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「自分なんて。」を超えた場所で -ミナトマチファクトリーで働くスタッフと訓練生の挑戦

質の高いオリジナリティあふれるデザインの雑貨や商品を作り続けている長崎のMINATOMACHI FACTORY(ミナトマチファクトリー)さん。

「働きたいけど自分にあう仕事がわからない」「働きたいけど自信がない」という人たちを招いて一緒に行う「しごと」や「ものづくり」のプロセスの中で、人が学んだり、成長する過程に何度も立ち会ってきた代表の石丸さんに、あたらめてお話を伺ってみました。

みんな➕まち=ミナトマチ

ミナトマチファクトリーさんは、全国でもまれにみる 個性を思いやる福祉のこころ + シビアなビジネスのマインドの両方を兼ね備えたユニークな就労支援団体さんです。

お馴染みこちらのプロジェクトでも(先日のこちらでも)ご一緒させて頂いていた団体さんなのですが、長崎のこの場所でしか生まれないような魅力的なオリジナル商品を開発して、実際に自分たちで作って、販売しています。

事業所は佐世保に2カ所、諫早(いさはや)、8月に設立したばかりの大村の3地点。支援員さん、スタッフといわれる障害を持っている訓練生の方たちを含めると、100名近い人たちが働いています。

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決まった座席はなくフリーアドレス。

就労支援所なのに株式会社?

障害を持った方の職業訓練的な就労支援所という役割を担いながらも、作った雑貨などの商品を手にとった方に喜んでもらうための質の高い商品づくりには余念がありません。

「障害を持ったスタッフたちは、職員よりもデザイン力など能力が高い人が多い。僕たちは彼らの才能でなりたっています。」そうキッパリ言い切るのは代表の石丸さん。

「職員もスタッフ(障害を持つ当事者の人たち)も同じフィールドに立って、誰が素晴らしいプロダクトを作れるか。それから他の人の仕事を作れるか。という同じ視点を持って競争しながら日々制作に励んでいます。」

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(左)長崎ならではの宣教師やシスターをモチーフにした布製マスコット
(右)長崎小浜の温泉名物湯せんぺい。通常で回っているものは紙のパッケージですが、クラッシックなこのパッケージを捨ててしまうのはもったいない!と作成した布バージョン。食べ終わった後も、トイレットペーパーを入れておいておけるそうです。(発想がエコです!)

もともとフォーオールプロダクト株式会社という石丸さんが立ち上げた会社法人が経営をしています。

障害者支援ながらも母体は株式会社というチャレンジングな法人形態をとったのはなぜなんでしょう? 

それは、会社の方がスピーディにみんなで決めたことを行動に移せるということと。障害を持っていても経済的自立ができるようになるために、訓練を受けにくる人には、世間のニーズをキャッチして、自分の仕事をするというステージに立つ体験をシビアに経験してもらいたかったそうです。それは、障害のあるなしではなく、一人の責任のある仕事をしていくクリエイターやデザイナーとして。

その結果、職員さんより高い時給で模擬就労されている訓練生の方や普通の賃金よりもずっと高いお給料をいただいて事務所内で仕事を受けるフリーランスのデザイナーの方もいるそう。

働く人のモチベーションの向上や自己実現の観点からも、組織というチームのバランスの面からも、会社という形態が今まではあっていたそうです。

自分はやったことがないからできるわけないっていう思い込みを外す

事業所の職員さんにはデザインを学んできた人はほとんどおらず、デザインについてはほぼ未経験の状態で入社します。ですが、職員さん含めみんなが未経験ながら、プロダクトデザインや商品開発には積極的に関わるそうです。本来は、”支援業務”を学んできている職員さんたちに、デザインという未経験の分野に率先して取り組んでもらうことで、「これから新しいことにチャレンジするぞ。」という空気を事務所内に浸透させる狙いがあるんだとか。

「やったことがないからできない」という自分が将来なりたいものに対してのブロックを外して欲しいと石丸さんはいいます。そう。無意識に自分が自分にかけてしまう成長やワクワクの可能性のブロックを。

