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Vol.8 人と自然と動物と、つながりの中で”居場所”を作る EPO

世の中で生まれているあたらしい働き方、"Good Job!"を見つけ出す取り組み、Good Job! project。2017年までのアワードで受賞した団体の今を取材しています。
Vol.8となる今回の団体は、静岡のNPO法人EPO。富士山の見える農園で、福祉事業を中心に、乗馬や農業、カフェ、子育てサークルなどさまざまな活動を通じ、居場所づくりに取り組んでいる団体です。

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EPO の始まりから、Good Job! Award 2016応募時のこと、入選後の変化。そして、いま取り組んでいることについて、EPOの高橋智さんにお話を伺いました。

ファーム(農園)を舞台に、広がる活動

—「EPO」の事業について 、簡単に教えてください。

EPOが目指しているのは、誰もが自分らしく活きられる場所を作ること。そのために、様々な事業を行なっています。
具体的には、障害福祉サービス(就労支援B型、就労移行、自立訓練、放課後等デイサービス)。それから子育てサークル(森のようちえんこだま、森のオープンアトリエニキッズ)などです。これらの舞台となるのが、ファーム(農園)です。

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例えば、「就労継続支援B型事業 EPO FARM」では、障がいのある方が農作業を中心に整備やワークショップのスタッフとして働きます。
お客さまや地域の方々と日々交流しながら、自主商品の製作や動物の飼育、農作業、飲食店厨房補助・羊毛加工・ワークショップなど幅広い作業の中から自分にあった職種の訓練が可能です。余暇活動には乗馬を行い、競技会へも参加しています。

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EPO FARMで製作している商品(羊毛製品)。他にも、キャンドル、卵、プリン・焼き菓子などを製作・販売している。

また、就労移行・自立訓練の場である「Cafe こばっちょ」をファームに併設。採れたての無農薬有機野菜を使用したお料理やスイーツを提供していて、地元の方々に大人気です。またカフェ内には、キッズスペースなどを作り、小さなお子様づれのお客様にもゆっくり滞在いただけるように工夫しています。

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caféこばっちょの人気メニュー、ラムカレー

子どもに関するものとしては「児童発達支援・放課後等デイサービス・保育所等訪問支援 LEAF」のほかに、家族やお友達と参加できる「Workshop 土のうえ空のした」や、子どもたちが自由にのびのびと絵を描ける「森のアトリエ ニキッズ」、1才~未就学の親子が四季を通じ、森、野原、川、牧場で半日を過ごすプログラム「森のようちえん こだま」などを行っています。

また「きょうだい支援 まめっこひとつ」も大事な活動のひとつ。この活動を通して悩みを相談しあえる仲間になってほしいという思いで、たき火を囲んでのんびりと子どもたちの心によりそう時間をすごしたりしています。

ほかにも、子ども・大人・障害のあるなしにかかわらず、馬とのふれあいを楽しめる「バリアフリー乗馬 うまLavie」という活動もあります。

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「森のアトリエ ニキッズ」は、毎月4回開催。1回500円で参加できる。

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「バリアフリー乗馬 うまLavie」では、引き馬・軽乗・乗馬レッスン等を体験できる。

「困った」から始まった、福祉事業EPOの原型

—EPOを始めるに至った経緯についてお聞かせください。 

活動の始まりは、子育てにおける「困った」だったんです。子どもたちがゲーム漬けになるのを目の当たりにして、それ以上に子どもたちが夢中になれるモノを探し求め、子どもたちに多くの学びや遊びを広げてくれるポニーの活動と出会いました。農場づくりの中で、障害児者との接点もでき、福祉事業EPOの原型ができました。

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かたちとしては、いちばんはじめは、小学校の放課後児童クラブとして2000年に発足したんです。その後、地域のネットワークづくりと地域に暮らす障がい児と健常児の交流イベントとして「動物ひろば」を2002年に開催しました。そこから、常設の馬介在教育・療育牧場ポニークラブを2006年に開設。さらに障がい者の就労の場作りを目的に、独立した組織としてNPO法EPOを2009年に設立、障がい福祉サービス事業インディ・ワークスを2010年に開所といった流れで突き進んできました。

—Good Job !Award 2016への応募のきっかけ、動機を教えてください。 

ボランティア活動から始まり、障害福祉サービス事業の立ち上げと就労支援事業など、やみくもに走って来た自分たちの取り組みや目指すものが客観的な視点でどう評価されるのか知りたかった、というのが応募の動機です。

—入選したことで、何か変化や影響はありましたか?

