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SDGsマーケティング施策事例研究 Vol. 6 パンテーン「#HairWeGo」 キャンペーンで 「自分らしさ」を尊重する姿勢を見せ、ムーブメントを形成

このnoteのポイント
1. 2018年に始まったパンテーンのキャンペーンは日本社会の偏見や外圧に対して問題を提起する広告スタイルの初動事例となった。
2. 当時の海外市場では「美の定義のアップデート」が行われ、「自分らしさ」をより尊重するムーブメントが発生しており、この流れを受けた形でありつつ、より日本社会の課題に適合したキャンペーンとなった。
3. 本キャンペーンが日本でムーブメント化された背景には、問題の当事者を起用したリアルな主張が起爆剤となったことがある。

こんにちは! Good Tideチームメンバーの山下です。

今回ご紹介するのは、日本でも人気のヘアケアブランドであるP&Gのパンテーン(Pantene)が2018年から開始した「#HairWeGo」キャンペーンです。
このキャンペーンは、タレントを用いず社会問題の被害者である当事者の声を採用しながら新聞広告や動画広告施策を実施し、髪に関する偏見やルールから脱却して一人ひとりが自分らしく生きることを応援しています。

パンテーンはこれまで複数の施策を実施していますが、それぞれの施策はどういった背景で実施がされてきたのでしょうか。
キャンペーンの背景にある社会の声も踏まえながら、内容を見ていきます。

1. 今回の施策の概要

キャンペーン実施の背景を見ていく前に、今回のキャンペーン概要を振り返ります。

「さあ、この髪でいこう。#HairWeGo」のキャンペーンは「#1000人の就活生のホンネ」広告を皮切りにこれまで、これまでに6つの施策を実施してきました。
これら全ての施策において、日本社会の髪型に関する偏見やルールに対して声を挙げ、生活者がなりたい髪を叶え、その人がその人らしく生きることを応援しています。
ここでは、特に話題になっていた就職活動関連の2施策について詳細を見ていきます。

1.「#1000人の就活生のホンネ」広告で就活生の就活時のルールに対する不満の声を社会に打ち出した

この広告では下記の背景から、就活時の女性の暗黙のルールである「黒いひっつめ髪スタイル」をモザイクアートにして紹介し、問題提起をしました。

■公式実施概要
黒いひっつめ髪に代表されるように、日本における就職活動は画一的で、
無個性や没個性などと表現されることも少なくありません。このような社会的背景の中、全国の就職活動経験者の男女1,000人に「就職活動に関する調査」を実施したところ、就職活動生の81%が「企業に合わせて自分を偽ったことがある」と答えたことが明らかになりました。この調査結果を受け、パンテーンは「#1000人の就活生のホンネ」プロジェクトを発足。就活生が自分らしく就職活動を行えることを願い、1000人の就活生のホンネをまとめた広告や動画を公開。メディアやSNSを通じて、就職活動生の個性の尊重について様々な議論が生まれました。

Twitterではハッシュタグ「#1000人の就活生のホンネ」を付けた投稿が3,000件近く投稿されました。
投稿では「広告を見て泣きそうになった」「みんな同じに見えてしまう」など自由な髪型をするというメッセージに共感している人もいますが、一方で「髪型さえ揃えられない人は社会に適応できないのでは」「ルールに従えない人を増やすだけ」といった反対意見も見られ、議論を生み出すきっかけとなりました。

2.「#令和の就活ヘアをもっと自由に」キャンペーンで、139の賛同企業とともに就活生の個性を尊重した前向きな就職活動をサポートするプロジェクトを展開

2018年の「#1000人の就活生のホンネ」に対する反応を受けて、他社を巻き込み、問題的をするだけでなく社会を変えるアクションに落とし込んだキャンペーンを実施しました。

■公式実施概要
黒いひっつめ髪に代表される日本の就職活動のあり方について、2018年にパンテーンが投じた小さな一石。それが少しずつ社会に広まりつつある中で、2019年に実施した「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」キャンペーン第4弾。ひとりひとりの個性を尊重した前向きな就職活動をサポートするため、賛同企業と共創していく『#令和の就活ヘアをもっと自由に』プロジェクトを展開しました。“髪から始まるもっと自由な就職活動”に賛同する139の企業とともに、令和元年10月1日、令和初の内定式に向けて就職活動生が自分らしい髪で就職活動を行うことを応援するTV広告・動画を公開。

139の賛同企業のロゴと、それに付随する自由な髪形の内定者の写真がインパクトがあり、社会が変わりつつあることを表現するようなクリエイティブとなっており、話題になりました。
Twitter上では「#令和の就活ヘアをもっと自由に」をつけた投稿が7,000件近く投稿されました。

そして実際に賛同企業の採用試験に参加したユーザーが、普段の装いでも内定を得られたという投稿や、現在賛同企業で働くユーザーが自由な社風であることを伝える投稿が目立ち、キャンペーンが好意的に受け入れられたことがわかります。
また、賛同企業ではない企業でもハッシュタグとともに、自由な社風で内定式が行われた様子が投稿されており、パンテーンの枠を飛び越え社会的に話題化したハッシュタグとなりました。

