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はじめまして、grcと申します。

はじめまして、good record club (グッドレコードクラブ/grc) 店主の柴田広輝です。
noteでの初投稿なので、まずはgrcの自己紹介をさせて頂きたいと思います。
grcはこれからアナログレコードをはじめたい人、新しい音楽との向き合い方、楽しみ方をしたい人に向けた、月額定額制のサブスクリプション型のサービスです。
grcを通じて、音楽との出会いの悦びや、有機的なつながり、そして音楽探究の楽しさを届けていきたいと考えています。
これからnoteでは、音楽、レコード、オーディオ、アナログライフスタイルなどに関する情報を発信していきたいと思いますので、お楽しみいただけますと幸いです。



ストリーミングとジャケ買いの間で

grcのサービス内容の簡単な説明としては、月額定額プランで、アナログレコードと、オプションでオーディオ機器もあわせてお届けするサブスクリプションサービスです。基本的にはひとりひとりのお客様のご要望をお伺いしながら、こちらのおすすめしたいものをお送りします。プランによって、レコードやオーディオはご自宅でお試しして返却することも購入することもできます。商品をお届けするだけではなく、レコードライフに関するコンシェルジュサービスやメディアコンテンツも展開していく予定です。

grcを一言で説明すると、「月額定額制レコード定期便」「パーソナライズド・レコード・キュレーション」「オンライン・レンタルレコード」「会員制レコードクラブ」など、いろいろなアプローチを試みましたが、あまり一回で理解されたことがありませんでした。サブスクというワードそのものがストリーミングサービスのことを指したりするので、「レコードのサブスク」などと言っても何だかよくわかりませんね。そこで、grcのサービスをざっくり表現すると、「ストリーミングとジャケ買いの間」のようなものです。


Life Sound 人生に刻む音

grcのコアとなるのは「人間のおすすめ」による新しい音楽との出会いです。
ストリーミングが音楽の聴き方の主流になって、より受動的になってしまったと感じている方は、少なくないのではないでしょうか。たとえアルゴリズムではなく人が選んだプレイリストを聴いていても、機械的に音楽を消費している感覚に陥ります。一見、自分好みに選んでくれているようで、実は既存のトレンドや誰かのテイストに自分のアイデンティティをはめこんでいく、没個性的な感覚があります。

ストリーミングがより便利なものであることは間違いないですが、果たして、インターネット前時代のラジオや、インターネット誕生後の違法ファイル共有サービスよりも「より良い」ものかと言われると賛否が分かれるところです。Spotifyを題材にしたNetflixドラマ「ザ・プレイリスト」の最終回では、Facebookの軌跡をなぞるかのような将来予測が描かれています。ストリーミングがより浸透していくにつれて、SNSで起きているバックラッシュのような現象が起こることも予想されます。人は便利さに慣れると、また次の斬新さを求めていくもの。ストリーミングが当たり前のもの、メインストリームになっていくことで、それに対するオルタナティブが生まれていき、レコードやカセットなどの音楽パッケージが新しい楽しみ方として若い世代にも支持されてます。

ストリーミングより能動的な音楽との出会い方の最たる例は、レコード屋さんに飛び込み、直感を信じて内容も知らないレコードをジャケットの印象だけで選んで覚悟を決めて購入する、いわゆる「ジャケ買い」です。ギャンブルだとわかりつつも、わりかしジャケ買いしてしまう背景には、そのような売られ方がされているからかもしれません。レコード屋さんで、ぎっしりと並んだレコードのなかからどれを選べばいいかわからず、自分の知っているものを買う気にもならず、いっそのこと思い切って知らないものを買ってみようという心理が働き、ジャケ買いとう冒険をしてしまうのです。中身を知らずに買うとは言え、自分で選んだという満足感から無理やり納得することもあると思いますが、さすがに「これはない」ということもしばしば。もちろん最初は理解できなくても、聴いていくうちにだんだんと良さがわかってくることもあり、それもレコードならではの体験かもしれません。それはどんな作品でも、アーティストがつくった物として実在するアートだからこそ、手にとって聴いてみるという行為自体に価値を感じるものなのだと思います。ストリーミングであれば、一度気に入らなかったものは二度と聴き返すことはないでしょう。

ストリーミングは人間味がなく、ジャケ買いはリスクが高すぎる。では、自分にとって新しい音楽と出会うのに最良の方法は?それは、レコード屋さんで店員に自分の好みを伝え、おすすめを聞き、試聴してみて、気に入ったら買う、ということだと思います。それは、言うならばヒューマン・アルゴリズム。AIよりも音楽に精通した人間の感性のほうが良いとする考え方です。そうすることで、プロセスやシチュエーションも含め、ジャケットのイメージとともに作品の記憶が脳裏に焼きつく。現実的には物理的・心理的ハードルが高く、そのような出会い方をするチャンスはなかなか少ないと思います。シンプルに楽しい宝探しのようなレコード遊びを、もっと誰もがストレスなく気軽にできたらいいというのがgrcのコンセプトにあります。

