見世物に成り上がった我ら

女ははるかかなたに弟子入りすると同時に松竹芸能所属になった……わけもなく、舞台を降板させられ、髪が元通りになるまで暫くは衣装担当ということに収まった。

marine blue、lemon yellow、charcoal gray、violet、rose pink、cobalt green、
dark cyan、ghost white、sherry color。
さまざまな布を裂いては手繰り、縫い付け、熱によって光沢を出し、さらにはレースやビジューをあしらって華やかに仕上げる。作業部屋となる貸し倉庫には、誰の趣味か、バイオリンがずらっと天日干しされている。そこの隙間に出来上がった衣装をかけていく。
倉庫には大抵女一人だったが、ごく稀にエアリアルティシューの稽古をする双子が、ランプで照る女の手元をじっと見ていた。女は緊張して喉の渇きを覚えた。
「なんだか手術みたいじゃない?」
唐突に右側の女の子が言い、左側の女の子が頷いた。
「私たち本当はかぐや姫になりたかったのよね」
再び右側の女の子が言い、左側の女の子が頷いた。
眩しい光と針と糸。彼女たちは手術台に上がったことがあるのだろうか。そしていつか、竹を切るようにすっぱりその身を分かつ時が来るのだろうか。

足踏みミシンの音が冷えた空気を小節ごとに並べ、いつか聞いたゴミ収集車のメロディーを飛び越えた。機械音が、指先の血が、闇に呑まれて遠のいてゆく。
ようやく外界に触れたのだ、と実感する。
人の美を手伝う仕事は、女にとって束の間の幸せであり、唯一の使命だった。
世界は完全数。
自分を除いて出来た完璧な世界に決して自分を入れるまいと、改めて強く思った。

                                                                             サーカス団は小規模ながらも幟旗を立て、巡業を続けた。客のほとんどがからかい半分でやって来た。
しかし1幕の前半を過ぎたあたりから真面目な顔になり、休憩時間に連れ合いと感想を交換して自分の感性を確かめ、最終的には感情を揺さぶられて帰っていった。
はじめにテントをくぐった時とは異なる、充足感を得た顔や水滴で濡れた顔が大勢あった。
また、同じ境遇である演者の活躍が気になるらしく、足りない人たちが引っ切り無しに見に来た。
だが団員は彼らを特別扱いすることなく、見込みのある者だけスカウトした。
見世物小屋まがいの時代錯誤なサーカス団は、人々にとっての娯楽であり、拠り所であった。

ハマショーの『MONEY』がすきです。