応募にあたって、これまでをふりかえり、整理し、言語化することで、スタッフ全体とEPOの今やこれからを共有できたことがよかったです。また、入選したことで、自信をもってこれでよいのだと思えるようになりました。

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自然や農業、動物たちとの暮らしの中で、それぞれにあった仕事をカスタマイズする。

—EPOの活動で、一番大事にしていることは何ですか? 

「朗らかに健やかに活きる」ことです。

スタッフも利用者さんも、自然と動物に囲まれ、自分も自然の一部であることを感じながら農場で暮らしています。農場にはたくさんの仕事がありますから、そのなかで自分ができること、やってみたいことを追求しながら、自分の仕事をカスタマイズすることが可能です。

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例えば、感覚過敏がひどく、特別支援学校を中退せざるをえなかった方がいました。中退後は家庭に引きこもっていたそうです。
週に3日、自立訓練で半日程度EPOに通い、自然の中を散歩するところからはじめました。現在は感覚過敏も調整できる範囲となり、毎日の就労支援作業では羊毛コースターに自分の得意な絵付けを行っています。その絵は散歩の途中にずっと見ていた昆虫たちです。
制作したコースターは敷地内のCaféで販売しています。自分の商品を、お客様に喜んで手に取ってもらい、工賃に繋がる実感を得ることができます。小さな循環ですが、幅広いEPOの取り組みが織りなす暮らしです。

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一枚一枚、丁寧に絵付けされた羊毛コースター

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羊毛製品をはじめ、様々な製品を制作、販売している。

時間をかけて丁寧に、まずその方に必要な健康的な暮らしを担保すること。多様な選択肢の中から好きなこと、興味のある事を通した作業をEPOの仕組みの中で組み立てること。それができると、チームの一員であることや自分の仕事に誇りを持てるようになります。さらに役に立っている実感を得られると、自然に笑顔になり会話が生まれ、ほぐれてゆきます。
こうした支援のかたちは、自然や農業、動物たちとの暮らしならではのものだと考えています。自然や動物たちの懐の深さに助けられて日々の生活が営まれているんです。

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地域の課題に、地域の方々と一緒に取り組む

—今後、EPOがチャレンジしたいことは何でしょうか?

今までは、法人内でEPOらしいライフスタイルをつくることに重点をおいてきました。でもまだまだ、様々な課題が残っています。それをどうクリアしてゆくのかと考えたときに、地域の方々と一緒に、地域の課題も引き受けながら、力を合わせていく、という方向が見えました。今後は、より地域に根ざした活動をしていきたいです。

—地域の課題とは?

障害児者の支援を通して見えてきた課題があります。障害を持つ子どもたちのきょうだいの育ちや、家族の暮らし。福祉制度の対象ではない、学校に行けない子どもたちや社会のシステムに乗れない若者たち。
地域の耕作放棄地や高齢化した方々の孤立。農家さんと一緒に考える野菜の種と食のこと。人に使われ生きてきた馬たちの余生のこと。
目を背け、見て見ぬふりではいられない現実があります。

これまでは、できるだけEPOの活動の中で循環し完結するようにやってきました。無理なく、小さな調整で済む取り組み方です。

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でも、自分たちの事だけではだめだという思いを強くもつようになりました。いかに、みんなで力を出し合い、担い合っていく仕組みをつくるか。それが課題です。その課題に向かってEPOに何ができるのかを考えています。

まずは、地域にある耕作放棄地や空き家のあるフィールドを活用すべく、地域の方々と協議会を発足しました。EPOは事務局的な役割を担当し、それぞれができることを持ち寄り、活動したり、発信したりする予定です。また、EPOの利用者さんがその場所の整備や清掃を請け負い、その場所が活用されることで、利用者さんの工賃も上がってゆく仕組みになっています。新たに、若年性認知症の方々の働く場も作っていきたいと思っています。地域の有志メンバーによるBaseづくりの後には、様々な企業ともコラボする予定です。

* 地域協議会のfacebookページ『ForestGarden土のうえ空のした』はこちら

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これからは、より地域に根ざした活動をしていくというEPO。豊かな循環を生み出し続ける団体の次の展開。とても楽しみです。

(構成、text:井尻貴子)

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NPO法人 EPO
HP:http://epo-farm.com/
FB:https://www.facebook.com/npo.epo/

●『Good Job! Award受賞団体のその後』バックナンバー

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