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言語化できない孤独と、得体の知れない不快感

結婚してみたら、たまたま相手が外国人だった。そして「想いを言葉にできない」苦しさと「未知の場所で得体の知れない不快感と対峙する」不安を、子どもたちに先駆けて味わうことになった。

言葉の壁

国際結婚したと知ると大抵の人に「会話はどうしているんですか?」と聞かれる。我が家の場合は日本語と英語、まれにインドネシア語を混ぜながら話していて、何語を話しているという意識がない。カタコトなんですよ、と言うと決まって驚かれる。

でも、言葉の壁というのは、そういう、お互いが意識して「言葉のキャッチボール」をしている時には実はそう感じない。

じゃあ、どういう時にしんどいかというと、ひとつは会話に至る前の段階。もうひとつは、反論したい時。それから、細かなニュアンスを伝えたい時。いずれも、聞いて欲しい気持ちが一方通行であることが多い。

うまく言えない。ちゃんと伝わらない。それは大変もどかしい。「そうじゃなくて」「そうでもなくて」「ええい!もういいわい!」と何度も匙を投げてしまいたくなる。

伝わらないこと自体の悔しさ、悲しさだけではない。共感してもらえない辛さ、否定される怖さだけでもない。ここで伝えられなかったら。この人に理解してもらえなかったら。ひとりぼっちでいるのと何が違うんだろう。伝えるのを諦める時、とても孤独な気持ちになる。

得体の知れない不快感

常夏のインドネシアから夫が初めて日本へやって来た時、日本は真冬だった。しかも、ちょうど大寒波の到来と来日がピッタリ重なった。

初めての外国、初めての日本、初めての冬。夫は酷い乾燥肌、かゆみ、気分の落ち込みに苛まれた。

けれど、その頃の私はまだ彼の体調不良の大変さを微塵もわかっていなかった。乾燥肌なんて死ぬもんじゃない。寒いのは私だって一緒。そんなふうに軽んじていた。

そうした死なない程度の苦しさ、不快感がいかに生きる気力を削ぐか最初に理解したのは、長男を妊娠・出産した時だった。

食べづわり、お腹の圧迫、呼吸のしづらさ、頻尿。産後は尿もれ、寝不足、悪露、手のひび割れ、腱鞘炎。どれも、命を脅かすようなものではない。妊産婦にとってはありふれた症状だ。

けれど、精神的にはかなりこたえた。

次男を夫の実家であるインドネシアで出産した時にはさらに酷かった。長男の時と違って、家事全般、子どもたちのお世話を全力でバックアップしてくれる義母や親戚たちに支えられて、最高の環境だったはずなのに、私は常に「気分が優れない」状態だった。

それはたとえば、手桶で流すローカル向けのトイレだったり(ちなみに産前は全く気にならなかった)、エアコンが効かないほど暑かったり、もともとの産前産後の体調悪化に加えて環境への不慣れが大きく影響していたように思う。

きっと、精神的なものが大きくて、だから余計に、気分が優れない理由と対策を的確に察することも、伝えることもできなかった。

とにかく、よくわからないけど、元気ではないのだ。どうして?と聞かれてもわからないし、どうしたい?と聞かれてもわからない。

おそらく日本に来たばかりの夫も、そんな状態だったのだと今は思う。

長男が泣くのを見て思わず感じたのは「わかるわー」

生まれたばかりの長男が泣くのを見て、私はこれまでの自分の経験を彼に重ねた。適切な言葉に変換できない歯痒さ、孤独。自分でも何が起きているのかわからない不快感と不安。

どうすればいいのかわからないけど、とにかくなんかもう、不快なんだよー!なにこれー!どういうことー!誰か、早く何とかしてー!もう嫌だー!

そりゃ、泣くわ。泣くしかないわ。わかる。

3歳になった長男は、まだまだ絶賛イヤイヤ期の最中。語彙も表現力もちょっとは育ってきたけれど、細かなニュアンスや説明はまだできない。否定的な言葉に敏感で、「自分を否定された」とこの世の終わりのように泣く。機嫌や体調が悪い時はさらに、気持ちと言葉が噛み合わない。

子どもとのコミュニケーションで最初にやるべきことは「共感」だと聞く。心から共感できなかったとしても、その姿勢を示すことで子どもは落ち着くし、安心できる。信頼関係も築ける。

けれど、言葉の上っ面だけ気をつけても子どもはわかってしまう。だから、ギャン泣きの子どもに愛想を尽かしそうになったら、産前産後のあの辛さを重ねてみるといいかもしれない。

死ぬほどではないけど、まとわりつく不快感。そして、経験していない夫には言葉で伝えられないもどかしいあの感じ。そういうようなジレンマを、目の前でのたうち回って絶叫している彼らも、きっと感じているのだ。

子どもと向かい合わせでにらめっこするのではなく、言葉にできないモヤモヤに、ふたりで向き合っていく。そんなふうに、このイヤイヤ期を乗り越えていきたい。

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