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「知る」体験とAIの成長について 第二回

第一回の記事では、我々の「知る」体験に必要となる「情報」について話をしました。
今回はよりAIについて詳しい話をしていきたいと思います。
前回も触れましたが、AIといっても万能でもなければ、無から有を生み出すシステムでもありません。情報を繋ぎ合わせて別のアウトプットを作れるのが生成AIの特徴でもあり、どうしても勘違いしてしまうところがあります。
ただし、今後AIを成長させることで、自分たちの知らない発見や新しいモノを生み出すことは可能ではないかとも考えられるのです。

現状の「知る」体験と、と目指す理想の「知る」体験

それぞれの「知る」体験とは

現状の「知る」体験は、あくまで検索や口コミでの第三者情報がメインになっています。
その体験には、具体的な情報の提示や、有象無象の情報の中から信憑性の高い情報を探して判断することが求められています。
例えば検索で言うと、具体的な検索条件を組み合わせて情報を絞り込むことが一般的で、その条件を複数サービスで入力する手間も発生します。それには一定の検索リテラシーが必要で、調べるための検索キーワードをどのように探すか、それはスキルによって左右されてしまいます。

反対に口コミは、曖昧な情報が膨大にある中で、自分の求めている情報の精度や質に辿り着くことが困難になってきているのが現状です。

もっとも、Chat GPTなどAIの発展によって、「知る」体験には変化が生まれましたが、こちらも同様にリテラシーの問題があります。AIとの対話スキルによっては、プロンプトを投げるにも時間がかかってしまいます。このように「知る」ための体験にリテラシーを求められる場面が存在します。

目指す理想の「知る体験」とは、曖昧なイメージでも具体的な答えに導いてくれることです。
それは主観も交えたものであればあるほど望まれています。
そこにはリテラシーの壁は少なく、知りたい情報に誰もが辿りつきやすくする未来が理想的です。
さらに求めている情報が多すぎる場合においても、パーソナライズされた「整理」や、「情報の信憑性」でのフィルタリングにより、適切な情報量で提供される未来はそう遠くないかも知れません。

理想の「知る」体験に必要なのはインプット

しかし、そのような具体的な答えに導いてもらうには、良質なインプットをしないと始まりません。
どんな複雑な仕組みでも、知らないことや、存在しないデータを基に判断することは不可能です。

例えば、「東京」から「青森」に旅行をしたついでに他府県のどこに行くべきかを知りたいときに、電車・新幹線や飛行機など交通手段の情報がないと移動距離のみで検討してしまうでしょう。
実際には道路事情、現地のイベント、趣味趣向など様々な情報を組み合わせて初めて最適解を得ることができます。

他にも生成AIでイラストを描く際に「可愛い絵」とプロンプトを投げても、AIのモデルが覚えている「可愛い」と、プロンプトの指示を出したユーザーの「可愛い」という感覚が必ず一致するわけではありません。そうなると何が正解か分からないままで提案されることになります。
また色々な提案をされた場合に精度を上げるためには、どれが正解でどれが間違っているかという「教師データ」と呼ばれるものを蓄積する必要があります。
では、「ないなら作ればいいではないか」と思われると思いますが、この「教師データ」を作るのがとても難しいのです。

鍵を握る「教師データ」を作るハードルとは

作るのが難しいというのは語弊があるかもしれません。
対象となる規模や何を目的にするかによって、そのハードルはとても高くなるという意味です。
例えば10代から60代の男女が幅広く使うサービスの教師データを作る場合、10代男性のAさんの正解のみで作ってしまうと、他の年代や性別の方に適した正解ではなくなる可能性が高いからです。
また同じ年代でも性別でも差異が生まれるので、色々な属性やデータの傾向値を基にセグメンテーションをした教師データとして機械学習をさせるべきです。

また、一個人によせたパーソナルの教師データについても、個人の趣向や考え方をインプットしていくために、自分で必要なデータを精査することや、入力するためのプロセスで負荷がかかってしまうことに課題が出てしまうことが多いです。

成長させるための、AIとのコミュニケーション

AIの成長を握る教師データ。それではそんな教師データを作るにはどうするか。
それは、サービスやプロダクトにAIとユーザー、AIと運営のコミュニケーションを構築していくことです。
前回にもありましたが、AIも一つのステークホルダーとして考えてみてください。
何も知らない新人をどのように学習するか、それをユーザー的にも管理的にも負荷のない形で実現することが、サービスにAIを組み込むことで今後重要になってくると思います。
それでは例を挙げながら、実際にどのようなことを考えるか少し説明します。

AIとの体験設計をする

ユーザーやサービスの運営側でどのようにAIとコミュニケーションをするかを整理していきましょう。
例えば旅行サイトのアシスタントで、旅行プランを提案するAIチャットボット機能を提供する場合、まずは旅行に関するデータを蓄積する管理・運営のコミュニケーションを構築しないといけません。
位置情報だけではなく交通・施設・イベントなどのデータが必要で、さらに鮮度を維持しながら定期的にアップデートさせる必要もあります。
次にユーザーにとってのパーソナライズさせるためのユーザ情報や属性を入力させる必要があります。普段から旅行する際の傾向値を細かく収集するといいでしょう。
このデータも旅行客全体のビッグデータとしても活用できるので、統計的な蓄積をしておきましょう。
ここで重要なのはユーザーの負荷をあげないことです。まだ価値も分からないボットにユーザーが時間を使って精度をあげるモチベーションは持ち合わせていないと思われます。

基盤ができてきたので、ユーザーに早速行動してもらうフローを作ります。
通常通りに旅行プランを作りながら、ボットから提案させます。
しかし、そのボットの提案も必ず当たるわけではないので、その提案がどれくらい最適だったかを評価してもらいます。
これが「教師データ」になるわけです。
このデータを蓄積することでAIは成長していきます。
ただし、ここでも問題になるのはユーザーはメリットのない行動をしないということです。
AIの成長はサービス運営側の都合であり、ユーザーからすると成長し切ったサービスを求めているからです。
上記にもある通り、その教師データを入れることのモチベーションをユーザーに持ってもらうのはハードルがとても高いです。

すぐには成果が出ないことを理解する

ここでユーザーがAIとコミュニケーションして成長していくプロセスには一定のハードルが存在することが、ご理解いただけたでしょうか。
それでは、それをどのように乗り越えていくのか。
それは「意識させない」が理想の形になります。
普段から自然な行動をする流れで、AIを成長させるプロセスが実現できればユーザーにとって負荷のない形で価値のある提供のあるサービスの下準備が可能です。
もう一つは徐々に精度を上げていくパターンもあります。
この方法はどこまでユーザーが期待しているかをリサーチなどしてユーザーの期待値を提供しながら仮説検証しながら進めていく方法でもあります。
こちらは市場へのサービスインも早いのが特徴的です。
どちらにせよ、AIをサービスに組み込んで理想的な「知る」体験を実現するためには時間が必要ですので、そのプロセスを提供する側だけではなくユーザーにも理解していただく必要があります。

理想の「知る」体験を実現するためには曖昧なイメージからでも「知りたいこと」が具体的な情報で得られることです。
そのためにはインプットとして教師データを作る必要があります。
それはすなわちどんなコミュニケーションをAIと行うのか、ということなんです。もちろんすぐに実現できるものではなく、AIをサービスに組み込んで理想的な「知る」体験を実現するのは時間も必要でしょう。
理想を求めているユーザーと、現実的にAIが成長しないといけない事情のギャップをユーザーに理解してもらいながら、地道にAIが成長していくUXを作っていきたいと考えています。

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