自分でオンラインで目的の探しものを買うよりも、偶然「出会う」ワクワク感、アルゴリズムではなく人の顔が見えるオーガニックな関係性、アーティストの想いが込められた作品としてリアル世界に実在する手触り感。そして、何よりそのレコードを通じて出会う音楽によって刻まれる人生の記憶=Life Sound。そんな感覚をgrcのサービスを通じて届けたいと考えています。


Playful Music 音楽との遊び

もう一つのgrcのサービスの柱が、購買や所有よりも体験を重視した「音楽との遊び」。
レコードといえば所有欲を満たしてくれるものですが、大金を費やしたコレクションを誇示せずとも、レコードで遊ぶ体験は楽しめます。1980年代前半に「貸しレコード」というサービスが生まれた背景には、高くてレコードが買えないというニーズがありました。当時は、借りてきたレコードをカセットテープに録音して返すというのが一般的。週末のドライブデートのために、編集力を試されたとか。お金はかけずとも、手間暇かける分、体験の記憶として残るものがあったことでしょう。

僕は言わずもがなレコードが好きです。なぜかと言うと、単純に「楽しい」からです。レコードはもちろん音楽を聴く手段でもあるのですが、レコードにまつわるさまざまな要素をひっくるめて、音楽の「愉快な遊戯」であり、それ自体が目的になります。遊びなので、効率性は求めません。なにかと効率性が重視され、生きるペースが速くなり、コスパだけでなくタムパが求められる現代。好きなことくらいは手間をかけ、誰かと大切な時間と空間を共有することで、より深く思い出として残るもの。仕事終わりの金曜の夜に、清々しい日曜の朝に、「今日はレコードでも聴こうか」という選択が、遊びの要素として加わります。レコードを聴いている時間は、デジタルデバイスから流れてくる情報の波から解き放たれ、音楽に浸る豊かな感覚を醸成してくれます。日常にレコードという、やたらと手間がかかる「無駄なもの」があることで、生活の余白と体験の価値が生まれてくるように思います。

もちろんレコードではなく、ステレオなどの機材や音響にこだわるだけでも音楽を能動的に楽しむことができます。現代のようにスマートスピーカーでなんでも済ませてしまうのではなく、ステレオセットが一家に一台という時代には、自作でスピーカーやアンプをつくることも稀ではなかったといいます。技術の進化とともに、「よりコンパクトに、より手軽に」というニーズに応えてきたオーディオ機器ですが、ことアナログレコードに関しては、当時のものが最も適しているということもしばしば言われます。そして、機能が別々に分かれていて、自分でカスタムして楽しめる余地が大きいのも、ヴィンテージ機材ならではとも言えます。昔の機材は重くてデカいほうが高価になりがちです。物理的に時間と空間を支配してしまうこと、自分好みに手間ひまを加える楽しさ、そして針を落として再生する一連の行為が、アナログサウンドの醍醐味でしょう。grcでは、単に循環するものを選んだほうがエコであるというだけでなく、体験としてもより豊かであるという考えのもと、ヴィンテージものにフォーカスしています。

高価なオリジナル盤をアンティークとして蒐集すること、ジャケットをインテリアとして飾ること。そういったコレクションの楽しみ方だけではないレコードの楽しみ方とは?簡単に自宅でオーディオを体験できるようにするには?金持ちの道楽としてのオーディオではなく、誰でも自分好みの音を探す楽しみを味わえるには?レコードもオーディオも入り口は簡単にして、より「遊び」に集中するには?そんな考えを巡らせながら、レコードとオーディオという昔ながらの音楽の楽しみ方の新しい届け方を試みていきます。


古くて新しいレコードクラブ

レコードクラブという概念自体はレコードが広く普及した1950年代からあるもので、メールオーダー(通信販売)の会員向けレコード頒布会として、各レコードレーベルが運営しているケースが多かったようです。

日本では、1961年に始まった会員制レコードクラブ「アングラ・レコード・クラブ」(通称: URC)があり、「日本で最初のインディーズレーベル」とも言われています。当時の時代背景から「商業ベースにのり得ない」作品を自分たちの手でレコードで制作し、クラブ会員向けに配布するというのが設立趣旨でした。後にインディペンデントなレコード会社として、取次を介さずに全国の販売店と直接契約を結んでレコードの市販を行なったそう。このようなピュアでダイレクトな関係性が、カルチャーとビジネス、芸術と商業、作品と商品の間の矛盾を埋めるような気がします。good record clubというネーミングには、レコードクラブというサービスのコンセプトだけでなく、URCへのオマージュの意味も込められています。