「私なんて。」を超えた場所で。

例えば、この写真の可愛い豆菓子のパッケージ。
コメダ珈琲さんでコーヒーを頼むとサービスでついてくるこの可愛い豆菓子は毎年春夏秋冬と季節でイラストが変わるものです。このパッケージを今年1年担当することになったのはミナトマチファクトリーで働くmegumiさん。

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このデザインをしたmegumiさんは、ワードやエクセルなどは使っていましたが、自分が絵を書くなんて一切思っていなかったそうです。でも、たまたま一般のひとと一緒のコンペのおなはしがあり、スタッフのみんなで絵作りに取り掛かってみたところ未経験のmegumiさんの作品が選ばれたのです。

本人にその気はなくても、人から認められた瞬間大きく変わるものがあります。― とは石丸さん。引っ込み思案だった人も、自己表現とか「もっと学びたい。」っていう気持ちが増えていく。

「自己肯定感が低いときは、どうしても『私なんて』『私が作ったものなんて』っていう気持ちがあります。
でも商品が生まれると、結果だけしっかり持って帰ってくれるんです。
自分のことを知らない誰かが、自分が生み出したものを手に取って『可愛い』と喜んでくれたり、実際に購入してくださったりする場面を見ると『私の商品なんか買ってくれる人なんているのかな…』から『もっと喜んでもらえるためにいいものを作ろう」へ、心が変化するスイッチがはいります。」

そのスイッチが一度はいるとどんどんアグレッシブになってきて、自然とコミュニケーションがスムーズにできるようにもなるそうです。

作り手の作品の魅力を引き出すことができる“道具”

絵を一人で描くだけでは自己満足の域で終わってしまうかもしれないけれど、自分の書いた絵が製品化されて、誰かが喜んで買って使ってくれたり、それで働いた結果の対価としてのお給料をもらえる喜びが回って巡って、本人に帰ってくる。そのためには? 

―より多くの人が 欲しい!と思ってくれるものを作り出す商品力が必要になってきます。

そこで出てくるのがfab(ファブ)と呼ばれるデジタルもの作り機材。

今まで、雑貨のもの作りを外の別の業者さんに外注して頼んでいた石丸さんたちは、徐々に自分たちでものづくりの機材を買って、事務所で多くの制作作業をするようになります。すると。それまで「仕事をください。」とこちらからお願いしていた他の企業さんとの関係が一変。必要な機材を自分たちで揃えたことで、今は企業さんの方から「こういうもの作ってもらえませんか?」とお願いされて、自分たちの技術でお返しできるようになったそうです。

そもそも導入した理由は、巷に魅力的な雑貨を上手につくる手作り作家さんがどんどんネット上でも増えてきて。

“そんな上手な作家さんを上回る、きっちりした質の高い魅力的な商品を作っていかないと、製造メーカーとして勝負ができない” 環境になっていた危機感からでした。

「僕たちは活動自体が収入につながったり、自立につながったりといった状態を意識して作るようにしています。絵を書くだけでなく、書いてもらった絵を商品にしたいため、いろんな機材を使っています。」と、石丸さん。

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テント生地に長崎名物の観光スポットが印刷されたカードケース。
細かい線や色合いが綺麗に印刷されています。

細ーいタッチで繊細な線の絵を描く書き手さんの作品。今までのコットンなどの素材で普通に印刷をかけると線が潰れてしまっていたのが、ターポリンやレーザークロスなどの素材は小さな線も上手に表現してくれるのだそう。

「繊細な線を描く作家さんの作品の魅力を引き出してくれるので、素材によって作家さんとの相性があります。」

こうした繊細な線も調整して、印刷する特殊な機械を扱うスタッフさんができたことで、機材を扱う専門職として、「オペレーター」の立ち位置を作ることができました。

「特殊な能力がないと、スターにはなれない。と思っていた人たちが機材の使い方を覚えたことで、自分の仕事に誇りを持ったり、イニシアティブをとってくれています。」

“新しい“道具”としての機械を取り入れることで、関わるいろんなスタッフに変化が生まれている様子、少しずつ人としても成長するための仕事づくりになっている様子がよくわかりました。

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次回も後編として、ひき続きミナトマチファクトリーさんに、コロナ渦の現在の新しい取り組みをお聞きします。

⭐︎後編はこちら⭐︎ ↓

(Uga)













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