2. 企業のサステナビリティに対する姿勢

パンテーンを扱うP&Gは、「世界を変える力、未来を育てる力」をテーマに、「社会の大義は細部に宿る」としてどんなに小さなものであろうと、あらゆる機会を使って変化を起こし続けることを目標にしています。

具体的には、大きく「サステナビリティ」「社会貢献」「ジェンダー平等」「ダイバーシティ&インクルージョン」の目標を掲げており、その中でも小目標を立て、企業として社会の大義を果たそうという意思が伝わってくる目標設定になっています。

上記の企業としての取り組み目標は、SDGsに関するものがほとんどであり、今回の#HairWeGoのような社会への問題提起は、企業の主たる取り組み目標ではありません。
また、海外でも同じように実施されているキャンペーンではなく、日本でのみ実施されているプロジェクトとなっています。

そんな中でパンテーンがこのキャンペーンを実施した背景には、外資系企業ならではの『日本の就職活動のスタイルが没個性的である』という客観的な視点と、それに対して行動を起こすパワーがあったからだと考えられます。

3. 「自分らしさ」を尊重したメッセージを出した背景

この施策でパンテーンが打ち出している「自分らしさ」を尊重するようなメッセージは日本のブランドの施策では見られないメッセージでした。
それだけにこの施策が世に出たときは大きなインパクトがありました。

一方で世界では「自分らしさ」を尊重するメッセージを持つ広告やキャンペーンは当時大きなムーブメントになっていましたし、現在もそういった施策は支持されます。
そもそも欧米では元々自分らしさを尊重する文化が醸成されていることもあり、自分らしくあることは社会に押し付けられる美しさの定義からの脱却であり、日本社会が脱却したい就職活動時のような社会のルールなどの事象よりもさらに進んだものでした。

欧米:社会が押し付ける、細くて白いことが「美しさ」であるということとの闘い
日本:社会が押し付ける、ルールに従順であることが「正しさ」であるということとの闘い

先日のSchickの事例でも紹介した内容ですが、欧米では下記のような美の定義のアップデート施策がありました。

・リアルサイズモデルの登用
・多様な肌の色のモデルの登用

体型や肌の色に関わらず、ありのままの自分を認めるという自己肯定感が高まるメッセージが多かったように思います。
日本ではそれ(細くて白いことのような美しさの押し付け)よりも際立って就職活動時の「正しさ」の押し付けがありました。
まずはそこから打開することのインパクトを優先した形となったのではないでしょうか。

この施策の効果もあってか、就活のルールに抗う声は大きくなりました。
2019年には、就職活動時や、勤務時にヒールのある靴を履くことを強制されることに対して、『靴』と『苦痛』をかけて声を挙げたハッシュタグ『#KuToo』(2019年)がムーブメントになりました。
これを受けて、ANA・JALという大手航空会社は勤務中の靴のヒールに関する規定を廃止しました。
このように社会が問題に対してハッシュタグで抗議をする先駆けになったのがこのパンテーンの施策だったと考えます。

4. 施策のポイント

このような背景から、今回の施策におけるコミュニケーションのポイントを考察してみます。

\ここがポイント/
「自分」らしくありたい当事者の意見を根拠に、社会へ問題提起した

パンテーンが「日本の就職活動のスタイルに問題があるのではないか」と感じ、自社の伝えたいことをメインにして有名人を広告塔に立てて施策を行った場合、このような大きなムーブメントにはならなかったのではないかと考えます。

2018年の「#1000人の就活生のホンネ」では、文字通り1000人の男女にヒアリングした内容を広告に取り込み、2019年の「#令和の就活ヘアをもっと自由に」では、賛同企業の内定者を実際に広告塔として採用し、この社会課題がリアルであること、この社会課題に影響を受けている人たちが実際に存在していることを認識させる働きがあったと考えられます。

自分らしさを尊重したいというメッセージがある中で、就活の当事者である就活生ではなくタレントを起用することは「自分」を偽ることと同義であると考えたのではないでしょうか。
実際、広告に出ていた人物と同世代の消費者層は共感し、彼ら彼女らよりも年齢は上だが同じような就職活動をしてきた世代も当時を思い出して大きな共感を生みました。
メッセージと、訴求方法が一致したことで今回の大きなムーブメントにつながったと考えられます。

この施策を皮切りに、日本では多くの企業が社会課題に対してアプローチする施策を実施してきましたが、その中でも炎上してしまう施策も多くありました。
そういった炎上してしまう施策の多くが当事者の意見を取り入れなかったことや、判断するのに十分な根拠がないままに発信してしまったことが要因にあると考えます。

炎上しないため、そして何よりターゲット世代にしっかりと共感してもらうためにも、リアルな声をできるだけ集め、そして発信者をしっかりと見定めて発信していくことを大切に、企業による社会への問題提起があることを望みます。

参考:
#HairWeGo 「#1000人の就活生のホンネ」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2018(閲覧日:2021/8/20)

#HairWeGo 「#令和の就活ヘアをもっと自由に」
https://pantene.jp/ja-jp/hair-we-go/shukatsu-hair2019(閲覧日:2021/8/20)

P&G「私たちの貢献」
https://jp.pg.com/doing-what-is-right/(閲覧日:2021/8/20)

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