そして、単に生産と消費という一方向の関係性ではなく、好きな人同士が集まって創ったり楽しんだりすることがぐるぐると回って循環していくようなサイクル。音楽を売ることが終わりではなく、手にした音楽から何かがはじまっていくこと。音楽を通じて人と人がつながり、新しいカルチャーが生まれる。個人にとってfeel goodであり、共有する相手とgood timeを過ごし、社会やコミュニティにとってもdo goodであることを目指し、”good"という言葉を冠しています。


貸しレコードという名のコミュニティ

僕自身が、音楽の素養を養ったのは、学生時代に住んでいた高円寺(東京都杉並区)にあったセレクトレンタルCDショップ 「small music」と、そのルーツである神保町(東京都千代田区)の「ジャニス」でした。お金のなかった当時、レンタルはありがたい存在で、なにより、店員さんのおすすめと、ゆっくりと試聴できる体験は他にはないものでした。ジャニスは、壁一面にCDで覆われた迷宮からお宝を探し出すアドベンチャーを楽しむ場所でしたが、small musicはこじんまりとした店内に、緑が見える窓辺に置かれた試聴席という静かな内省の時間を楽しむようなスペースでした。どちらも共通していたのは流行りの音楽ではなくインディーズ寄りのマニアックなセレクション。ここで出会った音楽たちは、いまでもデジタルファイルとしてバックアップして大切にとっています。

売れ筋のトレンドに流されることなく、お店のスタッフの音楽愛に導かれてセレクトされる品揃えと、そのライブラリーを一緒につくりあげる会員。まさに音楽好きによる音楽好きのための楽園のようなもののように感じられました。大手チェーン店とは異なる店づくりの本質には、コミュニティ性があったのだと思います。実際に初期(1980年代)のジャニスではジャニスオリジナルノートという交換日記のような形で、会員の人たちが、その作品についての感想や意見を書き込む、SNSさながらの楽しみ方があったようです。レコードというリアルなものを通じた交流からつながりが生まれていたのです。

貸しレコード店「LOFT」からスタートしたTSUTAYAの創業者の増田さん、avexを創業した松浦さんも貸しレコード店「友&愛」からスタートしています。それぞれ小売とメーカーの大企業となりましたが、会員とともに事業をつくっていくということの本質は同じだったのではないかと思います。

small musicはもう10年以上前に閉店していますが、1981年に貸しレコード店として開店し、音楽専門店として40年以上続いてきたジャニスが2022年10月23日に閉店したとのことで、なんとも感慨深いです。そして大変お疲れ様でした。スピリットを継承するというのはおこがましいですが、音楽愛に満ちたお店づくりを目指したいと思っています。


Analog Wellbeingという存在意義

レコードブームといわれる昨今ですが、ブームと共に製造納期の長期化や、中古価格の高騰などの問題も起こっています。特に、これからレコードをはじめたいと思っている人にとって、大きな問題の二つは、お金がかかるということと、知識が足りないということだと思います。人気なものや良質なものは価格が高くなり、そうでないものは安くなるというのは市場の原理ではありますが、もっと多くの人にレコードを楽しんでもらうには、40年ほど前に生まれた貸しレコードのような存在が必要なのではないかと考えます。そして、良質な音楽体験を気軽に楽しめるようにすること、レコードを通じてミュージックラバーの輪を広げていくこと、それこそがgrcの目指すところです。

現代においてレコードを嗜む行為は、進歩主義や消費文化に対するアンチテーゼであり、メインストリームとは距離を置く姿勢でもあります。アーティストによる音楽を通じた主張に自己のアイデンティティを重ねることもあります。教養や文化理解、アイデンティティの源泉としての音楽の重要性は、経済合理性第一の世の中では見過ごされやすくなっています。プライバシーやメンタルヘルスなどのデジタル化の弊害が指摘される中で、レコードのようなアナログな体験や、リアルな人とのつながりの重要性はいっそう増していくようにも思います。

音楽の持つ魅力を現代に翻訳し、音楽作品と向き合う体験を社会に解放していくこと。そして、アナログサウンドを通じて、人生を豊かにするような「いい音楽体験」をつくることが、grcの存在意義です。それを一言で表現したのが「Analog Wellbeing(アナログ・ウェルビーイング)」です。デジタル化されて削ぎ落とされてきたものにこそ、本質的な価値があると考えているのです。そして、バーチャルからリアルへの逃避を叶えてくれるのがアナログレコードだと思います。 (このテーマについては別の記事で詳しく書きたいと思います。)

そのようなミッションのもと、レコードクラブという事業を通じて、Analog Wellbeingなライフスタイル・価値観に共感してもらえる人々とともに新たなカルチャーをつくっていきたいです。

大変長文となりましたが、ここまでお読み頂きありがとうございました。

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