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お店をはじめて28年、うんちくよりも「まごころ」を。<珈琲工房SCC>

彦根には、コーヒーの香りで満たされた通りがあります。

県道2号線、通称ベルロードに沿って建つ看板が目印です。


その角を曲がった先に、木目調のかわいらしいお店があります。コーヒー豆の販売をしている、「珈琲工房SCC」さんです。


店に入ると、豆が入った樽がズラリと並んでいます。


どの豆にしようか、悩みながらいすに腰をかけます。すると、「どうぞ」と柔らかな声とともにコーヒーが出てきました。

やさしい音楽が流れる静かな店内は、外の世界よりもゆっくりとした時間が流れているような気がします。

お店をはじめて28年。カウンターに立つ店主に、コーヒーの香りに揺られながら、これまでの歩みやお仕事について、お伺いしました。

流れに身を任せ、彦根で小売店を

店主は、お店を開く前はコーヒー豆をお届けする協同組合で働いていたそうです。病院や警察署、カフェといった組合員さんのもとに、コーヒー豆を届けに回っていました。

「仕事がね、楽しくて楽しくて。『いつかかっこいい仕事がしたいな』っていうあこがれを持ちながら、なんでもしていました。」

豆を焙煎する方法も、組合で働きながら覚えていきました。

焙煎:生豆に、熱や圧力を加えて飲用可能なコーヒー豆にするための作業

「事業所の奥に大きな焙煎室があったんです。おじさんがそこで毎日豆を焼いていて。おじさんに『自分にもできるかな〜』って聞いたら『無理に決まってるだろう!』って言われちゃって。
でも、そのおじさんと毎日コーヒーを飲んでいるうちに、覚えちゃいました。」


店の奥にある焙煎機

やがて、組合の上層部の方から「独立してみないか」と提案され、コーヒー豆の小売店を始めることに。

「流れに逆らわずにきました。焙煎を覚え始めた時期に、いろいろなタイミングが重なって。今しかない、っていう流れに身を任せて、小売店を始めることにしたんです。」

味を決めるのは、うんちくではない

コーヒーは、産地の違い、焙煎の仕方やコーヒーを入れる際のお湯の温度、お湯を注ぐ速さまで、全ての工程が味を左右すると言われています。
古き良き喫茶店に立つバリスタの、「このコーヒーの産地は…」「〇〇℃のお湯でこうして…」という語りを聞くのも、コーヒーの楽しみ方のひとつでしょう。

「でもね、そういうコーヒーの『うんちく』があんまり好きじゃないんです。」

店主はそう言いながら、楽しそうに笑います。

「たしかにそういったこだわりも大事かもしれません。でも私は、コーヒーの味を左右するのは、うんちくよりも『まごころ』だと思うんです。

焙煎も、同じ段取り、同じ秒数で全ての作業を終えたとしても、まごころの込め方によって味は変わるんです。細かな作業、気配り、丁寧さ。まごころがあるかどうかで、ひとつひとつの所作に違いが出ます。

なので、おいしい豆を、おいしいコーヒーをつくろうって心を込めると、本当においしくなるんです。」

大好きな彦根の人々に、できることを

30年近く彦根で店を構えている店主にとって、彦根はどんな場所なんでしょう。

尋ねてみると、嬉しそうに答えてくれました。

「彦根は本当に大好き。人がね、自分とは合うんです。派手さはないけど、街に品があって。とても住み心地がよいです。」

組合から独立したばかりの時は、別の場所でお店を開いていました。

「平成の不況にやられて、もともと店を構えていた場所が使えなくなってしまったんです。そのときに、周りの方々にたくさん助けていただいたおかげで、今もお店が続けられています。

ほかにもいろいろなトラブルがあったけど、ここでの出会いを大切にしているうちに、状況も好転してきました。

自分ひとりでは、絶対に生きてこれなかった。だからもう、どこにも足を向けて寝ることができないんです。もうね、立って寝るしかない(笑)」

そう言いながら、また嬉しそうに笑っています。


「ありがたいことに、常連さんも、口コミを聞いて来てくださるお客様もいらっしゃいます。おいしいコーヒーを求めてきてくださる皆様に、きちんとおいしいものをお届けしていきたいです。

これからもお客様の期待に応えていくことで、少しでも皆様に貢献できたらな、と思っています。」

(写真・文:おだりょ)

珈琲工房SCC
住所:滋賀県彦根市後三条町613-8
電話番号:0749-26-7798
営業時間:10:00〜18:00
定休日:毎週水曜日・木曜日
ホームページ:http://scc-coffee.com/index.html