見出し画像

展示感想

冨樫義博に行ってからもう早一週間か。
私をオタク道(といっても程度が知れるが)に導いた冨樫義博先生の原画は、それはそれは言葉では表現しきれないほどの凄みがあった。
原画展というものに行ったのは二回目で、最初は堀越耕平先生の僕のヒーローアカデミアの原画展だった。
度々ジャンプの中でも絵が上手い漫画家だ、という記事とか感想とか多く目にしているだけあってキャラクターが生き生きしているし、画力も凄まじくキャラ数が多いこともあって展示の仕方も豪華だったように思う。撮影スポットの数も、キャラクターのパネルの数なども多かった。
冨樫義博展も同じ会場であり、入口の展示の仕方も似ていたように思ったが、やっぱり思い入れが深いだけあって興奮度は桁違い。壁に貼り付けられた冨樫義博先生が生み出したキャラクターの絵を前にワクワクが止まらない周囲の観覧者たちのざわついた雰囲気みたいなのを感じて、それにまた嬉しくなった。頭上にはパズルのピースの形をしたパネルがぶら下げられていたり、会場の中も至るところに遊び心みたいなのが溢れていて嬉しくなった。
今回は原画をしっかり見たかったので、ヒロアカ展で付けていた音声ガイダンスはなし。ガイダンス有りも楽しかったのだけれど、私の脳みそが人より低レベルなおかげか音声に集中すると目の前の原画に集中できなかった為である。

幽遊白書→レベルE→ハンターハンターの順で展示スペースが仕切られており、同じ作品内であれば自由に移動してよいとのことだったので、ゆっくり進んでいった。
同行していた妹(中学生)は、普段から漫画を読んだりすることは苦手で、アニメや映画なども得意ではないのだが、ハンターハンターのアニメ、特にG.I編を大変気に入っていたので連れてきた。勿論、そんな妹のことなので幽遊白書やレベルEまでは履修しておらず、ハンターハンターの展示が一番最後であることを心配して度々様子を見ていたが、驚くべきことに原画の一枚一枚を観覧する際に足を踏み出していいとされるラインの白線ギリギリまで爪先を出して幽遊白書の原画を…

凝視していたのである。

もうその真剣な横顔を見たときに「これは心配しなくてもよさそうだ」と安心して観覧した。幽遊白書の原画を見ながら、妹にこういうシーンだよ、などと軽く説明しながら進むと途中何やら透明なケースに群がる人だかり現れた。順番を待って見ると幽遊白書のネーム。ネーム!?
ヒロアカ展ではネームまでは置いていなかったと思うので(記憶にないだけかもしれない)、まさかネームがあるとは思っておらず、心の準備などしていなかった。ルーズリーフ?のような紙に、普通にめちゃめちゃな絵が描いてある。ネームなので、めちゃめちゃでいいんだけど既に絵が味を出しまくっていた。冨樫義博先生の描く愛くるしい飛影が、ネームの上でもうそれは、もうとんでもなくヘニャヘニャに愛くるしく描かれており、目の前の壁には完成した原画があった。あの保護ケースがルーブル美術館に置いてあっても何ら不思議ではないはずだ。最後の一枚まで、全ての原画の完成度があまりにも高く、人によって描かれたことが信じられない気持ちになっていたので、ネームが置いてあったことで(本当に人が描いているんだ)と安堵するほど。目の前に原画があるのだから信じるしかないのだけれど、キャラクターの手のアップにしろ、何にしろ、熱意とか力強さがダイレクトに伝わってきて、楽しんで描いてくれているような気持ちになったり、苦しみながらも妥協してたまるか、という心で描いてくれているような気持ちになったりした。構図が大胆であったり、膨大なキャラクターの数が画面に収まっていたりする絵は本能的な部分で目を引きつける力はあると思うが、冨樫義博先生の絵はどんなにシンプルで普通の構図の場面であっても目が離せなくなるので凄いと思った。
本能的に少しの違和感が仕事をして、大勢を魅了するみたいな細かい戦法を全く取っていない気もした。もうただただ、力強い絵やキャラクターに込めた命や実直なストーリーの根っこに翻弄する展開で勝負されている感じがして、どこまでも自由で無邪気な子供心みたいなのが心に刺さってきた。
妹もレベルEのコーナーまで余すことなく原画を見てまわり、いよいよハンターハンターのコーナーへ!流石にさっきまでと違った興奮の仕方をする妹に内心ガッツポーズ。ここで妹がハンターハンターの漫画は読んだことなかったことを知り、余計に期待が高まった。G.I編の原画に差しかかると、何故か一気に観覧者の足取りが止まりがちになり、スタッフから少しずつでいいので進んでくださいと声掛けが入る。後ろのカップルも興奮し始め、彼氏の解説なども饒舌になっていた。このカップルはヒソカVSクロロ戦の原画のところで、彼女の「本当のこと言うと闘いのレベルが高すぎてよく分からなかった」発言に彼氏が機嫌を悪くして不穏になっていた。
キメラアント編に差し掛かると、少々周囲の雰囲気も変わってきた。原画から感じる圧みたいなので言えば、個人的にはゴンがヒソカのプレートを狙っていたシーンが印象的だったのだけれど、やっぱり緊張感とか重苦しいシーンが多いだけに見方も少々変わる。漫画で見るより迫力があり、ピトーの表情の移り変わりだけでも生命を感じた。

キメラアン編好きの別の妹によれば、「試験や闘技場での闘いや冒険活劇は他の漫画家もか似たようなことは描けてもキメラアント編は冨樫義博にしか描けないから好き」、だそうで。

コムギとメルエムの会話は原画が続いていて、展示の仕方も少し工夫されており、最後の原画の文字だけ直筆のままで文字が貼られていなかったのは気になった。そしてなぜか背筋がゾワッとした。全部こうだったらいいのに、などと気持ちの悪いことを思ったりしつつ、その筆跡を舐めるように眺めて次へ。

暗黒大陸編の原画はまだ目新しいものも多かったので原画でもしっかり復習しつつ、そこでも不穏な空気になるカップルの会話に聞き耳を立てながら出口へと向かっていくと、また心の準備がないままに名だたる漫画家たちの冨樫義博先生へのコメントと愛のあふれるファンアート色紙が数々が現れ、入場したときよりもさらなる喜びに妹とお思わず目を見合わせた。
個人的に驚いたのは荒木飛呂彦先生…
各々先生や著名人の方々のコメントの上にまた原画が展示されてあり、コメントを読みながら頷き気がつけば出口。
帰りたくないよ〜と言いながら、出口を出ると展示の為に描き下ろされたゴンと幽助の絵があり、て手を合わせて拝み、帰りました。

今思い出しても信じられないくらいの絵からの熱気!
正直ここまで感動すると思っておらず、これがまだ連載途中だという喜びを噛み締めつつ、冨樫義博先生を応援し続けたいと思いました。妹が帰路、「漫画家ってすごいなあ」と呟いたこの一言だけ、で私は冨樫義博先生の凄さをしみじみとか感じた。平面の紙、ペンで人間が描いた絵、派手な色や印刷なわけでもないのに、心が震えて熱狂させることができる。会ったことも話したこともないけれど、原画に会えて本当にいい日になった。
おすすめです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?