんしたんだ」

かんこの父は、こういう風にしか語れないのだ。

かんこは小さいときからそういう姿を見てきたから、父を守ってあげない存在だと、ぼんやりと心のなかにあったのではないか。
その気持ちが、かんこの心で具体化されたシーンが出てくるので、ここでは割愛する。 

ただ親をそういう存在として思ってしまうとき、それも自分がまだ庇護される存在の子ども時代に思って背負ってしまうと、ほんと苦しいなぁ…と思った。

私もまた治りかけのカサブタを無理やり剥がしてるかのように、この作品で過去を追体験した。
今だからいいけど数年前読んでいたら思い出した過去に押しつぶされてしまっていたなと思う。

これがただ酷い親って話だったらまだ良かったかもしれない。
けどみんなが、あの時の楽しかった家族の時代に戻りたいと思い、戻ろうと行動し、でも戻れない(むしろ悪化する)
そんな蟻地獄の苦しみがずっと続くのだ。

ここまで書かれると読んで苦しくなるし、読んで良かったと思う。

本当に強烈的な作品だった。 
また、読んでる途中タイトルと表紙デザインの意味も分かって、心にインクが垂らされたように苦しい気持ちが広がった。細部まで意味が込められていて凄い。

読む人を選ぶ作品だと思うけど、読んでみてほしい。

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